10 / 28
一章【辺境騎士団ゴロライ分隊】
10.合同訓練
しおりを挟むそれから2日後。
パッツィ率いる第一小隊が夜番を明けて休日となる本日は、分隊の合同訓練の当日である。
合同訓練はパッツィが分隊長になり、同時に第一小隊長を兼務するようになって新たに設けた訓練日である。週に一度、つまり月に三度の割合で組まれている。それまではこうした訓練の日程はなく各隊が、あるいは隊員たちがそれぞれ個別に、勝手に稽古や鍛錬を重ねていた。
だから中には全くと言っていいほど鍛錬をしてこなかった隊員もいる。騎士とも思えぬほど太っている第三小隊のトードや、すぐサボりたがる第一小隊のスラッカーがその悪例である。
パッツィの始めた合同訓練は、そうした隊員たちの気を引き締めると同時に分隊内の規律を保ち騎士としての技能を維持し、さらにパッツィ自身を分隊員たちに見てもらい、認めてもらうことを意図している。分隊長として率先して奮励努力する姿を見せれば、そのうちにきっと認めてもらえる日も来ると彼女は信じている。
まあそのために、貴重な休みを半日潰される第一小隊員たちにとってはたまったものではないだろうが、そこはもう諦めてもらうしかない。通常業務を取りやめてまで鍛錬の日程を組んだなら、必ずやそれを見計らったように物盗りや空き巣が横行するはずだから。
カムリリアからもアングリアからもワケありの人間が流れてくるこの町では、そうした治安を乱す者もまた多い。戦など遠い昔の話になった今なお分隊が本部のあるチェスターバーグに引き上げないのは、主にそれが理由なのだ。
ちなみにパッツィが分隊長に就任してから導入したものはもうひとつある。それが各小隊ごとに開く懇親会である。最低でも月に一度、小隊長を含めた6名の小隊員たちを集まらせて飲み会を開かせているのだ。
これは要するに、パッツィ=パトリシアの感覚で言うところの“お茶会”である。王都で主に貴族令嬢たちの間で開かれるそれは、内実はともかくとして表向きは参加者の親睦を深める名目で開かれる。だから平民の多い分隊員たちにとっても、互いに胸襟を開き腹を割って話し合う、いい機会になればと彼女は考えたわけだ。
それはさておき、合同訓練である。
騎士としての基礎となる剣術、槍術、馬術、体術などの鍛錬のほか、分隊員同士の試合や基礎体力の維持向上のための走り込みや身体鍛錬など、なかなかみっちりと組まれている。そのせいで一部の分隊員たちからの不満も漏れ聞こえてくるが、パッツィはそれには一切耳を貸さないことにしている。
言論は比較的自由にさせても、騎士としておろそかにしてはならない部分まで好きにさせるつもりは彼女にはない。そして、尚武の気風を尊ぶ旧ポウィス王国でも武門の誉れ高いカースース侯爵家の娘として育ったパッツィの課す鍛錬は、なかなかに厳しかったりする。
「型稽古、はじめ!」
昼下がり、騎士隊詰め所に隣接して設置された鍛錬場にて。パッツィの号令以下、30名の分隊員たちが隊列を組み一斉に木製の模造剣を振り始める。
と言いたいところだが、合同訓練の時間中に通常業務を全て取りやめるわけにもいかないので、日中業務担当の三小隊から2名ずつ計6名が訓練を外れて通常業務に当たっている。そのため参加者は総勢で24名といったところ。現在は第四小隊に欠員が出ているので、今鍛錬場にいるのは23名である。
本来なら、分隊は総勢で32名いなければならないのだが、もう3年ほど2名欠員のまま回している。2名までなら分隊長と分隊副長が小隊長を兼務すれば事足りるため、現在の30名体制でも特に支障はないわけだ。だが今回、新たにひとり除隊者が出てしまったため、早急に補充要員を回してくれるよう本部に督促を出している。
模造武器を使った型稽古のあとは、走り込み。ゴロライの町を囲む城壁の周りを2周、全員で走るのだ。
「では次。外周走、行くぞ!」
パッツィの号令にトードがあからさまに嫌そうな顔をする。
ゴロライの町の城壁は、年々増える人口を加味した上で余裕をもって築かれているため比較的綺麗な円形をしている。だがそのせいで現在の人口規模に比しても外周がやや大きく、一周がおよそ1ミリウムと2スタディオンほどある。トードは毎回、まともに走りきれたためしがないので、鍛錬を免除されて通常業務に回される組に入れてもらえないのだ。
まあ通常業務に回されたところで、それは3回に1度だけなのだから、結局のところ走らなくてはならないわけだが。
詰め所敷地を出た段階で走り始め、大通りを北門に向かって2スタディオンほど走る。北門を出てまず東回りで一周、北門で折り返して西回りで一周し、北門まで戻ってきてゴール、である。全員が戻ってくるのを待ち、あとはクールダウンを兼ねて詰め所まで歩いて帰る。
毎回、トードやネイティ、フィーリアあたりが遅れがちだから、早めに戻ってこれた面々はその分多めに休めたりする。
「よし、では次⸺」
そして、全員で詰め所の鍛錬場に戻って隊員同士の模擬試合を始めようかというその時に、事件は起こった。
12
あなたにおすすめの小説
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』
星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】
経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。
なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。
「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」
階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。
全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに!
「頬が赤い。必要だ」
「君を、大事にしたい」
真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。
さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!?
これは健康管理?それとも恋愛?
――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ストーカーに狙われたので歳上騎士様に護衛をお願いしました。
ねーさん
恋愛
「氷の彫刻」と呼ばれる美貌の兄を持つ公爵令嬢のクラリッサは不審な視線に悩まされていた。
卒業を二日後に控えた朝、教室のクラリッサの机に置かれた一通の偏執狂者からの手紙。
親友イブを通じてイブの婚約者、近衛騎士団第四分団員のジョーンズに相談すると、第四分団長ネイトがクラリッサのパートナーとして卒業パーティーに出席してくれる事になって───
〈注〉
このお話は「婚約者が記憶喪失になりました。」と「元騎士の歳上公爵様がまさかの××でした!?」の続編になります。
皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる
若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ!
数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。
跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。
両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。
――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう!
エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。
彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。
――結婚の約束、しただろう?
昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。
(わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?)
記憶がない。記憶にない。
姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない!
都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。
若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。
後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。
(そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?)
ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。
エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。
だから。
この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し?
弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに?
ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。
追放された王女は、冷徹公爵に甘く囲われる
vllam40591
恋愛
第三王女エリシアは、魔力も才覚もない「出来損ない」として、
婚約破棄と同時に国外追放を言い渡された。
王家に不要とされ、すべてを失った彼女を保護したのは、
王家と距離を置く冷徹無比の公爵――ルシアン・ヴァルグレイヴ。
「返すつもりだった。最初は」
そう告げられながら、公爵邸で始まったのは
優しいが自由のない、“保護”という名の生活だった。
外出は許可制。
面会も制限され、
夜ごと注がれるのは、触れない視線と逃げ場のない距離。
一方、エリシアを追放した王家は、
彼女の価値に気づき始め、奪い返そうと動き出す。
――出来損ないだったはずの王女を、
誰よりも手放せなくなったのは、冷徹公爵だった。
これは、捨てられた王女が
檻ごと選ばれ、甘く囲われていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる