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二章【“天使”なふたりの大騒動】
04.アーニー、“天使”と出会う(2)
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【お知らせ】
昨夜の投稿から約1時間で若干の修正を入れました。看護助手リーダーさんの名前を「モドゥリブ」から「モズリブ」に変えています。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー
「おーい、クレイちょっと来ておくれ」
「はーい!」
モズリブに呼ばれて現れたのは、とんでもない美貌の美少女だった。
「昨日教えた通り、アルコールの瓶詰めをやっとくれ。今度は樽ごとひっくり返すんじゃないよ」
「昨日は本当にごめんなさい。⸺あら、姐さんお客さんですか?」
「ああ。ってそういや会うのは初めてかい?」
「そうですね、初めてお会いする方です」
美少女がアーニーを見て小首を傾げる。アーニーの方でも見覚えがない顔だが、ここ数日間の酔客たちの話題がほぼそれで独占されていたからすぐ分かった。この子が“診療所の天使”と呼ばれている子だろう。
「どうも、アーニーと言います。普段は酒場で給仕をやっています」
「わたし、クレイルウィと申します。先日からこの診療所で働かせてもらっています。あなたがアーニーさんなんですね」
「はい。⸺え、誰かから僕のことを聞いていたんですか?」
「聞いていたというか、先輩の皆さんがカッコいいって口を揃えて言ってましたから」
「えっ」
「ちょっとクレイ、余計なことお言いでないよ」
娯楽の少ないゴロライの町では、若い娘たちの興味はもっぱら「誰がイケメンか」である。それは診療所の助手たちも同じであり、そして若い娘はいわゆる恋バナが大好きだ。
そんな娘たちの話題に上る「町のイケメンランキング」の上位を独占しているのが、分隊の第四小隊⸺通称“イケメン部隊”と“酒場のアーニーくん”である。中でも、ある程度年齢を重ねた20代から30手前くらいのお姉様がたに人気なのが第四小隊長のスタッドで、10代から20歳前後の若い娘に人気なのが、第四小隊の若手騎士ネイサニエルとアーニーだ。
ちなみに、興味ないフリをしているがモズリブはスタッド推しである。一方のクレイルウィは、普通ならアーニーを気に入りそうなところだが。
「聞いていた通り、とってもイケメンさんなんですね!」
「ええと、ありがとうございます」
「でも、ごめんなさい。わたし、もう心に決めた人がいるんです」
「あ、そうなんですね」
まさかの彼氏持ちであった。
「え、そうなのかいクレイ?」
「はい。実はこの町にも彼を追いかけて来たんですよ」
「おいおい、クレイみたいな可愛い子に惚れられるなんて、一体どこの果報者だい?」
「えー、それはナイショです♡」
ナイショと言われれば気にはなるが、少なくともこの時点でアーニーにとってクレイルウィは無害な相手と確定した。町中で追いかけ回されたり、酒場にラブレターを持って突撃されたりする事がないのなら安心だ。
「そうなんですね。実は僕もずっと片想いしている人がいるんです」
「えー、誰なんですか?知りたいなあ」
「こらクレイ、自分は明かさないのに人の想い人を聞き出そうとするんじゃないよ」
「あっ、それもそうですね。えへっ」
分隊長のパッツィさんなんです、と口走る前にモズリブが釘を刺してしまったので、アーニーはパッツィの名を出さなかった。酒場で公開告白なんてやってしまった以上は町中で噂を拾えばすぐ分かるだろうが、この場で言う必要はなさそうだ。
だから代わりに、アーニーはクレイルウィにエールを送る。
「その人と上手く行くといいですね」
「あっ、わたしは……その、もうカレとはお付き合いしてて」
「「えっ」」
「もうわたしのお母さんもカレと会ってて」
「「えっえっ」」
「でも、この町にいるお兄ちゃんにバレたらすっごく面倒になりそうでぇ」
「「あー……」」
「なので、誰とお付き合いしてるかはナイショなんです。うふふっ」
別に聞き出したわけでもないのに投下された情報量が多すぎる。こんな天使さまかと見まごう美少女にもう彼氏がいて、母親公認で、しかもお兄ちゃんまでこの町に!?
