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第八話 帰還に向けて一気に時が動き出す
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部屋を出ると護衛騎士のガルディと補佐官が話し合っていた。
「姫様! ご無事で何よりです」
「ガルディ! 補佐官も。ああよかった無事ね? 移動魔法陣に向かうわ」
「姫様が囮になる作戦なんてこの先ももうまっぴらですからね! 魔法陣が光り始めたのでお伝えしようと。あいつも戻ってきます」
……姫はやめてって言ってるのに。それにあいつ、って。
「仲良くして頂戴ね。わたくしはギルバートが皆と溶け込んでいるのを見るのが嬉しいの。二人がいざという時は息がぴったりなのは分かってるわ。貴方たちの口が悪いことも。ただどこに耳があるか分からないから、ね。ギルバートは──」
言いかけて止める。ガルディも気が付いたようなので、わざわざ言う必要は無かった。
「分かりました」
これから報告を受けて、続々とやってくる人たちの差配をしなければならない。
助けてほしいわ……ギルバート。早く戻ってきて……
「メリアーナ様、早馬用の替え馬たちがベルシュタインから出立したようです。王都のタウンハウスからも予定通りに。同時にダミーも走らせております。交換地点に予め替え馬を潜ませておきたかったのですが、王城への最短ルートには友好的な領地がありませんから」
家を挙げて通信用魔導具の開発に力を入れている補佐役の情報は早い。
通信が届く距離が短いのが欠点だが、いずれ改良されることを期待したい。
「それどころか、フラナド領地と同盟関係にある領地を通過しないといけないのでしょう?」
「左様でございます」
離婚証明書はこちらの手を離れているので、出来ることはもう無い。
ベルシュタイン領に逃げ込むことを最優先に考えないといけないだろう。
「しかし……王城まで五日か……何か仕掛けてきますかね」
「分からないわ。少なくとも、離婚証明書はもうわたくしたちの手を離れたから連絡を待ちましょう……ベルシュタインまでの隊列の安全に気を配らないと。五十人の平民を、移動しつつ守るのは容易なことじゃないわ」
「以前からの交渉通り友好領地の町村ごとに分散させて、万が一用の替え馬の準備を整えさせている最中です。騎士たちにも各自替え馬の手配を命じております。ご命令通り馬車は全て四頭立てとし、騎兵はもちろんのこと参加希望の声が大きい騎士とその従者も、全て騎馬での移動となります」
「短い時間でよくぞそこまで手配してくれたわね。ありがとう。輿入れの時とルートは変更してあるのよね? そちらの対策はどうなっているかしら」
「山越えはないものの、川の横断が二か所ございます。橋を落とされないよう監視者を置いて警戒中です」
「馬の飼い葉を予定量積み込めない以上、草地を利用しない手は無いものね」
「はい。二時間移動・半時休憩の繰り返しを前提にルートを決定してございます」
「それでいいわ。馬を潰すわけにはいかないもの」
「移動魔法陣でフラナド領民を全員移動出来れば良かったのですが、無いものねだりをしても始まりますまい。魔導士の魔力で現在移動出来るのが二十名弱となれば、このように差配するしかありませんでした」
「時を捻じ曲げる力なのだから、代償もそれだけ大きいということね。帰還ルートに敵領地が無いだけましよ。時間が経てば経つほどこちらに有利になるのだし」
時が一気に動き出し、目まぐるしい。
移動魔法陣が設置されている部屋の窓という窓は潰されていて、天井はとても高いのに、重苦しい空気がのしかかってくるように思えるのは、自分の気持ちの重さが反映されてしまっているからなのだろう。
大広間に到着すると、既に魔法陣が光っていて一気に光量を増すと、うっすらと人影が映った。
振動が収まり光が収束すると、少ししか離れていなかったのに、そばにいて欲しかった人の姿があった。
「姫様! ご無事で何よりです」
「ガルディ! 補佐官も。ああよかった無事ね? 移動魔法陣に向かうわ」
「姫様が囮になる作戦なんてこの先ももうまっぴらですからね! 魔法陣が光り始めたのでお伝えしようと。あいつも戻ってきます」
……姫はやめてって言ってるのに。それにあいつ、って。
「仲良くして頂戴ね。わたくしはギルバートが皆と溶け込んでいるのを見るのが嬉しいの。二人がいざという時は息がぴったりなのは分かってるわ。貴方たちの口が悪いことも。ただどこに耳があるか分からないから、ね。ギルバートは──」
言いかけて止める。ガルディも気が付いたようなので、わざわざ言う必要は無かった。
「分かりました」
これから報告を受けて、続々とやってくる人たちの差配をしなければならない。
助けてほしいわ……ギルバート。早く戻ってきて……
「メリアーナ様、早馬用の替え馬たちがベルシュタインから出立したようです。王都のタウンハウスからも予定通りに。同時にダミーも走らせております。交換地点に予め替え馬を潜ませておきたかったのですが、王城への最短ルートには友好的な領地がありませんから」
家を挙げて通信用魔導具の開発に力を入れている補佐役の情報は早い。
通信が届く距離が短いのが欠点だが、いずれ改良されることを期待したい。
「それどころか、フラナド領地と同盟関係にある領地を通過しないといけないのでしょう?」
「左様でございます」
離婚証明書はこちらの手を離れているので、出来ることはもう無い。
ベルシュタイン領に逃げ込むことを最優先に考えないといけないだろう。
「しかし……王城まで五日か……何か仕掛けてきますかね」
「分からないわ。少なくとも、離婚証明書はもうわたくしたちの手を離れたから連絡を待ちましょう……ベルシュタインまでの隊列の安全に気を配らないと。五十人の平民を、移動しつつ守るのは容易なことじゃないわ」
「以前からの交渉通り友好領地の町村ごとに分散させて、万が一用の替え馬の準備を整えさせている最中です。騎士たちにも各自替え馬の手配を命じております。ご命令通り馬車は全て四頭立てとし、騎兵はもちろんのこと参加希望の声が大きい騎士とその従者も、全て騎馬での移動となります」
「短い時間でよくぞそこまで手配してくれたわね。ありがとう。輿入れの時とルートは変更してあるのよね? そちらの対策はどうなっているかしら」
「山越えはないものの、川の横断が二か所ございます。橋を落とされないよう監視者を置いて警戒中です」
「馬の飼い葉を予定量積み込めない以上、草地を利用しない手は無いものね」
「はい。二時間移動・半時休憩の繰り返しを前提にルートを決定してございます」
「それでいいわ。馬を潰すわけにはいかないもの」
「移動魔法陣でフラナド領民を全員移動出来れば良かったのですが、無いものねだりをしても始まりますまい。魔導士の魔力で現在移動出来るのが二十名弱となれば、このように差配するしかありませんでした」
「時を捻じ曲げる力なのだから、代償もそれだけ大きいということね。帰還ルートに敵領地が無いだけましよ。時間が経てば経つほどこちらに有利になるのだし」
時が一気に動き出し、目まぐるしい。
移動魔法陣が設置されている部屋の窓という窓は潰されていて、天井はとても高いのに、重苦しい空気がのしかかってくるように思えるのは、自分の気持ちの重さが反映されてしまっているからなのだろう。
大広間に到着すると、既に魔法陣が光っていて一気に光量を増すと、うっすらと人影が映った。
振動が収まり光が収束すると、少ししか離れていなかったのに、そばにいて欲しかった人の姿があった。
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