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二章【“天使”なふたりの大騒動】
01.もうひとりの“天使”(1)
しおりを挟む「本日付でゴロライ分隊に転属となりました、騎士サンデフと申します。これより分隊長パッツィ殿の指揮下に入ります」
凛々しく敬礼してみせるその騎士は、どこの王子様かと見まごうほどに麗しい美男子だった。
柔らかく揺れる長めの金髪に、抜けるような白い肌。スッと通った鼻筋に涼やかな切れ長の目元が目を引き、さらに開いた口元から覗く白い歯がキラリと光る。背も高く全身よく鍛えられていて、見た目ばかりでなく騎士としての実力も窺える。
「私がゴロライ分隊長のパッツィだ。よろしく頼む」
そのイケメンっぷりに内心やや驚きながらも差し出したパッツィの手を取り、サンデフと名乗った騎士はうやうやしく頭を下げてその甲にキスしてみせた。見た目だけでなく態度まで王子様である。
それでいて手を握ったままというわけでもなく、礼を終えればすぐに放してスッと一歩下がる。そういうところまでイケメンであった。
「サンデフ卿には、現状欠員の出ている第四小隊に加入してもらう。⸺第四小隊長スタッド、それで構わないな」
「ああ。というかこれほどの男が第四小隊以外に配属されるなんてなオレが許さねえよ。もちろん、町の娘たちも同じだろうさ」
「貴方が第四小隊長ですか。これからどうぞよろしく」
「スタッドだ。こっちこそよろしく頼むぜ、相棒」
この場に同席しているもうひとりの人物、第四小隊長スタッドがキラリと歯を光らせて笑う。握手を交わし合うふたりを見ながらパッツィは、何故イケメンはこうも白い歯を光らせるのかと訝しんだものの、口には出さなかった。
パッツィはスタッドとともに、サンデフを連れて詰め所の建物内を案内して回った。
騎士団分隊詰め所は二階に分隊長執務室、副長執務室のほか会議室、応接室がある。一階には食堂と厨房、談話室、休憩用ラウンジ、武器庫、トレーニングルームなどがあり、地下にはトイレ、水浴び場のほか犯罪者の一時収監用独房が備えてある。建物裏には鍛錬場となる広場も併設されている。
そのほか敷地内には、隣接する町政庁舎と合わせて警備を担当する守衛所や、厨房の料理人や詰め所内で掃除や洗濯などの雑用を担当する使用人たちの住居となる使用人棟などがある。
なお独身の若い騎士用の寮は詰め所から少し離れた場所に建てられているため、ここでは案内しなかった。聞けばサンデフは寮に入らず、個人的に契約して部屋を借りるとのこと。
「確か24歳だと聞いているが、部屋の契約だけでなく食事の用意や家事などまで自分でやるのか。たいしたものだな」
自分ひとりでは何ひとつこなせないパッツィが素直に感嘆してみせると、サンデフはやや苦笑しつつ答えた。
「ああ、いえ。食事は町の酒場のお世話になろうかと思っています。とても美味しいと評判だそうなので」
「おお、そうなのか。この町の酒場は良いぞ、飯も美味いが、なんと言ってもエールが絶品だ!」
アーニーの職場を褒められて、つい嬉しくなってしまったパッツィが破顔する。
「へえ、それはますます楽しみになりましたね」
「そうだろうそうだろう。話のついでだ、今から案内しておこうか」
「それはありがたいですが……本日の通常業務に就かなくてよいのですか?」
「第四小隊は今日は夜番だから問題ないぞ」
「私も分隊長業務で抜けているからな。むしろ案内できるのは今の時間だけだ」
「そうですか……では、お願いできますか」
こうしてすっかり気を良くしてしまったパッツィと、案内なんかしなくてもこの後行くつもりだったスタッドによって、サンデフは着任早々に酒場へと繰り出すことになってしまったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それにしても、卿は相当に美形だな。うちの分隊で最上の色男と言えばこれまではスタッドだったんだが。⸺どうするスタッド、これはさすがに分が悪いんじゃないか?」
「ハッ。外見だけなら確かに強敵と認めてやらんこともないが、男はまず何よりも中身だろうがよ!」
「いや、ありがたいことに“天使の如き美貌”なんて褒められますがね。私もスタッド小隊長の意見に賛成です。それに何より、私にはもう心に決めた相手が居ますのでね、他の女性の誤解を招くような態度は慎みたいと思っています」
酒場への道すがら、パッツィとスタッド、それにサンデフはなごやかに談笑しつつ歩く。小さなゴロライの町では辻馬車なんてものも走っていないため、基本はどこに行くにも徒歩である。そして徒歩であってもさほど時間はかからない。
ということで、3人はあっという間に酒場の入り口にたどり着いた。だがそこまでの道中の雑談に、聞き捨てならない一言があった。
「え、もう心に決めた相手がいるのか」
「はい。まだ内々ではありますが、彼女とは婚姻の約束も交わしておりまして」
「それはめでたいな!細君を大切にな!」
「まだ結婚していませんけどね。ですが彼女のことは愛していますし、すでに母上様にもご挨拶させて頂いていて」
「だったらもう決まったようなものだろう!おめでとう!」
「ありがとうございます分隊長。ですがそれはそれとして、私がゴロライへの異動を希望したのは分隊長、貴女にひと目お会いしたかったからなんですよ」
和やかな祝福ムードが、その一言によって変わった。
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