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赤い月の神の前で
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神殿の祭室では、神官たちの詠唱がいっそう強く響き、月の光が天頂を貫いていた。
聖なる環の中央、エリシアは膝をつき、祈りを捧げる。
月光の下、神託を降ろすための儀が始まろうとしていた。
そのときだった。
「この儀式を止めろ──!」
神殿の扉が、大きく開かれた。
騎士の一団に続き、漆黒の外套をまとったノルディスが姿を現す。
神官たちのざわめきが一瞬で静まり返る。
彼の眼差しはただひとり、祭壇の中央にいるエリシアを見据えていた。
「彼女を、これ以上“月神”への供物として捧げるなど、俺は認めない」
その声に、老巫女が一歩前に出る。
「何をするつもりです、ノルディス殿。これは神託に従う正しき儀。侵入は罪となります」
「神の名で命を奪うことが、正義と言えるのか?」
ノルディスの声は怒りではなく、深い悲しみを帯びていた。
「エリシア、戻ろう。……もう、誰にもお前を捧げさせはしない」
沈黙が落ちる。
エリシアの瞳が、揺れながらも彼を捉えていた。
その胸に、ずっと願っていた想いがこみ上げてくる。 (本当に……来てくれた……)
詠唱が止まり、神殿に凍りついたような静寂が訪れた
その瞬間、月光がわずかに揺らいだ。
儀式の流れを断ち切ることは、神託を妨げ、神の怒りを買うとされていた。
神官たちの間にざわめきが走り、老巫女の目に、これまでにない緊張が宿る。
「神の導きが乱れた……これは兆し。破壊か、それとも新たな始まりか……」
その場の空気は、目に見えぬ力のうねりを孕みはじめる。
結界の力が一時的に揺らぎ、天井に満ちる月の気が、荒れるように軋んだ。
神託を阻むということは、信仰の根幹を揺るがす行為。
それは聖都にとって、宗教秩序そのものへの挑戦だった。
ノルディスの行動は、やがて王国と聖都の対立を決定づける火種となる。
だがそのとき彼の胸にあったのはただ一つ
エリシアを守る。それだけだった。
*
神殿の天蓋が揺らぐ。
天頂に昇りつめた赤い月が、神託の光ではなく不吉な影を神殿の奥へと投げかけていた。
詠唱が止まり、沈黙が訪れて久しい。
空気はぴたりと凍りつき、誰一人、次の言葉を発することができない。
ノルディスの叫びが、世界の歯車を狂わせたのだ。
「彼女を……神に捧げるなど、間違っている!」
彼の声は力強くも静かで、場のすべてを覆った。
しかし、老巫女の目は変わらない。
「ならば、お前は“神託”よりも、人の情を選ぶのか」
「選ぶとも。俺の剣が届かずとも、彼女のためなら──神にすら抗う」
ざわめく神官たち。
その中で、ひとりの若い神官が剣を抜きかけたが、老巫女が片手を上げて制した。
「ノルディス殿。神託は“絶対”だ。それを崩すことは、聖都の根幹を揺るがす」
「ならば……その根幹ごと、変えてみせる」
そのとき、天井の大理石にひびが走った。
突如、月光が強く差し込み、祭壇の奥で風が吹き荒れる。
神の怒り──あるいは、新たなる啓示か。
しかし、エリシアは立ち上がっていた。
ノルディスを見つめ、静かに手を伸ばす。
「もう、止めて。これ以上……悲しむ人が出ないように」
その声は弱くも、神託の厳しさや神官たちの意志をも静かに打ち破るほどに、真っ直ぐに響いた。
ノルディスがそっとその手を握る。
「ならば、共に歩もう。信仰も、運命も、共に背負う」
老巫女が口を開いた。
「もし彼女を連れてゆくなら……その罪は王としての未来にも影を落とすことになる」
「かまわない。俺は、彼女の命と心を守る王でありたい」
老巫女はわずかに目を閉じ、そして、静かに言った。
「……ならば、月神の加護に委ねましょう。裁きも祝福も、月神の御心に」
その瞬間、赤い月が柔らかな光を放ち始めた。
ひび割れた天井から差し込む光は、まるで赦しのようにふたりを包んだ。
