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一章【辺境騎士団ゴロライ分隊】
02.ゴロライという町
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思ったより書き進められているので、行けるとこまで更新を「2日に1回」に早めます。
ストックが尽きたら更新頻度は落ちると思います。
(↑んなこと言ってねえで書け)
ー ー ー ー ー ー ー ー ー
「っプハァ~~~ッ!」
新しく持って来させたジョッキを豪快に呷り、喉を鳴らして飲み干したパッツィが満面の笑みで息を吐く。
「ほらまたプハァって言ってる」
それを呆れつつ見ているのは若手騎士のウィットだ。まだ19歳の若い彼の目には、パッツィの姿がもはや酔いどれオヤジにしか見えない。
「いや、あれはああなるだろ」
こちらは本物のオヤジこと、ベテラン騎士のオーサムである。年齢も39歳なので、名実ともにまごうことなきオッサンである。
「喉鳴らして飲むと、まあ自然とああなっちゃうわよねえ」
そしてオーサムに同意するのはオネエ騎士のトラシュー。本人は頑なに年齢を明かそうとしないが、実のところ見た目的にもオーサムとあまり変わらない歳のはずである。本人もよく「アラヤダ、目尻の小ジワが」とか「イヤねえ、また白髪だわ」とかコッソリ呟いてるし。聞かれてないなどと思ったら大間違いである。
「アーニー、お代わり!」
「はぁい、今行きますね!」
「いや分隊長、もうそろそろ止めたほうがよくないっすか」
「何を言う!飲まずになどやってられるか!」
「んまあ、完全に暴走モードだわね」
「これ潰れるまで止まんないっすよ」
「はいエール!お待たせ分隊長さん!」
「ああ、ありがとうアーニー!」
「あっはっは!いいぜ、最後まで付き合ってやるよ分隊長!」
次々とジョッキを空けるパッツィに対し、同席の騎士3人は無責任な言動に終止している。実のところこのままパッツィが酔い潰れたら、彼女を家まで送るのはアーニーになるだろうな、なんていう打算が働いてたりしなくもない。
まあ少なくとも、自分が送り届けるのは御免こうむる、なんて全員が考えているのは間違いない。
「そういえば、今日はスタッドは来なかったな」
「……あの子は今日も夜のお勤めがあるって張り切ってたわねえ」
「うわ出た、また種馬やってんすかあの人」
分隊の第四小隊長スタッドは均整の取れたスラリとした長身と、程よく鍛えられた筋肉が美しい美丈夫である。分隊でも1、2を争うイケメンなので、町の娘たちにいつでも大人気だ。なので彼は常日ごろから「女には不自由したことがない」と放言している。
ついでに言えば第四小隊は小隊長以下ほぼ全員がイケメン揃いで、ゴロライ分隊の中でも異彩を放っている。
「あの程度のレベルなら、王都にはいくらでもいるからそんなに珍しくもないだろう?」
「そりゃ王都は大都会っすからね、こんな辺鄙な田舎町どころじゃないんだから、比べるほうが間違ってるっすよ」
「ていうか、この町で王都を知ってるのなんてアンタくらいだぞ分隊長」
「え、そうか?」
オーサムの言葉にキョトンとするパッツィ。
「いや普通、成人の儀の際に行くだろう?」
(成人で王都に上がるのは貴族だけだぜ分隊長)
(やっぱこの人、お貴族様なんすね……)
(そろそろ止めようかしら。素性がバレていいことなんてないものねえ)
ゴロライは辺境の町、それも地図にも載っていない、名前すらない町である。なぜかというと、この地が長きに渡ってアングリアとカムリリアの係争地だったからに他ならない。
そうした土地がアングリアに征服されれば、アングリアでは当然地図を作成し土地に名前をつける。だがしばらくするとカムリリアが奪い返し、そして地名を書き換える。それが繰り返された結果、どちらの側もこの地に名前をつけることを止めてしまった。どうせ奪われるのなら、名付けたところで意味などないのだ。
だからアルヴァイオン大公国の“国邦”となりカムリリアの一地方として確定したあとも、この地には名前が付けられなかった。そもそも住む人もいない、戦乱で荒れ果てた土地だったから、名付ける必要もなかった。
それがどうして今現在、町になっているのか。それはゴロライの北西に、ポツンとそびえるひとつの名もなき低山があったからである。
