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四章・魔軍王子との婚約破棄編
52話・魔軍王子がバクーフ王国に到着しました。
しおりを挟む緩やかな風が私のツインテールを撫でるように流れて行く――。
「いい風ね……」
その日の昼過ぎ。私はバクーフ王国北の国境付近で待ち受けます。視線の先に見える森から現れる人物を待っているのです。その相手は人間の敵である魔王軍の王子・魔軍王子です。
突如、海運王国のチョウシュウ王国を襲撃した魔王軍によってチョウシュウ王子との婚約破棄も成立しました。けど、それは私の行動の結果ではなく魔王軍の行動の結果の余波。
今はチョウシュウ王国は一部の占領だけで戦争は起きて無いようだけど、バクーフ王国も魔軍王子がどう出るのか? を確認しないとならない。魔王がまだ復活していない魔王軍が来た理由も正確に知らないと、戦争になるかどうかもわからないから。
(今日のタロット占いはマジシャンの正位置。私の創造的な才能は活かす必要があるわ。魔軍王子がどう出て来ても、悪役令嬢として切り抜けてみせる)
少し時が経ち、少し先の森から数機の馬に乗った人影が見えたわ。あの先頭の黒い馬に乗る青い肌の重厚な鎧を着た人物が異様な魔力を放っているわ。魔族らしい冷たく暗い魔力をね。
そうして、魔王軍・魔軍王子と従者の三人は私の前に来て馬から降りたの。すぐにバクーフ王国側の警戒兵がその四頭の馬を引いて行くわ。私は黒い魔女服のスカートの左右をつまんでお辞儀したわ。
「御機嫌よう魔軍王子。少し到着が遅れたかしら?」
「この時間が定めだ悪役令嬢。この俺にそんな口を聞くのは貴様らしくて良い。褒めてつかわすぞ」
「感謝しますわ魔軍王子。でも私に惚れないでね?」
「誰が惚れるか。早くバクーフ王国内部に案内しろ。それが仕事だろ悪役令嬢」
「はいはい。わかってるわよ魔軍王子。今日はこの前いたキチスケという人間の召使いはいないの?」
「今日はもう必要無いだろう。あのキチスケという男はまんじゅうばかり食っていて食費がかさむから雇うのも嫌なのさ。そんな話はいい。そちらの国への入国規制があると聞いたが本当か?」
魔軍王子の言う通り、バクーフ王国内への入国は他国人は制限されているの。魔族によるバクーフ王襲撃事件があったからね。入国制限は特に魔族なら尚更ね。
「魔軍王子も家臣の三人も、我々バクーフ王国側が指定した場所以外の立ち入りを禁止します。そして、宿にも外部に24時間体制で監視が付きます。これが守られない場合、私が始末する事になるのでご承知を」
「わかった。コチラも余計な事はしないさ。そちらも我々魔王軍に何もしなければな。今回はあくまで、バクーフ王国との外交だ。外交の目的としてスズカ姫との婚約がある。無用なトラブルはお互い避けたいものだよ」
「えぇ、このバクーフで怪しい魔族を見かけたら確実に殺してしまうのでご注意を。では、バクーフ王国へ参りましょう」
私は魔軍王子と三人の家臣を連れてバクーフ王国への門をくぐる。まず、バクーフ王国の王宮から近い宿屋に連れて行かないとならない。そこで、荷物などを置いて休憩してからバクーフ王との面会になる。面会は夕方になるだろうけどね。
バクーフ王国内部は魔王軍の人間が現れると知らされているけど、いつも通りの仕事と生活をしているわ。必要以上に警戒しても仕方ないからね。魔王軍には屈しないというアピールも兼ねて普通に生活してるの。宿屋までの道の途中、「呪い」についての研究が進んでいる魔族に色々聞いてみるの。
「ねぇ、魔軍王子。魔軍王子は誰かに呪いをかけた事がある?」
「無いな。強い魔族は呪いを死ぬ間際にかける事が出来るが、俺はかけた事もかけられた事も無い。そもそも、呪いの魔法もあるがあれは敵のスパイに対して真実を話す自白用とも言えるからな。俺が使う事は無いさ」
「そっか。なら強い呪いを解くには呪いをかけた人間が死ぬか、本人が呪いを解くしか無いんだよね」
平然と魔王軍の王子に質問してるから家臣達も質問を辞めろと言っているわ。でもそれを制した魔軍王子は言う。
「「呪い」とは元来大きな力で解く物が多い。人間のかける呪いなら、人間のいう「愛」というものがやはり人間の呪いにおいては多いのだろう。それは容易く解除出来る物じゃない。魔族だと単純に憎悪を燃やした精神力などで上書きされて解除される場合が多いがな。まさか、お前も呪いにかけられているのか悪役令嬢?」
「いえ、ただ聞いてみただけよ」
魔族の呪いは怒りや憎悪で上書きされる。
人間の呪いは「愛」が重ければ重いほど解除も大変なようね。スズカの呪いも、私の呪いも怒りや憎悪では解除出来るわけじゃないから、地道に行くしかないわね。
宿屋に着いたので、魔軍王子達は自室で荷物を置いてリラックスしているわ。紅茶やバクーフ名物のバタードングリを食べている。旅の汗を流すように顔を洗う魔軍王子はタオルで顔を拭いていたの。
「疲れてるの? 顔色が悪いわよ魔軍王子」
「魔王の血筋の者は青い顔が定めだ。何を言っている悪役令嬢」
「あぁ、顔色が悪いのは寿命が減っているからかしら? かしらぁ?」
引きつった顔で魔軍王子は私を見ていたわ。バクーフ王襲撃犯であり、お花見の時に現れた魔族もこの魔軍王子。襲撃事件の魔族は「定め」という言葉を使っていたからね。出会い頭にも言われたし、今も言われたから口癖なのでしょう。
私はあえて気付かれるようにそれを言っておくわ。
この婚約イベントでの滞在中に何もするな――という暗黙のアピールをしておくの。
それでも、今回の婚約イベントもいつも以上に警戒する必要があるわ。魔王軍の王子がいる以上はね。
(今日のタロット占いはマジシャンの正位置。呪いについて聞けたのと、バクーフ王襲撃犯は魔軍王子と確信したのは序盤としてはいい展開ね。私の創造的な才能は活かせたと思うわ。オホホのホ!)
その後、魔軍王子達は室内で瞑想をしているわ。何の為の瞑想なのかしら?
「知らない土地で安定して暮らすには魔法陣を使い瞑想する儀式があるのだ。邪魔するなよ」
「しないけど監視はするわ」
「監視が定めとは面倒な仕事をさせられてるな悪役令嬢」
そうして、瞑想儀式が終わった後に一時間ほどの仮眠を取っていたわ。魔族の文化もよく知らないから好きにさせてあげてる。直接的な何かをやれる状況じゃないのも向こうはわかっているし。
魔軍王子達は休憩と話し合いが終わり夕方からバクーフ王との面会に赴いたの。その後は、魔軍王子歓迎パーティーの夜になるわ。ここから、魔軍王子との婚約破棄が始まるの!
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