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四章・魔軍王子との婚約破棄編
53話・魔軍王子の歓迎パーティーです
しおりを挟む魔軍王子の歓迎パーティーがバクーフ王宮のパーティー会場で始まります。今日は魔族を歓迎するイベントなので、やはり王族も貴族も緊張していますね。
世界を支配し、滅ぼす事を目的する魔王軍の魔族という異種族との交流なので緊張するのも当然です。過去にバクーフ王国も魔王軍との戦争をしていますし、人間と魔族の間には深い溝があります。それを魔王封印という形で解放したのが、勇者様。
「魔王復活の予兆があるから、魔王軍の王子として勇者が生まれた国とされるバクーフ王国に来たのね。五年前の魔王封印から見つかっていない勇者様を
そう、パーティー会場の壁に寄りかかりなが私は魔軍王子の登場を待っていたの。飲み終わったオレンジンジャエールのグラスをウェイターに渡すと、マジックマイクで魔軍王子の登場のアナウンスが入ったわ。会場のライトは少し暗くなり、パーティー会場のメインステージに向かう花道にも光が注がれ、ドアがオープンしたの。
一瞬の沈黙の後、盛大な拍手で魔軍王子と家臣の三人は出迎えられたの。流石に貴族令嬢達も今回は黙ったまま沈黙してる。会場のアナウンスも無く、ただ歓迎を仕方なくしているような拍手が鳴り続き、魔軍王子達はメインステージへ歩いて行くわ。
(さて、ここからヒロインモードとなるスズカがどう出るか? 前回は少し心にヒビを入れられたから、今回の魔軍王子との婚約イベントでスズカの呪いも解放させられたらラッキーだわ)
そう思いながら、魔軍王子を見つめていた。メインステージに到着し、パーティー会場の観客を見つめる魔軍王子は、闇を模したような長めの黒髪に青い肌。眼光は鋭く、黒い魔王軍の制服はパーティー会場の人間達に威圧感さえ感じさせていたの。拍手はされているけど、観客達の顔は引きつってもいたわ。
「たくさんの拍手ありがとうバクーフ王国のみなさん。俺は魔王軍の魔軍王子だ。今回は魔王を封印せし勇者が生まれた国とされる、バクーフ王国のスズカ姫との婚約に参った。これが定めとして俺は婚約を勝ち取るつもりだ。よろしく頼む」
そう、魔軍王子が挨拶すると人の言葉を話せるというだけで王族も貴族も関心していたわ。魔王軍と言うと、暴れるモンスターや魔族のイメージしか無いからね。その魔軍王子だけではなく、家臣の三人に貴族令嬢は目をつけているみたいね。肌の色や文化が違くても惹かれ合うようなの。
「やはり貴族令嬢達の考えは地位と金と見た目が全てか」
と、私はパーティー会場の隅で吐き捨てていた。そして、バクーフ王とスズカも現れて魔軍王子と挨拶をしているわ。今日のスズカは魔王軍に合わせたのか、ブラックのドレスを着ている。
キラキラしたラメが散りばめられたドレスで、頭には金のティアラがある。足元は血の色より濃いようなワインレッドのヒール。まるで悪の女王のような衣装で魔軍王子と話をしているわ。
(バクーフ王もスズカも普通に接しているし、魔王軍側も有効的だわ。このパーティー会場では何も起きなさそうね。後は婚約イベントをどう潰すのかに集中しようかしら)
今の所歓迎パーティーも順調なので、婚約破棄に向けて動こうとしていたの。ヒロインモードのスズカは当たり障りの無い事を言っているわ。おそらく今回の婚約イベントは戦争が起きる可能性があるから、不用意な事も言えないから注意してるのかも知れない。
すると、魔軍王子は一つのパフォーマンスをしたの。
「俺は魔王軍の王子として、このバクーフ王国の姫であるスズカとの婚約を決めに来た。一週間の滞在だが、心はすでにスズカ姫に惹かれている。これが定めだ」
『……!』
魔軍王子が膝をついて、スズカの手のひらにキスをしていたの!
