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03.第二、第三の問い──魔術師と狩人
しおりを挟む「では、次は私だな」
初めて経験する謎掛けでの敗北に怪物が狼狽えている隙に、そう言って進み出たのは魔術師の男である。背が高く理知的な顔立ちの、歳は二十代前半から半ばというところか。
魔術師は顔にかけたメガネを右手中指でくい、と押し上げ、挑戦的な眼差しを怪物に向ける。
そうして、回答できなかったショックから未だ立ち直れぬ怪物に向かって、彼は問いを発した。
「毎日毎日、朝も昼も夜もそれは走り続けて止まることをしない。細身の者がもっとも速く、次に長身の者が速く、短躯の者はもっとも遅い。細身の者は相棒たちを何度抜き去っても待つことをせず、長身の者と短躯の者は何度抜かれても挫けることもない。互いが互いのペースを守り、止まることなく同じ場所をひたすら走り続ける。そは何ぞ」
『…………は?』
これもまた、怪物の知識にはないものであった。立て続けに答えられぬ謎掛けを示されて、怪物はますます混乱した。
この問いの答えは「時計」である。長針と短針、それに秒針はそれぞれ文字盤の上を一切止まることなく進み続けて、時を刻む。そして人間はそれを見て現在の時刻を正確に知ることが出来る。ある意味で文明の利器の最たるものである。
だがこれも、怪物は知らなかった。
それもそのはず。この世界には時計などというものがないからだ。そもそもこの世界で時を測るものといえば、真ん中をくびれさせた硝子の筒に色砂を封入してくびれの片方に集め、それを縦に固定して色砂が下に落ちきるまでの時間を測る“砂振り子”という魔道具が一般的である。
砂振り子は異なる大きさのものが五種類あり、それぞれ落ちきるまでにかかる時間が異なっている。それらを組み合わせて、この世界の人間たちは時を知るよすがとしている。
いや、正確には時計はある。ただしそれは新しくこの世にできたばかりのものである。出題者であるこの魔術師が記憶を頼りに作り上げ、その試作品を愛用しているのだ。
この魔術師の男、何を隠そう異世界からの転生者である。この世界とは異なる世界の、ニホンという国に生まれ育った記憶を持つ彼は、記憶を頼りにかつて生きていた世界に当たり前にあったものを試行錯誤して再現し、そして愛用している。
その多くはこの世界の人間たちには馴染みのないものばかりで、そのため彼はちょっとした変人扱いをされているのだが、それはまあこの際関係ないことだ。
そして人類社会に新しくできたばかりのものを知る手段など、怪物には無かった。
『(知らん、知らんぞそんなもの……!一体なんだというのだ!?)』
「ふふふ。さすがの怪物でも知らないようだな」
(知るわけ無いだろ。魔術師以外誰も知らんわ)
(わぁ~これは怪物くん可哀想。答えられるわけないよ)
(ほんと魔術師、性格悪いですねぇ……)
魔術師の後ろで勇者候補と狩人、そして法術師が冷ややかな目をしていたが、魔術師が気付くはずもない。
「さて、答えられぬということでいいかな?」
『そ、そんなものは存在せぬ!答えられぬ謎掛けなど無効であろう!』
「何を言う。コレのことだ」
そう得意げに言って魔術師が懐から取り出したのは、チェーンに繋がれた蓋付きの時計。いわゆる懐中時計と言うやつだ。
魔術師が蓋を開くと、丸い文字盤の外周に並べられた12個の数字と、文字盤の中心で固定され円を描くように忙しなく動く三本の針が現れる。
「教えてやろう、これが“時計”というものだ。私の発明した最新式だぞ。⸺ほら、細身が長身と短躯を何度も追い抜いているだろう?」
『知らぬわそんな物!もっと一般的なものを題材にせぬか!』
「後付けのルールを持ち出すとは潔くないな。それならそうと最初からそう言っておくべきだろう?」
『ぐぬぬ……!』
(((ホント、性格悪いな……)))
ともあれ、手段はともかく魔術師も怪物に勝利した。後に魔術師は「勝てばいいのだよ勝てば」などと言い放って、仲間たちからより一層軽蔑の目を向けられることになるのだが、それはまた後日のことである。
「じゃ、次はボクかな」
そう言って軽やかに前に出たのは狩人の少女だ。少女とはいえ彼女は森妖精なので、実はこの中で怪物を含めても最年長だったりするのだが。
彼女は大きな翠色の目を輝かせ、その小柄な肢体で怪物と向き合った。
『……二度は言わんぞ。今度卑怯な真似をしようものなら、汝ら全員喰い殺してくれるわ』
「あはは~。ボクは魔術師とは違うからね!そんなに警戒しなくたっていいよ!」
完全に不信の目になっている怪物に、狩人は朗らかに笑いかけて、そして。
「じゃあ問題⸺」
『ま、待て!』
「なあに?どしたのかな?」
『今度は我の出題する番ではないのか!』
怪物の精一杯の抵抗であった。これ以上ペースを乱されてなるものか。
「えー?君が1問出して、ウチの四人のうちふたりが1問ずつ出したよね?でもボクと勇者はまだ出題してないじゃん!」
全員が1問ずつ出題して、それで一巡でしょ?そう言われては怪物も黙り込むしかなかった。4対1で卑怯だと思わなくもなかったが、それを言うなら最初に全員で挑んでもいいと言ったのは怪物自身であり、今さら1対1などと言える雰囲気でもなかった。
「じゃあ、改めて」
怪物からそれ以上の反論が出ないのを確認して、エルフの狩人は自信満々に出題した。
「I’m tall when I’m young and I’m short when I’m old. What am I?」
『待て待て待て!』
「ん?どしたの?」
『何だその言葉は!?』
「何って……下位エルフ語だけど?」
『現代ロマーノ語で出題せんかあ!』
よりにもよって、まさか理解不能な言語で出題されるとは夢にも思わなかった。
「ええ~?それならそうと最初からそう言っておくべきじゃない?」
『ぐぬぬう……!』
(うわあ……絶対面白がって魔術師の真似してる)
(何が「魔術師と違う」だよ……)
「うむ、そうだな。確かに言語指定などなかった」
((いやオマエが言うな!))
結局、この問題も怪物は答えられなかった。そもそも理解ができなかったのだから無理もない。というか、人類ならぬ怪物の身で人類言語を解するだけでも褒められて然るべきであり、それ以上をこの怪物に求めるのも酷というものだろう。
ちなみに、先の問いはこの西方世界の共通語である現代ロマーノ語に訳せば「若い時は背が高く、年を取ると背が低くなるものは何?」であり、答えは「蝋燭」である。理解できる言語で出題されてさえいれば、怪物にも解けたはずの問題であった。
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