戦乱の世が終わり平時の生活が始まると、近隣の各都市、ことに街道筋のカムリリア最後の街であるチェスターバーグで、建築用木材の需要が増した。そこで目をつけられたのが、チェスターバーグからもっとも近いこの山の山林だったのだ。
チェスターバーグから現在のゴロライまでは徒歩で約1日の距離がある。馬車や、馬よりも大きく力強く脚も早い脚竜車を使えば半日かそこらで山までたどり着くとはいえ、そこで木材の伐採や加工をするとなると必然的に泊まり仕事になってしまう。それで、木こりたちを中心に山麓に居を構える者が現れるようになったのだ。
人が住めば経済が動く。生活のために必要な各種の需要が発生し、それを目当てに商人たちや職人たちがやって来て、生活の基盤が整えば人は自然と集まってくる。林業従事者だけでなく山の獣を狩る猟師も、町の北東を流れるデウァ川を目当てに漁師も住み着くし、彼らが家族を呼び寄せたり新たに家庭を築いたりして、そうして町は少しずつ大きくなってゆく。
だというのに相変わらず、町には名前がつけられなかった。これ自体はよくあることで、街道から離れた山村などの小さな集落ではむしろ当たり前のことだから、誰もそれを不思議に思わなかった。
だがさすがに、呼び名が何もないというのは住民たちにとっては不便極まるというもの。だから誰ともなく呼び始めたのだ。そう“辺境”、と。
そして全く同じ経緯で、町の北西にある山もまた今では“ゴロライ山”と呼ばれるようになっている。
「あっそういや分隊長、さっき食った香草の包み焼き、美味かったっすよ」
「お、そうか。じゃあ私も頼もうかな」
(ウィット、ナイス判断だ)
(さすがに人に聞かれたらヤバそうだったんで)
(アンタもそこらへんの機微ってものが分かってきたわねえ)
そんな辺境、つまりゴロライに集まってくるのは、何も真っ当な者たちだけではなかった。何しろ地図にも載らない、公式には名前すらない町なのだから、ワケありの人間が隠れ住むにはうってつけなのだ。
そして立地的にもこの街は、カムリリアとアングリアの国境にほど近い。つまりどちらの側からもそうしたワケありの人間が流れてくるわけである。
カムリリア人にとっては仮に追手が迫っても、アングリアに逃れてしまえば振り切れる。アングリア人にとっては、最初から越境しておいてしまえばかなりの時間稼ぎになるだろう。
そんなわけでゴロライの人口比率はカムリリア人がおよそ6割、アングリア人がだいたい4割というところ。アルヴァイオン大公国の残りの二国、北部のカレドニアや最西部のヒベルニアの出身者が皆無かどうかは分からないが、居たとしてもおそらく相応に少ないはずである。そしてもし居れば、そいつらも高確率でワケありのはずなのだ。
だからこの町では、ほとんどの住人が自分の素性を明かさない。なんなら偽名を使っていてもなんの不思議もないのだ。ほとんど誰しもがそうなものだから互いに尊重して素性を調べたりなどしないし、誰か余所者が町に入り込んだとしても誰も協力しない。だって誰かを売れば、次は自分が売られるのだから。
そしてそれは住民たちだけでなく、分隊員たちにとっても同じことである。辺境騎士団の求めるのは戦える力と忠誠心であり、この辺境全体を指すテゲイングルの地を治めるフリント伯爵家への忠誠を誓う限り、滅多なことでは解雇にはならない。
さらに言えば騎士団の小隊長以上は正規軍組織の正規の役職であるため、公的な身分として保障される。だから仮によその土地で犯罪者であったとしても、この地で小隊長あるいは分隊長、中隊長などに任命されている限りは身分と身の安全が保障されるのである。
(多分きっと分隊長も……)
(それ以上はナシだぜ、ウィット)
(パッツィはパッツィ、アタシたちの愛すべき上司よ。だからもうそれでイイじゃない)
(……っすね)
だからパッツィも、おそらくはそうしたワケありのひとりだと、彼女とある程度親しい分隊員なら大半が解っている。
だがそれがどうしたというのか。町と分隊と、各隊員個人に不利益をもたらさなければ、彼女がどこの誰であろうと何も問題はないのだ。
「ううぅ……ゲェェップ」
「あっやべ、オヤジ度が増してるっすよ!」
「ああもうほらパッツィちゃん、一旦トイレ行きましょトイレ」
「さすがにこればかりは、トラシューが居て助かったと思えるな」
いや普通にアウトだが。
だが彼女でなければ子供みたいに小柄な体躯の猫人族のミリにやってもらうしかなくなる。パッツィはこれでも騎士を7年もやってきてそれなりに鍛えてもいるから、彼女の介抱はミリには少し荷が重いだろうと思われた。