こんな美少女に惚れられているのが誰なのかも気になるが、それ以上に“兄”が誰なのか。これほどの美少女の兄ならばやはり絶世の美男子なのだろうが、果たしてそんな男性がこの町にいただろうか。
アーニーとモズリブは無言のまま、互いに顔を見合わせる。どっちの顔にも心当たりがないと書いてあった。
「クレイ、そのお兄ちゃんとやらも内緒なのかい?」
「そっちは言ってもいいですけど……多分信じてもらえないかなぁって」
「そんなこと言われたらますます気になるじゃないか。差し支えなければ教えとくれよ」
「教えたとして、信じてくれますか?」
「信じるともさ。早く教えとくれ」
急かされたクレイルウィは一旦言葉を切って、心持ち深呼吸したように見えた。兄の名を出すだけで覚悟を決めたように見えるのは、きっと今のやり取りを経て兄の名を出して、それでも信じてもらえた試しがなかったりしたのだろう。
「わたしのお兄ちゃん、実は分隊に勤めてるモルヴランなんです」
「「……は?」」
「ああーほらもう、また信じてもらえない……」
「「えええええ————!?」」
そりゃ信じろと言う方が無理である。だってクレイルウィとモルヴランとは全く似ていないのだから。
クレイルウィは波打つような輝く長い金髪と、深い海の色のような濃い青の瞳が美しく、毛細血管まで透けそうなほど白い肌に華奢な体躯の、まさしく天使か美の女神かという凄絶な美しさの超絶美少女なのだ。
それに対して第三小隊のモルヴランは、無数のあばたが広がる醜い顔で肌も浅黒く、灰味がかったくすんだ頭髪の生え際まで後退していて年齢よりもずっと老けて見えるのだ。背もせむしを患ったように丸まり、ただでさえ小柄な体躯がさらに小さく見える、そういう男なのだ。
「信じてもらえないのも仕方ないですけど、わたしもお兄ちゃんもちゃんとケリドウェン母さんの子なんですよ。ただ、お父さんが違うんです」
「そ、そうなのかい……」
「って、お母さんがケリドウェンって……」
「「き、“霧の魔女”——————!?」」
霧の魔女とは、カムリリアの昔話にたびたび登場する伝説の魔女の名である。大抵は悪者を懲らしめる良い魔女として描かれるが、老婆だったり妖艶な美女だったりと外見の描写は様々だ。
「あ、お母さん、チェスターバーグの実家でいつもゴロゴロしてますよ。たまにどこか出かけてるみたいですけど」
「チェスターバーグに住んでるの!?」
「だから情報量が多すぎるって!」
童話や伝承上の存在だとばかり思っていたのに、まさかの実在人物だったとは。
もはやどこからツッコんでいいかも分からなくなったアーニーとモズリブであった。
昨夜の投稿から約1時間で若干の修正を入れました。看護助手リーダーさんの名前を「モドゥリブ」から「モズリブ」に変えています。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー
「おーい、クレイちょっと来ておくれ」
「はーい!」
モズリブに呼ばれて現れたのは、とんでもない美貌の美少女だった。
「昨日教えた通り、アルコールの瓶詰めをやっとくれ。今度は樽ごとひっくり返すんじゃないよ」
「昨日は本当にごめんなさい。⸺あら、姐さんお客さんですか?」
「ああ。ってそういや会うのは初めてかい?」
「そうですね、初めてお会いする方です」
美少女がアーニーを見て小首を傾げる。アーニーの方でも見覚えがない顔だが、ここ数日間の酔客たちの話題がほぼそれで独占されていたからすぐ分かった。この子が“診療所の天使”と呼ばれている子だろう。
「どうも、アーニーと言います。普段は酒場で給仕をやっています」
「わたし、クレイルウィと申します。先日からこの診療所で働かせてもらっています。あなたがアーニーさんなんですね」
「はい。⸺え、誰かから僕のことを聞いていたんですか?」
「聞いていたというか、先輩の皆さんがカッコいいって口を揃えて言ってましたから」
「えっ」
「ちょっとクレイ、余計なことお言いでないよ」
娯楽の少ないゴロライの町では、若い娘たちの興味はもっぱら「誰がイケメンか」である。それは診療所の助手たちも同じであり、そして若い娘はいわゆる恋バナが大好きだ。
そんな娘たちの話題に上る「町のイケメンランキング」の上位を独占しているのが、分隊の第四小隊⸺通称“イケメン部隊”と“酒場のアーニーくん”である。中でも、ある程度年齢を重ねた20代から30手前くらいのお姉様がたに人気なのが第四小隊長のスタッドで、10代から20歳前後の若い娘に人気なのが、第四小隊の若手騎士ネイサニエルとアーニーだ。
