17 / 33
第十七話 野営二日目
しおりを挟む
◇ ◇ ◇
「こ、こんな話は聞いてねえ」
「なんだこの隊列は……まるで軍隊じゃねえか」
フラナドの書記頭が調達したのは、自身の荘園で雇った十数人もの傭兵だった。
過去にベルシュタインの領地戦に参加したことがある、という触れ込みで売り込んで来たので雇うことにしたのだ。
『なに、俺らが戦ったのはベルシュタインとは敵のほうでしたがね』
『おおっ。では公爵家側ではないか! それとも筆頭侯爵家側か?』
素晴らしい奴らが売り込んできたものだ。
これはついてるぞ。
『公爵家側……と言えなくはないほうですかね』
書記頭は知らないが、"領地戦真っ最中の土地を横切った"だけでも参加したと嘯く傭兵も多い今の世の中。
が、運よく"本物の"傭兵だったので、まだついていたといえよう。
帰還中の一行は順調にベルシュタイン領に近付いていて、現在は書記頭の治める土地に入っていた。
傭兵団は依頼を受けてから悟られないよう、隊列の戦力と弱点を掴むべく情報を収集してきた。
隊列は昨日の夕刻にフラナド領主館を出発し、現在は二日目の昼過ぎである。
速度は常歩で、馬を潰さないよう慎重に隊列を進めていることから、当分は替え馬の交換所が無いことを示している。
進行ルートを予測するに、今後は中立の小領地に入り半日進んだあと、ベルシュタイン侯爵領と友好同盟を結んでいる小領地へと入ってしまうだろう。そうなれば迂闊に攻撃を仕掛けることも出来なくなる。時間が経てば経つほど隊列の有利に繋がるのだ。
問題はこの隊列の戦力である。
隊列の前方には、明らかに尋常ではない優美な鎧を身に着けた騎士が立派な軍馬に跨り、その四方を守るように騎馬が複数付き従っている。
次に進むのは箱馬車が九台に荷馬車が二台。騎兵が馬車の左右にそれぞれ護衛に就き、馬車の後には鎧を身に着けた騎士たちが、これもまた堂々たる軍馬に跨っている。
しんがりにはローブ姿の騎馬が五体。おそらく一番厄介であろう魔導士たちなのが見て取れた。
日が出ている間は急襲しても返り討ちにあうだけだろう。
だが夜も更けた頃ならば──
もっとこちらの戦力を増やし、更に夜襲ならば、無力で足手まといな平民たちを逆にこちらが盾にして戦うことも不可能ではない。
傭兵団のリーダー格の男が提案する。
「俺に考えがある。まずはあの隊列の戦闘人員より人数を増やしてからだが……」
「───」
「……そりゃいい!」
どんな作戦だろうが、卑怯と罵られようが勝てばいいのだ。
──ただ、彼らは対立している相手の本質を知らなかった。
この国はもう何年も外敵との戦争は起こっておらず、だからこそ領地戦が許可されている。
傭兵たちも領地戦経験者ではあったが、同盟領地の小競り合いに参加したのがせいぜいで、ベルシュタイン侯爵家一家の顔を知らず、姿も見たことは無く、主戦場の経験も無かった。
ベルシュタインの戦いぶりを少しでも見ていたら、彼らはそもそもこの仕事を受けることは無かっただろう。
同日深夜──
月は細くほぼ暗闇の中、数人の人影が心細いランタンの光に照らされて馬車のステップを下りた。馬は数か所に分けて、杭と板とで作成された簡易的な柵の中にいる。
「ねぇ……危険じゃない?」
「仕方ないじゃない。生理欲求だけは我慢出来ないもの……」
馬車を囲むように野営テントが設置されていて、交代で見回りをしている兵士がメイドたちに気が付いた。
「すみません、お花摘みに行きたいのですが……」
見回りの兵士は慣れているのか軽く頷いた。使用人にはメイドが多いので何度も同じやり取りをしているのだろう。
「ここで見張っているから、あそこに設置してある簡易厠で済ませてくるといい。穴を掘って板を載せてあるだけの簡単なものだが、テントで周囲を遮ってある。女性用は赤い端切れで分かるよ」
「あ、ありがとうございます!」
良かったね、と言い合いながらメイドたちは設置されたテントに向かう。
「赤い端切れ……あったわ、こっちよ」
ランタンの光で辛うじて端切れが縫い付けてあるのが分かる。
テントは二つあったが、もう片方に端切れは見当たらないのでこっちだろう。
「こ、こんな話は聞いてねえ」
「なんだこの隊列は……まるで軍隊じゃねえか」
フラナドの書記頭が調達したのは、自身の荘園で雇った十数人もの傭兵だった。
過去にベルシュタインの領地戦に参加したことがある、という触れ込みで売り込んで来たので雇うことにしたのだ。