ストックが尽きたら更新頻度は落ちると思います。
(↑んなこと言ってねえで書け)
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「っプハァ~~~ッ!」
新しく持って来させたジョッキを豪快に呷り、喉を鳴らして飲み干したパッツィが満面の笑みで息を吐く。
「ほらまたプハァって言ってる」
それを呆れつつ見ているのは若手騎士のウィットだ。まだ19歳の若い彼の目には、パッツィの姿がもはや酔いどれオヤジにしか見えない。
「いや、あれはああなるだろ」
こちらは本物のオヤジこと、ベテラン騎士のオーサムである。年齢も39歳なので、名実ともにまごうことなきオッサンである。
「喉鳴らして飲むと、まあ自然とああなっちゃうわよねえ」
そしてオーサムに同意するのはオネエ騎士のトラシュー。本人は頑なに年齢を明かそうとしないが、実のところ見た目的にもオーサムとあまり変わらない歳のはずである。本人もよく「アラヤダ、目尻の小ジワが」とか「イヤねえ、また白髪だわ」とかコッソリ呟いてるし。聞かれてないなどと思ったら大間違いである。
「アーニー、お代わり!」
「はぁい、今行きますね!」
「いや分隊長、もうそろそろ止めたほうがよくないっすか」
「何を言う!飲まずになどやってられるか!」
「んまあ、完全に暴走モードだわね」
「これ潰れるまで止まんないっすよ」
「はいエール!お待たせ分隊長さん!」
「ああ、ありがとうアーニー!」
「あっはっは!いいぜ、最後まで付き合ってやるよ分隊長!」
次々とジョッキを空けるパッツィに対し、同席の騎士3人は無責任な言動に終止している。実のところこのままパッツィが酔い潰れたら、彼女を家まで送るのはアーニーになるだろうな、なんていう打算が働いてたりしなくもない。
まあ少なくとも、自分が送り届けるのは御免こうむる、なんて全員が考えているのは間違いない。
「そういえば、今日はスタッドは来なかったな」
「……あの子は今日も夜のお勤めがあるって張り切ってたわねえ」
「うわ出た、また種馬やってんすかあの人」
分隊の第四小隊長スタッドは均整の取れたスラリとした長身と、程よく鍛えられた筋肉が美しい美丈夫である。分隊でも1、2を争うイケメンなので、町の娘たちにいつでも大人気だ。なので彼は常日ごろから「女には不自由したことがない」と放言している。
ついでに言えば第四小隊は小隊長以下ほぼ全員がイケメン揃いで、ゴロライ分隊の中でも異彩を放っている。
「あの程度のレベルなら、王都にはいくらでもいるからそんなに珍しくもないだろう?」
「そりゃ王都は大都会っすからね、こんな辺鄙な田舎町どころじゃないんだから、比べるほうが間違ってるっすよ」
「ていうか、この町で王都を知ってるのなんてアンタくらいだぞ分隊長」
「え、そうか?」
オーサムの言葉にキョトンとするパッツィ。
「いや普通、成人の儀の際に行くだろう?」
(成人で王都に上がるのは貴族だけだぜ分隊長)
(やっぱこの人、お貴族様なんすね……)
(そろそろ止めようかしら。素性がバレていいことなんてないものねえ)
ゴロライは辺境の町、それも地図にも載っていない、名前すらない町である。なぜかというと、この地が長きに渡ってアングリアとカムリリアの係争地だったからに他ならない。
そうした土地がアングリアに征服されれば、アングリアでは当然地図を作成し土地に名前をつける。だがしばらくするとカムリリアが奪い返し、そして地名を書き換える。それが繰り返された結果、どちらの側もこの地に名前をつけることを止めてしまった。どうせ奪われるのなら、名付けたところで意味などないのだ。
だからアルヴァイオン大公国の“国邦”となりカムリリアの一地方として確定したあとも、この地には名前が付けられなかった。そもそも住む人もいない、戦乱で荒れ果てた土地だったから、名付ける必要もなかった。
それがどうして今現在、町になっているのか。それはゴロライの北西に、ポツンとそびえるひとつの名もなき低山があったからである。
戦乱の世が終わり平時の生活が始まると、近隣の各都市、ことに街道筋のカムリリア最後の街であるチェスターバーグで、建築用木材の需要が増した。そこで目をつけられたのが、チェスターバーグからもっとも近いこの山の山林だったのだ。