ちなみに、興味ないフリをしているがモズリブはスタッド推しである。一方のクレイルウィは、普通ならアーニーを気に入りそうなところだが。
「聞いていた通り、とってもイケメンさんなんですね!」
「ええと、ありがとうございます」
「でも、ごめんなさい。わたし、もう心に決めた人がいるんです」
「あ、そうなんですね」
まさかの彼氏持ちであった。
「え、そうなのかいクレイ?」
「はい。実はこの町にも彼を追いかけて来たんですよ」
「おいおい、クレイみたいな可愛い子に惚れられるなんて、一体どこの果報者だい?」
「えー、それはナイショです♡」
ナイショと言われれば気にはなるが、少なくともこの時点でアーニーにとってクレイルウィは無害な相手と確定した。町中で追いかけ回されたり、酒場にラブレターを持って突撃されたりする事がないのなら安心だ。
「そうなんですね。実は僕もずっと片想いしている人がいるんです」
「えー、誰なんですか?知りたいなあ」
「こらクレイ、自分は明かさないのに人の想い人を聞き出そうとするんじゃないよ」
「あっ、それもそうですね。えへっ」
分隊長のパッツィさんなんです、と口走る前にモズリブが釘を刺してしまったので、アーニーはパッツィの名を出さなかった。酒場で公開告白なんてやってしまった以上は町中で噂を拾えばすぐ分かるだろうが、この場で言う必要はなさそうだ。
だから代わりに、アーニーはクレイルウィにエールを送る。
「その人と上手く行くといいですね」
「あっ、わたしは……その、もうカレとはお付き合いしてて」
「「えっ」」
「もうわたしのお母さんもカレと会ってて」
「「えっえっ」」
「でも、この町にいるお兄ちゃんにバレたらすっごく面倒になりそうでぇ」
「「あー……」」
「なので、誰とお付き合いしてるかはナイショなんです。うふふっ」
別に聞き出したわけでもないのに投下された情報量が多すぎる。こんな天使さまかと見まごう美少女にもう彼氏がいて、母親公認で、しかもお兄ちゃんまでこの町に!?
こんな美少女に惚れられているのが誰なのかも気になるが、それ以上に“兄”が誰なのか。これほどの美少女の兄ならばやはり絶世の美男子なのだろうが、果たしてそんな男性がこの町にいただろうか。
アーニーとモズリブは無言のまま、互いに顔を見合わせる。どっちの顔にも心当たりがないと書いてあった。
「クレイ、そのお兄ちゃんとやらも内緒なのかい?」
「そっちは言ってもいいですけど……多分信じてもらえないかなぁって」
「そんなこと言われたらますます気になるじゃないか。差し支えなければ教えとくれよ」
「教えたとして、信じてくれますか?」
「信じるともさ。早く教えとくれ」
急かされたクレイルウィは一旦言葉を切って、心持ち深呼吸したように見えた。兄の名を出すだけで覚悟を決めたように見えるのは、きっと今のやり取りを経て兄の名を出して、それでも信じてもらえた試しがなかったりしたのだろう。
「わたしのお兄ちゃん、実は分隊に勤めてるモルヴランなんです」
「「……は?」」
「ああーほらもう、また信じてもらえない……」
「「えええええ————!?」」
そりゃ信じろと言う方が無理である。だってクレイルウィとモルヴランとは全く似ていないのだから。
クレイルウィは波打つような輝く長い金髪と、深い海の色のような濃い青の瞳が美しく、毛細血管まで透けそうなほど白い肌に華奢な体躯の、まさしく天使か美の女神かという凄絶な美しさの超絶美少女なのだ。
それに対して第三小隊のモルヴランは、無数のあばたが広がる醜い顔で肌も浅黒く、灰味がかったくすんだ頭髪の生え際まで後退していて年齢よりもずっと老けて見えるのだ。背もせむしを患ったように丸まり、ただでさえ小柄な体躯がさらに小さく見える、そういう男なのだ。
「信じてもらえないのも仕方ないですけど、わたしもお兄ちゃんもちゃんとケリドウェン母さんの子なんですよ。ただ、お父さんが違うんです」
「そ、そうなのかい……」
「って、お母さんがケリドウェンって……」
「「き、“霧の魔女”——————!?」」
霧の魔女とは、カムリリアの昔話にたびたび登場する伝説の魔女の名である。大抵は悪者を懲らしめる良い魔女として描かれるが、老婆だったり妖艶な美女だったりと外見の描写は様々だ。
「あ、お母さん、チェスターバーグの実家でいつもゴロゴロしてますよ。たまにどこか出かけてるみたいですけど」
「チェスターバーグに住んでるの!?」
「だから情報量が多すぎるって!」
童話や伝承上の存在だとばかり思っていたのに、まさかの実在人物だったとは。
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