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試される家族の形
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王都の貴族邸宅の一角。絢爛な装飾が施された広間には、格式高い衣装に身を包んだ親戚たちが集っていた。
レオナルド・ド・セレスタは正装の礼装に身を包み、控えめに背筋を伸ばしていた。
その隣には、淡いローズグレーのドレスに身を包んだカタリーナ。
リヴィオは乳母に預け、ティモシオは落ち着いた様子で母の手を握っている。
「まあ、ティモシオ坊や、立派になられたわね」
「もうすっかり、お兄ちゃんのお顔ですわ」
「レオナルド様にそっくりでいらっしゃるわ。顔立ちも、物腰も」
次々と飛んでくる声に、ティモシオは緊張気味に頷くだけだった。
カタリーナはそっと手を握り直し、彼の不安を和らげるように微笑む。
けれど
「そういえばカタリーナ様、すっかり落ち着かれましたのね。あの頃の華やかさが、少し懐かしくもありますわ」
「まさか、もう装いに気を遣う余裕もなくなったのかしら?育児は大変ですものね」
「まあ、でもお子様が男子で良かったですわね。お飾りの美しさだけでは、役割は果たせませんもの」
「ご実家は商会と聞きましたけれど、こうした集まりには慣れておいで?」
「セレスタの名に相応しい振る舞い……これからしっかり学ばれていかれるのでしょうね」
そんな言葉が、あちらこちらから絶え間なく投げかけられた。
場全体がざわつき、目に見えない波紋が広がるようだった。
レオナルドは反応を見せず、会話を流すように別の話題を口にする。
けれどカタリーナには、その無視が沈黙による否定にすら感じられた。
(また……わたしを庇ってはくれないのね)
リヴィオの話題になっても、それは「男の子でよかった」「家の後継ぎとして安心」というような言葉に包まれていた。
愛よりも義務。
祝福よりも、血統と格式。
その空気の中で、カタリーナはひとり孤立していくような感覚を覚えていた。
けれど、その手をぎゅっと握るティモシオのぬくもりが、胸の奥にわずかな灯をともしてくれる。
(……でも、今は一人じゃない。ティモがそばにいてくれる。それだけで、私は強くなれる)
美しく整えられた会場が、どこか遠く、冷たく感じられる。
レオナルドは、親戚たちの間を回るように立ち上がり、兄弟や従妹たちとお酒を交わしに向かっていった。
カタリーナの手をそっと離し、何も言わずにその場を離れたのだった。
残されたカタリーナは、ティモシオの小さな手を握りしめながらも、自分だけが置き去りにされたような、静かな孤独に包まれていた。
その夜、宿へ戻った後。
カタリーナは夜着のまま、窓辺に立ち尽くしていた。
月の光が、静かに床を照らしている。
宿へ戻っても、レオナルド・ド・セレスタは無言のまま、淡々と自分の身支度を整え始めた。
カタリーナにも、ティモシオにも特に声をかけることなく、まるでその存在が当たり前のように黙している。
ティモシオが疲れた様子で母に寄りかかっていても、視線を向けることすらなかった。
まるで、それは乳母やカタリーナが当然すべきことであるかのように。
カタリーナは声を発さず、ただ肩を落とし、静かに頷いた。
返事というよりも、問いを受け止めたような沈黙の仕草だった。
「……あの場にいた私は、妻だったのかしら。
それとも、お飾りだったのかしら。
……いえ、それどころか、ただの召使みたいだったわ」
レオナルドは答えなかった。
その視線は逸らされ、わずかに肩が揺れる。
けれど何も言わず、何も聞かなかったふりをするように、彼は背を向けた。
その沈黙が今夜いちばんの答えのように思えた。
カタリーナはそう呟いてから、ふっと小さく息を吐き、かすかな笑みを浮かべた。
「……そうよね。妻という名の飾り。子どもを産むだけの、都合のいい器。それどころか、家では召使のように見なされていた……それが、わたしの居場所だったのかもしれないわね」
