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一章・アイヅ王子との婚約破棄編

24話・ドラゴンと魔王についてのお話をします

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 唖然とする私達は、ドラゴンの鼓動を感じて立ち尽くした。流石は伝説とまで言われる存在のドラゴン。凄まじいオーラを感じるわね……だけど負けてられないわよ。

「バクーフ王国に飛来したドラゴンさん。ここで産卵でもしてるのかしら? かーしーらー?」

「我を見ても怖じけずかない気迫は褒めてやろうぞ女。人前に姿を現さぬドラゴン族の我がこの地に来たのは、魔王復活の予兆があるからだ。魔王復活が近いならば、我が子孫を増やしておく必要があるからな。魔力は減るが増やせる時に増やしておかねばならんのだ」

「魔王復活とか先の話はいいわ。今知りたいのはここで卵を産む気かという事」

「そうだ。我のドラゴンエッグはこの地に数個落としているが、ここにあるモノこそが子孫が生まれるドラゴンエッグ。赤い卵の色こそベビーが生まれるドラゴンエッグなのだ」

 すると、ドラゴンは懐にあるドラゴンエッグを見せて来たの。確かに赤いドラゴンエッグで、生命の鼓動を感じるわ。あれが手に入れば凄い事になりそうね……。

「んじゃ、私達はここでドラゴンを守護しましょう。魔王とかに関係するなら子供が生まれた方が得だと思うわ。そしたら勇者様も現れるだろうし」

 そう、私はニートさんとスララに提案した。すると、ニートさんはドラゴンの目の前に立っていたの。

「だいぶ体力も魔力も減っているね。魔王復活とはいつ頃かわかりますかドラゴン?」

「そちも気になるか。魔王復活は半年もあれば復活するだろう。この半年で勇者とその仲間が魔王討伐出来るレベルにならないとならぬ。前回は封印止まりだったが、今回は生贄を用意して確実に葬る事だ。魔王を始末するには大事な仲間を生贄に捧げる必要があるからのぅ」

 私は、魔王復活の時期と魔王を討伐する為の手段を知った。魔王討伐には大事な仲間の命を生贄に捧げる事――。

 ならば、勇者様に救われた命はそこで使えばいい。半年でも勇者様との思い出があれば、私は死ぬのも怖く無い。与えられた命を返すだけだから。

「いい事を聞いたわドラゴン。なら私は勇者様のパーティーに入って、私が生贄になる。何せ私は勇者様に命を助けられた女だからね」

「ドーラ。やはりそうか。人間の女にしては光の魔力を蓄えていると思いきやそういう理由か。我を発見出来たのも勇者の力のカケラというわけだな」

 スララはドラゴンエッグに興味を示したようで、ドラゴンエッグに近寄る。そして、私はドラゴンに勇者様の居場所を聞いたの。

「ねぇ、ドラゴン。勇者様はいまどこにいるの? このバクーフ王国周辺にいるのは確かだと思うんだけど」

「そうだな。確かにこのバクーフ王国にいる。だが、女は本当に魔王討伐の為の生贄になるつもりか? その背中には勇者烙印があるのだろう? その絆の為に死ぬのか?」

「えぇ、そうよ。私は勇者様の為に生き、勇者様の為に死ぬ。それが私の人生。この背中の烙印は勇者様と私を繋げる絆。誰にも壊さないの」

「命を簡単に捨てるとか言うな!」

 いきなり、ニートさんは叫んだ。
 確かに、ニートさんには私に勇者様の烙印があるなんて知らないし、私が魔王討伐の為の生贄になるのも許せないのかも知れない。けど……。

「ニートさん。私は十年前に勇者様に助けられたの。その命はおそらく魔王討伐の為の生贄として生かされた命。魔王への旅を共にした仲間を生贄にするより、見ず知らずの少女を使った方が罪悪感もないだろうし私が適任でしょう。だからニートさんは気に病まなくていいのよ」

「いい加減にしなよ」

「……!」

 私は頬を叩かれた。
 初めて男の人から頬を叩かれた。
 信頼していたニートさんから……。
 私は涙も出ず、涙を流すニートさんを見つめていた。

「もしかしたら勇者は君を魔王討伐の為の生贄として生かしたのかも知れない……けど、人間の心は変わる。今の勇者は君を生贄にはしたくないと思ってるかも知れない。それに、君にも家族や友達がいるだろう? 生かされた命でも命は命だ。そんな簡単に捨てていいもんじゃないんだよ」

