騎士隊長と給仕の彼〜女らしくない私なのに、どうしてこの子は執心してるの!?〜

杜野秋人

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二章【“天使”なふたりの大騒動】

09.その日の深夜のこと

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 その後、食事だけで飲酒はほとんどしなかったクレイルウィたち看護助手グループは、早々に店を後にした。
 そして飲酒込みで飲み食いし談笑した第四小隊グループも、客が捌け始めた頃合いにはお開きとなった。椅子に縛られたままほとんど飲み食いできていないフラートは椅子からだけ解放されて、トラシューが責任を持って家まで送り届けることになった。

「なあフレンドたち、そろそろこの“夜闇のあぎと”から解放してくれてもいいんじゃないかい?」
「またそんな小難しいこと言っても無駄ですよ。ロープは解きませんからね」
「んまあ、フラートちゃんのおうちに着いたら外してあげるわよ」
「それじゃあ漆黒の大空へ羽ばたけなくなるじゃないかベイビー」
「“キッド”からさらに幼児化してる!もう絶対に解いてあげません!」
「今夜はダメよフラートちゃん。あとお母様にも全部報告しといたげるわ」

 フラートはこのゴロライの町で、年老いた母とふたり暮らしだったりする。普段はフラフラと遊び歩き、女性をナンパしその家に上がり込んで抱いては捨てるようなクズ野郎だが、そんな彼が母親の前でだけは聞き分けのいい孝行息子であるというのは、付き合いの長い第四小隊員や直接の上司であるパッツィぐらいしか知らない驚きの事実である。
 だがそれだけに、そんな自分の日頃の行いを母親に報告するバラすと脅されたフラートはビクリと震えて、途端にオロオロし始めた。

「待ってくれフレンド、それは、それだけは」
「ダメよぉ。アンタの元にもちゃんとのよ」
「おおお……なんて非道な……!まさかフレンドが吸精魔インキュバスだったとは……!」
「だぁれがインキュバスよ!それを言うならサッキュバスって言いなさいよ!」
「トラシューさん、拘るとこ性別そこじゃないでしょ!?フラートさんのペースに呑まれてますよ!?」

 などと漫才コントみたいなやり取りをしつつ、トラシューとネイサニエルは嫌がるフラートを引っ立てて行った。
 サンデフも「今夜はとても有意義な夜でした。皆様に改めてお礼を」と優雅に腰を折り、夜の町へと帰っていく。それを見送ってから、残ったスタッドとパッツィもそれぞれ帰路についた。

 店に戻って飲み直そうかと一瞬考えたパッツィだったが、暇になった店内でアーニーに塩対応されたら立ち直れなくなると気付いて、今夜のところは大人しく帰ることにしたのだった。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 深夜。寝静まった町をが音もなく移動していた。
 それに気付く者は誰もいない。人通りがほとんどなくなっているせいもあるが、仮に目撃者がいたとしても黒い影には気付なかったことだろう。
 それほどに、黒い影は夜闇に溶け込んでいた。まるで[隠蔽]の魔術を使っているかのようだ。

 しばらく移動して、影は一軒の小さな家へとたどり着く。大通りから少し入った場所にある、賃貸物件として貸し出されている、居間と寝室と水回りだけの小さな建物だ。
 ここには最近越してきた、若い娘がひとりで住んでいる。

 影は玄関扉に忍び寄り、小さく二度、三度、二度と独特のリズムをつけてノックした。
 しばらく待っていると、返事もないままに扉がそっと開いた。開く音さえ周囲に聞かれないよう配慮したのではないかと思えるほど扉はゆっくりと、そして静かに開けられたのだ。
 中から顔を出したのはクレイルウィだった。

「……誰にも見られてない?」
「大丈夫だよ。母上の姿隠しの外套クロギン・キディオがちゃんと効いている」

 心配そうに小声で来訪者に声をかけたクレイルウィは、その返事を聞いてホッとしたように微笑んだ。
 来訪者が目深に被っていたフードを後ろに落とした。その中から現れたのは輝かんばかりの柔らかな金髪と、天使の如き美貌。⸺そう、サンデフだ。

「ずっと逢いたかった、
「ああ。僕もだよルウィ」

 一瞬にして表情を崩したクレイルウィが、辛抱たまらぬといった様子でサンデフに抱きついた。それを優しく受け止めつつ抱き返したサンデフは、胸元に顔を埋めてくるクレイルウィの顎に指を添えて持ち上げると、そのまま彼女にキスをした。

「ん……んっ……」

 交差させた互いの顔、半開きになった唇を合わせて、貪るような濃厚なキス。舌を絡め、互いの唾液を混ぜ合わせ、何度も何度も、深く、長く。
 クレイルウィは頭ひとつ背の高い彼の首に腕を回し、サンデフは彼女の腰を強く抱く。まるでそのままひとつに融け合ってしまいそうなほど、それは激しく情熱的なキスだった。

 長い長いキスのあと、どちらからともなく唇を離した時には、クレイルウィの表情はもうすっかり蕩け切っている。

「済まない。で我慢できなかった」
「ううん、私も。もう我慢できないから……」
「それにしても、さっきは驚いたね」
「ふふっ。まさか酒場で会えるだなんて思ってなくて、思わず微笑んじゃった」
「僕もつい微笑み返したけど、誰にも気付かれなくて良かったよ。さ、人に見られないうちに入ろう」
「サンディもここに住めばいいのに」
「それだと付き合っているのがバレるから駄目だ、って言っただろう?それに、僕はこうやって君と顔を合わせる瞬間が一番好きなんだ」
「……ふふっ、私も♡」

 そうして男と女は、寄り添い抱きあったまま、部屋の中に消えていった。扉が閉められ、あとには静寂に包まれた闇だけが残った。

 その夜、中で何が行われていたのかは、漏れ聞こえてくる声を夜通し聞かされていた近隣住民だけが知っていることだ。





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