会場の全ての人間がメインステージの魔軍王子の行為に驚愕しているわ! 魔族が膝をついて人間の女の手にキスをするのはあり得ない行為。もしかすると、単純にスズカとの婚約が目的なのかも知れない。
(今回のパーティーはスズカと魔軍王子の間に入りづらい雰囲気だわ。でも、頃合いを見て攻める)
その後、歓迎パーティーはいつものように盛り上がり、その途中で魔軍王子は私の方に近づいて来たの。
「こんなパーティー会場の端で飲んでいて楽しいか悪役令嬢?」
「楽しいも何も、私の仕事は会場の警護とスズカ姫の身の安全。どうかしら人間のパーティーは?」
「楽しいな。楽しさに人間も魔族も無いのかも知れん」
「そう、それは良かった。スズカ姫と……」
「そのスズカ姫にも関係がある話かも知れん。悪役令嬢よ、ニートという金髪の男に会わせてくれないか?」
「え?」
唐突に、魔軍王子はニートさんに会いたいと言うの。その理由を尋ねると――。
「もう全てわかっている。あの金髪に青い瞳。十年前の勇者が成長したらああいう姿になるだろう。バクーフでの調査結果からして勇者はニートしかあり得ない。魔王軍の調査をなめない事だ」
「その調査とは、お花見の襲撃という事なの?」
否定も肯定もせず、魔軍王子は口元を笑わせたわ。そうして、魔軍王子は本音を語り出したわ。
「悪役令嬢。貴様が聞きたいのはこう言う事だろ? 魔軍軍がバクーフ王国の姫と婚約して何の意味があるのか? その答えはこうだ。この勇者が生まれた国での婚約となれば、我々も消えた勇者を探せる事が出来るようになる。そして、勇者の力に対抗出来る魔王に俺がなる為の契約でもあるのだ」
「よく答えたわね。こんなパーティー会場で。誰が聞いてるかもわからないのに」
「誰が聞いていようと構わないさ。人間達も魔王軍が裏で何かしようとしてるのでは? という不安があるだろう。先にそれを解いておけば安心になる」
「ギブアンドテイクの婚約という事ね。バクーフ王国は魔王軍からの侵略は受けなくなり、魔王軍は勇者様の力を知り勇者様に負けない魔王を生み出そうとしている。でも、その魔王が誕生したら裏切る予定じゃないの?」
「魔王軍も一枚岩ではない。俺は魔王の子供の魔軍王子だが、現在の魔王軍ではトップじゃないのさ。魔王軍は今や半分に分裂している。魔王復活派と、新魔王誕生派にな。この魔王軍をまとめるのは俺が魔王になっても出来るとは限らないのさ」
どうやら魔王軍内も、かなりゴタゴタしているようね。五年前の魔王封印以降、魔王復活派と新魔王誕生派に分裂していて一枚岩ではない。それをどうにかする為に人間の姫との婚約に来たようね。
「あら魔軍王子とアヤカさん。お二人でコソコソと何を話していらっしゃるのですか?」
微笑みを浮かべる黒いドレスのスズカが現れ、魔軍王子は二人の黒い女に囲まれる状態だわ。どっちが本当の意味で黒いかはわからないけどね。
(混沌としている話を聞いて薄く笑ってるスズカが不快だわ。何を企んでるのかしら?)
おそらくこの会話を聞いていたスズカの行動が読めない。そして、魔軍王子は続ける。
「我々魔王軍も分裂した魔王軍を一つにする目的もあるが、人間達も魔王軍と手を組めば新生魔王誕生派の暴走に巻き込まれなくて済むというメリットもある。俺達は穏健派だが、奴等は危険思想もある。その為に、俺はスズカ姫と婚約するのだ」
「でもニートさんと会いたい理由はわからないわ。本当に勇者という可能性だけなの?」
「この人数で我々が何かすると思うか? 勇者との面会も必要と感じているから会うだけだ。勇者も分裂している魔王軍を知れば、何か動かざるを得ないだろうからな」
どうやら、自分達と対立する新生魔王誕生派に勇者様を戦わせる事を考えている気がするわ。でも、この話の流れを止められない。私もこの前聞けなかったニートさんの真実を知りたいから……。
「その沈黙は了承という事だな悪役令嬢。では定めとしてニートの小屋でお茶会を開こうか。狂ったお茶会をな」
「いいじゃないですかアヤカさん。魔族と人間が仲良くなるチャンスです。その輪の中心に私達がいられるなんて光栄ですよ。狂ったお茶会……しましょう?」
「……わかったわ。ニートさんには伝えておく。それでは御機嫌よう。魔軍王子、スズカ姫」
私は魔軍王子とニートさんを会わせようとしているスズカが、何をするかわからないから会わせたくは無かった。けど、もうここまでニートさんが注目されてるなら真実を知るしかない。
ニートさんが本当に勇者様なのかどうかを――。
こうして、ニートさんの小屋で狂ったお茶会が開かれる事になりました。
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