騎士隊長と給仕の彼〜女らしくない私なのに、どうしてこの子は執心してるの!?〜

杜野秋人

文字の大きさ
11 / 28
一章【辺境騎士団ゴロライ分隊】

11.模擬試合(1)

しおりを挟む


 パシリ、と何かが身体に当たった感触があり、パッツィは足元を見た。
 そこに、白い手袋が片方、落ちていた。

「おい分隊長サマよ」

 続いてかけられた声に顔を上げる。
 そこにいたのは分隊副長兼第三小隊長のドルーグだった。

「貴様に決闘を申し込む。分隊長の座を賭けてオレ様と勝負しろ!」

 思いもよらない副長の言葉に周囲の分隊員たちがざわめく。驚く者、眉をしかめる者、この先の展開を予想してニヤつく者、反応は様々だ。
 ニヤついているのは主に第三小隊の面々だが、それ以外にも何人か見受けられる。つまりはそれが、パッツィが分隊長であることを良しとしない者たちなのだろう。

 パッツィは一度目を閉じ、心持ち顔を下げて、明確に分かるようにため息をついてみせる。その上で顔を上げてドルーグの目を真っ直ぐ見つめた。

「隊員同士のはいかなる理由があろうともこれを禁止する。⸺分隊副長ともあろう者が、辺境騎士団隊規すら守れないのか」

 パッツィやドルーグたちの所属するゴロライ分隊は、チェスターバーグに本部を置く辺境騎士団の一部隊である。そして辺境騎士団はテゲイングル州の正規軍組織であり、具体的にはテゲイングルを治めるフリント伯爵家に仕える組織だ。
 それはつまり、フリント伯爵家を通じてカムリリア大公の支配下にあるということ。末端とはいえパッツィもドルーグも、つまり大公の命令なく勝手に損耗してよいものではないのだ。

「ハハッ、隊規を盾に逃げようとは姑息な奴め。そんな事だから分隊長として相応しくないと思われているのが分からんのか」

 だがドルーグに引く様子はない。言っても無駄だと思いつつ、それでも翻意を促すしかパッツィにできることはない。

「そんなに不満なら、本部に異議願いを提出すればいい。それが通れば大公閣下の任命状が届くはずだろう」
「そんなもの待っていては何ヶ月かかるか分からんだろうが!」

 パッツィは知っている。ドルーグが再三に渡り異議願いを提出し、全て却下されていることを。彼女を分隊長に推したのは彼の父イヘルガロンであり、異議願いが提出されるたびにイヘルガロンが諮問され、そして毎回彼によって不適の回答がなされていることを。
 そしてカムリリア大公はカムリリア全土を治める主権者だが、それは同時に連合国であるアルヴァイオン大公国の公太子、すなわち次期アルヴァイオン大公の儀礼称号でもある。つまりカムリリア大公はカムリリア国邦内にはおらず、一方で政治や治安維持は全てカムリリアの国邦内で処理される。大公へは報告書や各種決済書類が届けられるだけで、大公はそれに署名するだけなのだ。
 要するに、カムリリアの北辺を慣例的に守るだけの辺境騎士団人事のようなで、大公の手を煩わせるわけにはいかないのだ。イヘルガロンの異動のような通常の昇降任人事ならともかく、一隊員のなど通るわけがないのである。

 ドルーグは他にもこの1年の間、あの手この手でパッツィを分隊長の座から引きずり下ろそうと様々に画策し、そして全て失敗に終わっている。異議願いを提出し、ゴロライやチェスターバーグの市街に彼女の悪評を流し、分隊内に自分の派閥を形成し、それでもなおパッツィは分隊長のままなのだ。
 それも全ては彼の父イヘルガロンが、父としても上司としてもドルーグをチェックし、その上で彼を「分隊長として相応しくない」と判断したからこそのこと。前分隊長のその決定があり、それを辺境騎士団本部も了承しているのだから、ドルーグが何をどうしたところで彼は分隊長にはなれない。それこそ心と態度を入れ替えて励まない限りは。
 もういい加減に諦めればいいのに、とパッツィは内心呆れるばかりだが、それでも彼は我慢ならないのだろう。そうしてとうとう、に打って出たわけだ。

「重ねて言う。隊員同士の私闘はいかなる理由であれ禁止だ。ゆえに私がそれを受け取ることはない」

 パッツィの足元にはドルーグの手袋が落ちたままだ。これをパッツィが拾い上げない限り、彼女が同意したとはみなされない。

「ハッ。要は無様に負けるのが怖いんだろう」

 今度は挑発にかかってきた。だがそれに乗るほどパッツィも愚かではない。

「なんと言われようとダメなものはダメだ。さあ、模擬試合をやりたい者はいるか。日頃の鍛錬の成果を見せるチャンスだぞ」
「おう、じゃあ一番手は俺⸺」
「決闘も受けられん怯懦きょうだが、我ら分隊を率いるなど認められるか!」

 ドルーグを半ば無視したパッツィが模擬試合の応募を求め、それにオーサムが声を上げたその瞬間。声高に叫んだのは第三小隊副隊長のヴィアイズだった。
 分隊内でも気性が荒く、粗暴で他人を物理的に傷つけることにためらいのない男だ。だがこれでも彼は、隊内でも上位に数えられる剣の腕を持つ。
 その彼が明確にパッツィを認めないと宣言したことで、場の空気が変わった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました

さら
恋愛
 王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。  ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。  「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?  畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。

側近女性は迷わない

中田カナ
恋愛
第二王子殿下の側近の中でただ1人の女性である私は、思いがけず自分の陰口を耳にしてしまった。 ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

いきなり悪行なんて言われましても……心当たりがないのですが!? ~嘘つきには天罰がくだるでしょう~

四季
恋愛
いきなり悪行なんて言われましても……心当たりがないのですが!?

本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

四季
恋愛
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

影が薄く見下されている五人姉妹の三女でしたが、唯一の勝者となれたようです。~幸せを掴めたのは私だけでした~

四季
恋愛
影が薄く見下されている五人姉妹の三女でしたが、唯一の勝者となれたようです。

死を回避するために筋トレをすることにした侯爵令嬢は、学園のパーフェクトな王子さまとして男爵令嬢な美男子を慈しむ。

石河 翠
恋愛
かつて男爵令嬢ダナに学園で階段から突き落とされ、死亡した侯爵令嬢アントニア。死に戻ったアントニアは男爵令嬢と自分が助かる道を考え、筋トレを始めることにした。 騎士である父に弟子入りし、鍛練にいそしんだ結果、アントニアは見目麗しい男装の麗人に。かつての婚約者である王太子を圧倒する学園の王子さまになったのだ。 前回の人生で死亡した因縁の階段で、アントニアは再びダナに出会う。転落しかけたダナを助けたアントニアは、ダナの秘密に気がつき……。 乙女ゲームのヒロインをやらされているダナを助けるために筋トレに打ち込んだ男装令嬢と、男前な彼女に惚れてしまった男爵令嬢な令息の恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。表紙は、写真ACよりチョコラテさまの作品(作品写真ID:23786147)をお借りしております。

処理中です...