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今日もアクアオッジ家は平和です
46 ㉑その時、王宮では
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平穏無事に終わったかに思えた、タウン・ハウス事件だが……
双子があれだけの騒動を起こして、何事もなく平和に終わるはずがなかった──
王宮の一室──国王の執務室は、はしごを使わなければ届かない、天井までの本棚と書類棚が圧巻の重厚な部屋である。
歴代の国王が蒐集してきた本に加え、書類棚にはあらゆる法令集や外交文書、勅許もそこに収められており、古い物になると羊皮紙の文書もある。
人払いが済み、今部屋にいるのは威厳のある肘掛け椅子に座る国王と、対面にいる王太子の二人だけだった。
「女神教会の聖女からの要求──どう思う?」
ラザナキア王国国王が、自らの長子に問うた。
「任せてしまうほうがよろしいかと。レイファ・アクアオッジも"聖女が要求してきたことを全て呑んだほうが、結局はこちらの利になる"と。女神教会も一枚岩ではありませんからね。借りを作ることにはならないようです」
「聖女の要求は『連日調査のためアクアオッジ家のタウン・ハウスに詰めかけている人員を、一旦総撤退させよ。こちらの指定した兵のみお借りいただきたく』だったか」
「あの聖女ですから、もっと物言いは丁寧でしたがね。聖女が私を指名してくれたのは、ありがたいですね。側近のレイファのおかげだと思いますが」
「またもやアクアオッジか……」
──ここで、王の執務室の扉をノックする音がした。
「全く……一刻たりともままならんのか」
王はひとりごちると、
「入れ!」
不機嫌な声を発した。
「父上、兄上、人払いされておりましたところ、御無礼をお許し下さい」
重厚な両扉から入室してきたのは、アンドリュー第三王子である。
「まことに、地獄耳よなアンドリュー」
「私にも専属の"影"がおりますから」
悪びれることなく言う息子の言葉に、国王はふっと口角を上げた。
父と王太子が話し合いをしているのを察知して、アンドリューは願い出る。
「兄上が指揮する小隊に私も加えて頂きたく」
「此度のことはお前の責任ではないのだぞ。むしろ手柄だったと聞いておる」
「自らの行動の一環を贖罪とは考えてはおりません。そうではなく、メリル・アクアオッジ辺境伯令嬢は私の婚約者でもあります。無関係ではないのです」
ほぉ? と国王は顎髭をさすりながら目を細めた。
「アンドリュー……其方──政に有用かそうでないか、でしか人を見てこなかったものを……変わったな」
ふっと笑ったアンドリューの顔は、少年から青年へ移り変わろうとする危うさと、目を奪われる成長期特有の繊細な美しさを湛えていた。
今年に入ってから、アンドリュー第三王子の身長は伸び盛りで、王宮内では既にメイドや侍女たちの黄色い歓声が密かに飛び交っている。彼は絶世の美女と謳われた現王妃の末息子であり、美形揃いと言われる三兄弟の中でも、最も容姿が母親譲りだった。
「あの炎は異様でした。館が全焼して表向き火は消えたということになっておりますが、それだけではない、とも聞き及んでおります」
将来、外交の補佐を任せることが出来る弟、ということで王太子の目から見ても、第三王子の評価は高い。王位継承を争うこともなく、求める女性の嗜好が異なるのも大きい。
腹に一物抱えなくてもよいとあって、存外この弟のことは可愛くて仕方がないので、口添えも忘れない。
「父上、アンドリューも連れていきますよ。良い経験になることでしょう」
「兄上……」
やはり、父上だけの場で頼むより、兄上も同席している時を狙って良かったと、第三王子は思った。
「そう、か。分かった。口さがない者たちを黙らせるためにも、無事解決してくるのだ。──決して侮るな……これは云わば……異種族の侵略なのだからな」
二人の王子は国王に対して礼をとる。
密かに忍び寄る国家の危機に対処する王族として。
「承知しました」
双子があれだけの騒動を起こして、何事もなく平和に終わるはずがなかった──
王宮の一室──国王の執務室は、はしごを使わなければ届かない、天井までの本棚と書類棚が圧巻の重厚な部屋である。
歴代の国王が蒐集してきた本に加え、書類棚にはあらゆる法令集や外交文書、勅許もそこに収められており、古い物になると羊皮紙の文書もある。
人払いが済み、今部屋にいるのは威厳のある肘掛け椅子に座る国王と、対面にいる王太子の二人だけだった。
「女神教会の聖女からの要求──どう思う?」
ラザナキア王国国王が、自らの長子に問うた。
「任せてしまうほうがよろしいかと。レイファ・アクアオッジも"聖女が要求してきたことを全て呑んだほうが、結局はこちらの利になる"と。女神教会も一枚岩ではありませんからね。借りを作ることにはならないようです」
「聖女の要求は『連日調査のためアクアオッジ家のタウン・ハウスに詰めかけている人員を、一旦総撤退させよ。こちらの指定した兵のみお借りいただきたく』だったか」
「あの聖女ですから、もっと物言いは丁寧でしたがね。聖女が私を指名してくれたのは、ありがたいですね。側近のレイファのおかげだと思いますが」
「またもやアクアオッジか……」
──ここで、王の執務室の扉をノックする音がした。
「全く……一刻たりともままならんのか」
王はひとりごちると、
「入れ!」
不機嫌な声を発した。
「父上、兄上、人払いされておりましたところ、御無礼をお許し下さい」
重厚な両扉から入室してきたのは、アンドリュー第三王子である。
「まことに、地獄耳よなアンドリュー」
「私にも専属の"影"がおりますから」
悪びれることなく言う息子の言葉に、国王はふっと口角を上げた。
父と王太子が話し合いをしているのを察知して、アンドリューは願い出る。
「兄上が指揮する小隊に私も加えて頂きたく」
「此度のことはお前の責任ではないのだぞ。むしろ手柄だったと聞いておる」
「自らの行動の一環を贖罪とは考えてはおりません。そうではなく、メリル・アクアオッジ辺境伯令嬢は私の婚約者でもあります。無関係ではないのです」
ほぉ? と国王は顎髭をさすりながら目を細めた。
「アンドリュー……其方──政に有用かそうでないか、でしか人を見てこなかったものを……変わったな」
ふっと笑ったアンドリューの顔は、少年から青年へ移り変わろうとする危うさと、目を奪われる成長期特有の繊細な美しさを湛えていた。
今年に入ってから、アンドリュー第三王子の身長は伸び盛りで、王宮内では既にメイドや侍女たちの黄色い歓声が密かに飛び交っている。彼は絶世の美女と謳われた現王妃の末息子であり、美形揃いと言われる三兄弟の中でも、最も容姿が母親譲りだった。
「あの炎は異様でした。館が全焼して表向き火は消えたということになっておりますが、それだけではない、とも聞き及んでおります」
将来、外交の補佐を任せることが出来る弟、ということで王太子の目から見ても、第三王子の評価は高い。王位継承を争うこともなく、求める女性の嗜好が異なるのも大きい。
腹に一物抱えなくてもよいとあって、存外この弟のことは可愛くて仕方がないので、口添えも忘れない。
「父上、アンドリューも連れていきますよ。良い経験になることでしょう」
「兄上……」
やはり、父上だけの場で頼むより、兄上も同席している時を狙って良かったと、第三王子は思った。
「そう、か。分かった。口さがない者たちを黙らせるためにも、無事解決してくるのだ。──決して侮るな……これは云わば……異種族の侵略なのだからな」
二人の王子は国王に対して礼をとる。
密かに忍び寄る国家の危機に対処する王族として。
「承知しました」
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