その声は皮肉にも穏やかで、けれど胸の奥には確かな痛みが滲んでいた。
試されているのは、きっと家族だけではなかった。
レオナルド・ド・セレスタは正装の礼装に身を包み、控えめに背筋を伸ばしていた。
その隣には、淡いローズグレーのドレスに身を包んだカタリーナ。
リヴィオは乳母に預け、ティモシオは落ち着いた様子で母の手を握っている。
「まあ、ティモシオ坊や、立派になられたわね」
「もうすっかり、お兄ちゃんのお顔ですわ」
「レオナルド様にそっくりでいらっしゃるわ。顔立ちも、物腰も」
次々と飛んでくる声に、ティモシオは緊張気味に頷くだけだった。
カタリーナはそっと手を握り直し、彼の不安を和らげるように微笑む。
けれど
「そういえばカタリーナ様、すっかり落ち着かれましたのね。あの頃の華やかさが、少し懐かしくもありますわ」
「まさか、もう装いに気を遣う余裕もなくなったのかしら?育児は大変ですものね」
「まあ、でもお子様が男子で良かったですわね。お飾りの美しさだけでは、役割は果たせませんもの」
「ご実家は商会と聞きましたけれど、こうした集まりには慣れておいで?」
「セレスタの名に相応しい振る舞い……これからしっかり学ばれていかれるのでしょうね」
そんな言葉が、あちらこちらから絶え間なく投げかけられた。
場全体がざわつき、目に見えない波紋が広がるようだった。
レオナルドは反応を見せず、会話を流すように別の話題を口にする。
けれどカタリーナには、その無視が沈黙による否定にすら感じられた。
(また……わたしを庇ってはくれないのね)
リヴィオの話題になっても、それは「男の子でよかった」「家の後継ぎとして安心」というような言葉に包まれていた。
愛よりも義務。
祝福よりも、血統と格式。
その空気の中で、カタリーナはひとり孤立していくような感覚を覚えていた。
けれど、その手をぎゅっと握るティモシオのぬくもりが、胸の奥にわずかな灯をともしてくれる。
(……でも、今は一人じゃない。ティモがそばにいてくれる。それだけで、私は強くなれる)
美しく整えられた会場が、どこか遠く、冷たく感じられる。
レオナルドは、親戚たちの間を回るように立ち上がり、兄弟や従妹たちとお酒を交わしに向かっていった。
カタリーナの手をそっと離し、何も言わずにその場を離れたのだった。
残されたカタリーナは、ティモシオの小さな手を握りしめながらも、自分だけが置き去りにされたような、静かな孤独に包まれていた。
その夜、宿へ戻った後。
カタリーナは夜着のまま、窓辺に立ち尽くしていた。
月の光が、静かに床を照らしている。
宿へ戻っても、レオナルド・ド・セレスタは無言のまま、淡々と自分の身支度を整え始めた。
カタリーナにも、ティモシオにも特に声をかけることなく、まるでその存在が当たり前のように黙している。
ティモシオが疲れた様子で母に寄りかかっていても、視線を向けることすらなかった。
まるで、それは乳母やカタリーナが当然すべきことであるかのように。
カタリーナは声を発さず、ただ肩を落とし、静かに頷いた。
返事というよりも、問いを受け止めたような沈黙の仕草だった。
「……あの場にいた私は、妻だったのかしら。
それとも、お飾りだったのかしら。
……いえ、それどころか、ただの召使みたいだったわ」
レオナルドは答えなかった。
その視線は逸らされ、わずかに肩が揺れる。
けれど何も言わず、何も聞かなかったふりをするように、彼は背を向けた。
その沈黙が今夜いちばんの答えのように思えた。
カタリーナはそう呟いてから、ふっと小さく息を吐き、かすかな笑みを浮かべた。
「……そうよね。妻という名の飾り。子どもを産むだけの、都合のいい器。それどころか、家では召使のように見なされていた……それが、わたしの居場所だったのかもしれないわね」
その声は皮肉にも穏やかで、けれど胸の奥には確かな痛みが滲んでいた。
試されているのは、きっと家族だけではなかった。
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