チェスターバーグから現在のゴロライまでは徒歩で約1日の距離がある。馬車や、馬よりも大きく力強く脚も早い脚竜車を使えば半日かそこらで山までたどり着くとはいえ、そこで木材の伐採や加工をするとなると必然的に泊まり仕事になってしまう。それで、木こりたちを中心に山麓に居を構える者が現れるようになったのだ。
人が住めば経済が動く。生活のために必要な各種の需要が発生し、それを目当てに商人たちや職人たちがやって来て、生活の基盤が整えば人は自然と集まってくる。林業従事者だけでなく山の獣を狩る猟師も、町の北東を流れるデウァ川を目当てに漁師も住み着くし、彼らが家族を呼び寄せたり新たに家庭を築いたりして、そうして町は少しずつ大きくなってゆく。
だというのに相変わらず、町には名前がつけられなかった。これ自体はよくあることで、街道から離れた山村などの小さな集落ではむしろ当たり前のことだから、誰もそれを不思議に思わなかった。
だがさすがに、呼び名が何もないというのは住民たちにとっては不便極まるというもの。だから誰ともなく呼び始めたのだ。そう“辺境”、と。
そして全く同じ経緯で、町の北西にある山もまた今では“ゴロライ山”と呼ばれるようになっている。
「あっそういや分隊長、さっき食った香草の包み焼き、美味かったっすよ」
「お、そうか。じゃあ私も頼もうかな」
(ウィット、ナイス判断だ)
(さすがに人に聞かれたらヤバそうだったんで)
(アンタもそこらへんの機微ってものが分かってきたわねえ)
そんな辺境、つまりゴロライに集まってくるのは、何も真っ当な者たちだけではなかった。何しろ地図にも載らない、公式には名前すらない町なのだから、ワケありの人間が隠れ住むにはうってつけなのだ。
そして立地的にもこの街は、カムリリアとアングリアの国境にほど近い。つまりどちらの側からもそうしたワケありの人間が流れてくるわけである。
カムリリア人にとっては仮に追手が迫っても、アングリアに逃れてしまえば振り切れる。アングリア人にとっては、最初から越境しておいてしまえばかなりの時間稼ぎになるだろう。
そんなわけでゴロライの人口比率はカムリリア人がおよそ6割、アングリア人がだいたい4割というところ。アルヴァイオン大公国の残りの二国、北部のカレドニアや最西部のヒベルニアの出身者が皆無かどうかは分からないが、居たとしてもおそらく相応に少ないはずである。そしてもし居れば、そいつらも高確率でワケありのはずなのだ。
だからこの町では、ほとんどの住人が自分の素性を明かさない。なんなら偽名を使っていてもなんの不思議もないのだ。ほとんど誰しもがそうなものだから互いに尊重して素性を調べたりなどしないし、誰か余所者が町に入り込んだとしても誰も協力しない。だって誰かを売れば、次は自分が売られるのだから。
そしてそれは住民たちだけでなく、分隊員たちにとっても同じことである。辺境騎士団の求めるのは戦える力と忠誠心であり、この辺境全体を指すテゲイングルの地を治めるフリント伯爵家への忠誠を誓う限り、滅多なことでは解雇にはならない。
さらに言えば騎士団の小隊長以上は正規軍組織の正規の役職であるため、公的な身分として保障される。だから仮によその土地で犯罪者であったとしても、この地で小隊長あるいは分隊長、中隊長などに任命されている限りは身分と身の安全が保障されるのである。
(多分きっと分隊長も……)
(それ以上はナシだぜ、ウィット)
(パッツィはパッツィ、アタシたちの愛すべき上司よ。だからもうそれでイイじゃない)
(……っすね)
だからパッツィも、おそらくはそうしたワケありのひとりだと、彼女とある程度親しい分隊員なら大半が解っている。
だがそれがどうしたというのか。町と分隊と、各隊員個人に不利益をもたらさなければ、彼女がどこの誰であろうと何も問題はないのだ。
「ううぅ……ゲェェップ」
「あっやべ、オヤジ度が増してるっすよ!」
「ああもうほらパッツィちゃん、一旦トイレ行きましょトイレ」
「さすがにこればかりは、トラシューが居て助かったと思えるな」
いや普通にアウトだが。
だが彼女でなければ子供みたいに小柄な体躯の猫人族のミリにやってもらうしかなくなる。パッツィはこれでも騎士を7年もやってきてそれなりに鍛えてもいるから、彼女の介抱はミリには少し荷が重いだろうと思われた。
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