静かに、神殿が沈黙する。 新しい“運命”の幕が、いま開こうとしていた。
聖なる環の中央、エリシアは膝をつき、祈りを捧げる。
月光の下、神託を降ろすための儀が始まろうとしていた。
そのときだった。
「この儀式を止めろ──!」
神殿の扉が、大きく開かれた。
騎士の一団に続き、漆黒の外套をまとったノルディスが姿を現す。
神官たちのざわめきが一瞬で静まり返る。
彼の眼差しはただひとり、祭壇の中央にいるエリシアを見据えていた。
「彼女を、これ以上“月神”への供物として捧げるなど、俺は認めない」
その声に、老巫女が一歩前に出る。
「何をするつもりです、ノルディス殿。これは神託に従う正しき儀。侵入は罪となります」
「神の名で命を奪うことが、正義と言えるのか?」
ノルディスの声は怒りではなく、深い悲しみを帯びていた。
「エリシア、戻ろう。……もう、誰にもお前を捧げさせはしない」
沈黙が落ちる。
エリシアの瞳が、揺れながらも彼を捉えていた。
その胸に、ずっと願っていた想いがこみ上げてくる。 (本当に……来てくれた……)
詠唱が止まり、神殿に凍りついたような静寂が訪れた
その瞬間、月光がわずかに揺らいだ。
儀式の流れを断ち切ることは、神託を妨げ、神の怒りを買うとされていた。
神官たちの間にざわめきが走り、老巫女の目に、これまでにない緊張が宿る。
「神の導きが乱れた……これは兆し。破壊か、それとも新たな始まりか……」
その場の空気は、目に見えぬ力のうねりを孕みはじめる。
結界の力が一時的に揺らぎ、天井に満ちる月の気が、荒れるように軋んだ。
神託を阻むということは、信仰の根幹を揺るがす行為。
それは聖都にとって、宗教秩序そのものへの挑戦だった。
ノルディスの行動は、やがて王国と聖都の対立を決定づける火種となる。
だがそのとき彼の胸にあったのはただ一つ
エリシアを守る。それだけだった。
*
神殿の天蓋が揺らぐ。
天頂に昇りつめた赤い月が、神託の光ではなく不吉な影を神殿の奥へと投げかけていた。
詠唱が止まり、沈黙が訪れて久しい。
空気はぴたりと凍りつき、誰一人、次の言葉を発することができない。
ノルディスの叫びが、世界の歯車を狂わせたのだ。
「彼女を……神に捧げるなど、間違っている!」
彼の声は力強くも静かで、場のすべてを覆った。
しかし、老巫女の目は変わらない。
「ならば、お前は“神託”よりも、人の情を選ぶのか」
「選ぶとも。俺の剣が届かずとも、彼女のためなら──神にすら抗う」
ざわめく神官たち。
その中で、ひとりの若い神官が剣を抜きかけたが、老巫女が片手を上げて制した。
「ノルディス殿。神託は“絶対”だ。それを崩すことは、聖都の根幹を揺るがす」
「ならば……その根幹ごと、変えてみせる」
そのとき、天井の大理石にひびが走った。
突如、月光が強く差し込み、祭壇の奥で風が吹き荒れる。
神の怒り──あるいは、新たなる啓示か。
しかし、エリシアは立ち上がっていた。
ノルディスを見つめ、静かに手を伸ばす。
「もう、止めて。これ以上……悲しむ人が出ないように」
その声は弱くも、神託の厳しさや神官たちの意志をも静かに打ち破るほどに、真っ直ぐに響いた。
ノルディスがそっとその手を握る。
「ならば、共に歩もう。信仰も、運命も、共に背負う」
老巫女が口を開いた。
「もし彼女を連れてゆくなら……その罪は王としての未来にも影を落とすことになる」
「かまわない。俺は、彼女の命と心を守る王でありたい」
老巫女はわずかに目を閉じ、そして、静かに言った。
「……ならば、月神の加護に委ねましょう。裁きも祝福も、月神の御心に」
その瞬間、赤い月が柔らかな光を放ち始めた。
ひび割れた天井から差し込む光は、まるで赦しのようにふたりを包んだ。
静かに、神殿が沈黙する。 新しい“運命”の幕が、いま開こうとしていた。
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