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二章【“天使”なふたりの大騒動】
02.もうひとりの“天使”(2)
しおりを挟む「私がゴロライへの異動を希望したのは分隊長、貴女にひと目お会いしたかったからなんですよ」
和やかな祝福ムードが、サンデフのその一言によって変わった。
「……えっ」
「本部では噂になっていますよ。『ゴロライの分隊長が美人すぎる』とね」
「…………は?」
思いがけない一言に、思わず棒立ちになるパッツィ。その彼女の手をスマートにすくい上げ、サンデフはさらに続けた。
「噂の通り、とても麗しい方だ。私の愛する彼女と比べても、負けず劣らず美しい。そんな貴女の元で働けること、大変光栄に思います」
「そ、そんな、麗しいだなんて……」
すっかり男女扱いに慣れきってしまっていた身にとって、この不意打ちは大変にクリティカルヒットであった。褒められ慣れていないパッツィは、これだけでもう赤面してしまっている。
「さて、酒場といえば小さな社交場も同然。ここはひとつ、エスコートさせて頂けませんか、レディ」
「あ……はい。よろしくお願いします……」
他の女性の誤解を招くような態度は慎みたいと言っていたのは何だったのか。輝かんばかりの笑顔で手を差し出してくる目の前の天使の顔がまともに見られない。ただでさえ王都でも滅多に見ないレベルのイケメンなのに、こんなのズルい。
そんなことを思いながら、迂闊にもその手を取ってしまったパッツィであった。
「あっ、いらっしゃいませ!」
ゴロライに酒場は一軒しかない。なのでこの酒場は、深夜から早朝の僅かな時間を除けば常に開いている。朝は仕事へ向かう木こりや猟師、漁師たちの腹を膨らませ、昼は人足や商店など町で働く者たちの胃を満たす。酒を提供するのは陽暮れ時から夜間だけだが、食事は常に取れるのだ。
ちなみに、日中の時間帯を切り盛りしているのは酒場の経営者であるオヤジの細君である。細君と言っても見た目はでっぷりと太った肝っ玉母ちゃんなのだが。
そして店内に入ったパッツィは、かけられた店員からの声にまたしても固まってしまった。
「え…………アーニー!?」
そう。普段は夜の営業にしか出てこないアーニーの声だったのだ。
「どうして……普段は夜だけだろう!?」
「いらっしゃい分隊長さん。今日は診療所に医療用アルコールを届ける日なんですよ」
聞けば普段は昼下がりに出勤してきて医療用アルコールを届け、そのまま夜の営業に入るのだそうだ。だが今日は朝の間に届けてほしいと要望があり、それで早く出てきたのだとか。
ちなみにアルコール関連は食料品担当の昼の従業員ではなく、夜の酒場担当の従業員が扱うのだそうだ。夜の従業員と言えば主にアーニーと猫人族のミリだけなので、それで普段からアーニーが配達しているとのこと。
「…………で、分隊長さん。そちらの方は?」
まさかアーニーがいるなどとは夢にも思わなかったパッツィである。だから今の状況に気が付くのが数瞬、遅れた。
そう。今のパッツィは町で見かけたこともない超絶イケメンに手を取られ、頬を染めた状態で店へ入ってきたのだ。しかもいつの間にか、エスコート役のサンデフの手がパッツィの背に添えられていて、それはもうどう見ても『麗しの騎士にエスコートされ頬を染めている乙女』の図である。
というかサンデフとスタッド、ふたりの極上イケメンに挟まれて喜んでいるようにしか見えない。これぞまさに両手に花。
そして混乱と驚きが続くパッツィは現状認識能力が落ちたまま、アーニーに彼を紹介する。
「あ、ああ。彼は今日から分隊に着任したサンデフだ。これから頑張ってもらわなくてはならないからな、まずは町を案内していたところなんだ」
「……その割には、ずいぶん親しそうですね?」
アーニーが心持ちジト目になったこのタイミングで、サンデフがパッツィの背に添えていた右手をスッと動かして彼女の肩を抱く形になった。そしてそのことにパッツィは気付かない。
「そ、そうか?まあ今日が初対面だが、彼とても紳士でね。今だってわざわざエスコートしてくれたんだ」
「…………そう、ですか」
「今日は第四小隊が夜番だから、また後日改めて歓迎会でも開くとしよう。スタッドも、サンデフもそれでいいな?」
「ええ。ありがたくご相伴にあずからせて下さい、パッツィ分隊長」
「んじゃ、オレは他の奴らに声かけておくぜ」
「では、私は詰め所に戻るが、サンデフはどうする?」
「そうですね、まずはスタッド小隊長と酒でも酌み交わして⸺」
「すみませんが、酒類は夜しか提供しておりませんので」
「おっと、そうなのか。じゃあ給仕くん、乳飲料をもらおうか」
「僕はこれから配達だと今言ったでしょう。奥におかみさんや姉さんたちがいますから、そちらに注文して下さい。では」
言うだけ言って、アーニーは厨房の奥へそそくさと引っ込んでしまった。
なんだろう。アーニーの態度がいやに素っ気ない気がするのだが。パッツィは訝しんだが、アーニーだって人の子なのだから機嫌の悪い時だってあるだろうと思ってそれ以上気にしなかった。そしてそのまま彼女はサンデフたちと別れ、ひとり詰め所に戻って行った。
この時にアーニーを捕まえて話をきちんと聞いておかなかったことが、後々彼女を後悔させることになる。
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