「……うん。ありがとうニートさん。私の為に泣いてくれて」

 そっとニートさんを抱き締めた。
 いつも私が見上げるほど大きいニートさんは、この時はとても小さな子供に感じたの。

 私も、こんなに慕ってくれる人がいたのに驚いてもいたわ。クエストクラスになって、何でも出来ると勘違いしていたのかも知れない。

(自分の命も道具のように思ってたら、近くの人を傷つけてしまうわね……)

 そして、ドラゴンはドラゴンエッグに魔力を注入するのが終わったようなの。

「これで、このドラゴンエッグも一日もあれば子供が羽化する。我は今からこの場を去る。このドラゴンベビーが羽化すれば、すぐにベビー自身も飛び立つ事が出来る。それまでの間見守っていてくれ」

「ちょっと待って! 何故消えるの? 子供の面倒は?」

「残念ながら人間などと違い、ドラゴン族には親子の関係は無いのだ。ただ、記憶とやるべき事が継承されていくのみ。だから子供だろうと羽化して飛び立てば身体は子供でも強さはドラゴンなのだよ」

「そう……なの。わかったわ。私達が羽化して飛び立つまで見守る。魔王復活まで死なないでねドラゴンさん」

「そうだな。だが、魔王は今度こそ封印ではなく討伐しなくてはならぬだろう。頼んだぞ勇者よ」

 そうして、ドラゴンはその場から消えるようにダンジョンの外へ脱出したの。そのままどこかへ飛び立って行ったようだわ。だけど、疑問に思う事がある。

(勇者……って私はクエストクラスだけど勇者じゃないし。何を言ってるのかしらドラゴンは?)

 ドラゴンは古の昔より、勇者様との関係が深い伝説の存在。時に勇者様に伝説の武具を渡したり、時に魔王以上の悪として敵対したり、様々な関係で関わり合いがあるという言い伝えがあるわ。

(そのドラゴンが私の背中の勇者烙印を感じて勇者と勘違いした? それとも……勇者様に似ているニートさんを……)

 ぽん、と肩に手を置かれた。

「勇者さんに頼んでおいて下さいねアヤカ」

 と、ニートさんの声で私は納得した。
 ドラゴンはただこのバクーフ王国のどこかにいる勇者様に言っただけなんでしょう。深読みし過ぎたわ。

「それと、さっきは叩いてゴメン」

「私もクエストクラスになって、国の防衛の為に殺人もしてたから命の価値がわからなくなってたの。それを思い出させてくれて感謝してるから怒ってないわ。これからもよろしくねニートさん」

「うん。よろしくねアヤカ」

 そうして、ドラゴンエッグをめぐる遠足はドラゴンの子供を宿す卵を見つけて終わったわ。

 そして、私達はドラゴンに頼まれた赤いドラゴンエッグから羽化するベビードラゴンの観察に入るわ。とりあえずスララがドラゴンエッグの近くにいたはずだけど……。

「あれ? ドラゴンエッグが無い? ドラゴンの子供が生まれる赤い卵が……」

 どこを見ても赤いドラゴンエッグは無いわ。
 ドラゴンが消えた時まではあったのに……何故?

「ニートさん。確かにドラゴンエッグあったよね? 何故消えたの?」

「スララが興味を持って近くにいたのは確かだよ。でもスララは消えて無い。となると……」

 まさか……? と疑う私達はスララを見た。
 すると、スララはバカ正直に答えたの。

「ハヒ! 美味しそうなので食べてしまいました! 流石はドラゴンエッグ。世界最高の味でした! ハヒーン!」

 プツン……と怒りが一瞬にして増幅され爆発したわ。ツインテールの髪はゴムが外れてストレートになり、胸元が見える黒の魔女服に変化し、足のショートヒールは長めの鋭利なヒールへと変わる。そして、メイクアップした悪役令嬢モードへなったわ。

 同時に、隣の金髪イケメンニートさんも、髪が逆立ってスーパーニートさんになっていた。今の二人はシンクロした状態で言うの。

『スララぁ……!』

「……ハヒ? ちょ! お二人共待った! 拙者もドラゴンから去り際に食べていいと勧められたから食べただけで、拙者に非は……非わぁぁぁぁぁーー」

『あるに決まってるだろーーーっ!』

 とりあえずニートさんとボコボコにしておいた。何故かニートさんも乗り気だったのが意外だったわ。ドラゴンの子供が生まれる卵を食べた事は、内緒に出来るのか出来ないのかメチャクチャ不安だわ。

 そんなこんなで、私は勇者様を見つけられずに次の婚約破棄である動物王国トサの王子との戦いに挑む事になった。

 ドラゴンへの謝り方は……勇者様に会ったら聞くしか無いわ……。
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