『なに、俺らが戦ったのはベルシュタインとは敵のほうでしたがね』
『おおっ。では公爵家側ではないか! それとも筆頭侯爵家側か?』
素晴らしい奴らが売り込んできたものだ。
これはついてるぞ。
『公爵家側……と言えなくはないほうですかね』
書記頭は知らないが、"領地戦真っ最中の土地を横切った"だけでも参加したと嘯く傭兵も多い今の世の中。
が、運よく"本物の"傭兵だったので、まだついていたといえよう。
帰還中の一行は順調にベルシュタイン領に近付いていて、現在は書記頭の治める土地に入っていた。
傭兵団は依頼を受けてから悟られないよう、隊列の戦力と弱点を掴むべく情報を収集してきた。
隊列は昨日の夕刻にフラナド領主館を出発し、現在は二日目の昼過ぎである。
速度は常歩で、馬を潰さないよう慎重に隊列を進めていることから、当分は替え馬の交換所が無いことを示している。
進行ルートを予測するに、今後は中立の小領地に入り半日進んだあと、ベルシュタイン侯爵領と友好同盟を結んでいる小領地へと入ってしまうだろう。そうなれば迂闊に攻撃を仕掛けることも出来なくなる。時間が経てば経つほど隊列の有利に繋がるのだ。
問題はこの隊列の戦力である。
隊列の前方には、明らかに尋常ではない優美な鎧を身に着けた騎士が立派な軍馬に跨り、その四方を守るように騎馬が複数付き従っている。
次に進むのは箱馬車が九台に荷馬車が二台。騎兵が馬車の左右にそれぞれ護衛に就き、馬車の後には鎧を身に着けた騎士たちが、これもまた堂々たる軍馬に跨っている。
しんがりにはローブ姿の騎馬が五体。おそらく一番厄介であろう魔導士たちなのが見て取れた。
日が出ている間は急襲しても返り討ちにあうだけだろう。
だが夜も更けた頃ならば──
もっとこちらの戦力を増やし、更に夜襲ならば、無力で足手まといな平民たちを逆にこちらが盾にして戦うことも不可能ではない。
傭兵団のリーダー格の男が提案する。
「俺に考えがある。まずはあの隊列の戦闘人員より人数を増やしてからだが……」
「───」
「……そりゃいい!」
どんな作戦だろうが、卑怯と罵られようが勝てばいいのだ。
──ただ、彼らは対立している相手の本質を知らなかった。
この国はもう何年も外敵との戦争は起こっておらず、だからこそ領地戦が許可されている。
傭兵たちも領地戦経験者ではあったが、同盟領地の小競り合いに参加したのがせいぜいで、ベルシュタイン侯爵家一家の顔を知らず、姿も見たことは無く、主戦場の経験も無かった。
ベルシュタインの戦いぶりを少しでも見ていたら、彼らはそもそもこの仕事を受けることは無かっただろう。
同日深夜──
月は細くほぼ暗闇の中、数人の人影が心細いランタンの光に照らされて馬車のステップを下りた。馬は数か所に分けて、杭と板とで作成された簡易的な柵の中にいる。
「ねぇ……危険じゃない?」
「仕方ないじゃない。生理欲求だけは我慢出来ないもの……」
馬車を囲むように野営テントが設置されていて、交代で見回りをしている兵士がメイドたちに気が付いた。
「すみません、お花摘みに行きたいのですが……」
見回りの兵士は慣れているのか軽く頷いた。使用人にはメイドが多いので何度も同じやり取りをしているのだろう。
「ここで見張っているから、あそこに設置してある簡易厠で済ませてくるといい。穴を掘って板を載せてあるだけの簡単なものだが、テントで周囲を遮ってある。女性用は赤い端切れで分かるよ」
「あ、ありがとうございます!」
良かったね、と言い合いながらメイドたちは設置されたテントに向かう。
「赤い端切れ……あったわ、こっちよ」
ランタンの光で辛うじて端切れが縫い付けてあるのが分かる。
テントは二つあったが、もう片方に端切れは見当たらないのでこっちだろう。
814
あなたにおすすめの小説
『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!
志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」
皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。
そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?
『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる