騎士隊長と給仕の彼〜女らしくない私なのに、どうしてこの子は執心してるの!?〜

杜野秋人

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一章【辺境騎士団ゴロライ分隊】

12.模擬試合(2)

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「決闘も受けられん怯懦きょうだが、我ら分隊を率いるなど認められるか!」

 ヴィアイズのその叫びをきっかけに、場の空気が変わった。

「まあ、ヴィアイズの言うことも分からんでもないな」
「分隊長の実力はせいぜい中の上ってとこだしな」
「女としちゃ頑張ってる方だが」
「オーサム殿ならまだしも、な」

 オーサムは分隊内はもちろん、辺境騎士団全体でも上位に数えられるほどの剣の腕を持つ。年齢も分隊内では上から数えた方が早く、騎士としてのキャリアも長い。パッツィとどちらが人望があるかと言われれば、比べるまでもないという意見が大勢を占めることだろう。
 そしてそれはパッツィ自身がよく分かっていたことだった。イヘルガロンに後任を打診された際にも彼こそが分隊長になるべきだと強く抗議したほどだ。だが結局、パッツィ側の事情もあって今の人事に落ち着いたのだ。それは協議に加わったオーサム自身も承知していることだった。
 それなのになぜその彼でなくドルーグが分隊の副長を務めているのかと言えば、元のまま第三小隊長に据え置いては絶対に納得しないだろうと三者の意見が一致したからである。

 そうして結局、分隊長パッツィ、分隊副長ドルーグの体制になり、オーサムは第二小隊長のまま据え置きということに収まって今に至る。
 つまりドルーグだけが、この人事に不満を抱き続けているわけだ。

「いい加減にしろドルーグ。ヴィアイズも。の決めたことにいつまで逆らうつもりだ」

 見かねたオーサムが声を上げる。
 だがそこへ、さらに声が上がった。

「その女は身体を使ってウヘルガロン様を誑かし、まんまと分隊長の座を盗み取ったのですよ!」

 あばた顔で小柄なモルヴランが、ニヤつきを隠そうともせずに前に出る。

「女っていいっスよねえ。いざとなったら最強の武器を持ってんスから」

 細身細面で神経質そうなウィーゼルが、パッツィの全身を舐め回すように眺めつつそんなことを言う。

「その噂はおやっさん自身がわざわざやって来て否定しただろうが」
「身にやましさのある人間が、正直に認めるわけがないよねえ。グフグフ」

 トードまでもが腹を揺すりながら前に出る。彼もまたパッツィの全身を眺め、そればかりでなく舌なめずりまでしている。離れた場所で、パッツィを除けば唯一の女性隊員であるフィーリアが、自分の肩を抱いて二歩下がった。

「お前ら、おやっさんまで侮辱すんのかよ」
「どんな人格者だって、男には違いないってことっスよ」
「分隊長、美人だもんなぁ。男なら誰でもイチコロだよなあ。グフフ」

 周囲の隊員たちからの視線がパッツィに刺さってくる。普段は男女だのと陰で言っているくせに、こうなると現金なものである。

「……分かった。そうまで言うなら受けてやる。だが決闘としては認めない。⸺それでいいな、副長」
「ハハッ!まあいい、それで譲歩してやろうじゃないか!」

 そうして結局、パッツィが折れた。自分のことなら何と言われようと構わないが、大恩あるイヘルガロンまで愚弄されたからには黙ってはいられなかった。

「おい、分隊長」
「いいんだ。それで彼の気が済むのなら」

 気遣うオーサムにそう返しながら、それでは収まらないだろうと思ってしまっているパッツィである。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 パッツィ、ドルーグとも騎士服の上から訓練用の革鎧を身に着ける。業務遂行の際には騎士団制式の鈑金鎧着用が基本だが、さすがに模擬試合にまでそんなものを着けていたら時間がかかるし、使う武器が木製の模造剣なのだから過剰な防御力は必要ない。
 ちなみに革鎧は籠手と脛当てのほか、肩当てと胸鎧だけの簡素な作りだ。要は最低限の防護を施したに過ぎない。
 それから、互いに自身の身に[物理防御ブロック]の魔術を発動させる。この術式は全身の皮膚の上に衝撃吸収効果のある皮膜を纏うようなもので、物理的なダメージをある程度吸収し、切創や打撲、骨折などの発生を防ぐ。だが皮膚を硬化させるわけではないので痛覚まではカバーしない。

 それから両者は立会を買って出たオーサムから、規則に則った諸注意を言い渡される。卑怯な行いは慎むこと、急所は狙わないこと、騎士道精神に則り互いに相手を敬い尊重すること、一方が降参あるいは敗北した時点でそれ以上の追撃を控えること。
 そしてパッツィ、ドルーグともそれを了承する。

「では誓いだ。騎士道精神に則り宣誓せよ」
「いいとも。ではオレ様は“玄狼グウィルギ”の赤き瞳に誓うとしよう!」

 オーサムの宣誓の勧めにまずドルーグが反応し、旧ファドク王国騎士団の象徴でもある、赤い瞳の幻獣“玄狼”に誓いを立てた。ドルーグは旧ファドクの貴族の出身で、現在も旧ファドク地域の辺境騎士団に所属しているから、これは当然の誓いと言える。

「では、私は黒烏ブラーンに誓って正々堂々と戦おう」

 続いてパッツィも静かに誓いを立てる。黒烏は旧ポウィス王国に存在した騎士団の名称であり、同時に現在のカムリリア国邦カントリーの制式騎士団の名称でもある。これもまた、カムリリアを護る辺境騎士団隊員として相応しい誓いと言えよう。

 そうして、ふたりは互いに開始位置へと移動し向かい合う。
 パッツィは平静に、表情も佇まいも凪を打ったように落ち着いている。一方のドルーグはニヤニヤと笑みを浮かべ、態度にも余裕が感じられた。
 両者とも左足を前、右足を引いて木製の模造騎士剣を身体の正面に両手で構える。互いに両手剣使いであり、丸盾バックルドは使わない。

「立会はこの第二小隊長オーサムと」
「さよう。第二小隊副隊長のメイストルが相務めよう。ふぉっふぉっふぉ」
「他の模範となるような佳き戦いを期待する。⸺では、始め!」

 そうしてついに、パッツィとドルーグの模擬試合の幕が開ける。





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