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未来のために
ダリオ子供達に会う
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カフェの扉を開けた瞬間、カタリーナは微かな緊張を胸に抱いていた。
店内には静かなクラシック音楽が流れ、窓際のテーブル席にはもう、彼が座っていた。
ダリオ・ヴァレンテ
制服ではなく、淡い色合いの私服に身を包んだその姿は、どこか柔らかく、けれどやはり変わらず凛としていた。
彼女に気づいたダリオは、すぐに立ち上がった。
そして、変わらぬ丁寧さで深く一礼する。
「来てくださって……ありがとうございます」
「こちらこそ、お時間をいただいて……ありがとう、ダリオさん」
微笑み合うその瞬間、何かがふっと、解けた様な気がした。
向かい合って座ったふたりの間には、以前とは違う、穏やかな沈黙が流れていた。
先に口を開いたのは、カタリーナだった。
「昨日……お兄様から聞きました。わざわざ来てくださって、本当に……嬉しかったです」
「どうしても、会いたかった。無理は承知でした。……でも、あなたを見かけたあの日、何かを伝えたくて、抑えきれなかった」
その真っ直ぐな言葉に、カタリーナの胸があたたかくなる。
そして、静かに語り出す。
「子供達にね……話したの。あなたのこと。どんな風に出会って、どんな風に私の心に残っているか」
ダリオの瞳が、柔らかく細められる。
「ティモシオが言ったの。私が笑ってる事が嬉しいって。あの子の言葉に背中を押されたの」
カタリーナがそう微笑みながら語ると、ダリオは静かにその言葉を噛みしめるように頷いた。
そして、少し目を細めながら、あたたかく言った。
「……あなたが大切に育ててきたことが、よく伝わってきます」
その声には、敬意と慈しみが込められていた。
カタリーナは一瞬言葉を失い、そしてほんの少しだけ目を潤ませた。
「……あの子達がいてくれたから、私はここまで来られたの。私のほうこそ、支えられてばかり」
カップに口をつけたあと、カタリーナはそっと視線を上げた。
言葉を選びながら、けれど目だけはまっすぐに彼を見つめていた。
「……私、あなたに会えて、よかったと思っています。辛い時期だったけど……あなたの言葉や存在が、私の中でずっと灯りになってた。……あの頃は気づけなかったけど、今なら分かるの。」
カップに口をつけたあと、カタリーナはそっと視線を上げた。
言葉を選びながら、けれど目だけはまっすぐに彼を見つめていた。
「……昔のあの頃のように、もう一度一緒に居られたらって……何度も思ったわ」
その声は震えてはいないのに、どこか胸の奥をそっと撫でるようなあたたかさがあった。
言葉の奥にある、悔しさも寂しさも、それでも信じたい気持ちも、全てがまっすぐに届いてきた。
ダリオは、息を飲むようにその言葉を受け止め、しばし沈黙した。
「……ありがとう。今、そう言ってもらえることが……どれほど救いか、言葉になりません」
先に、そんな想いを言わせてしまった。
彼女の真剣な眼差し、その言葉の一つひとつが、胸の奥に温かく沁みてくる。
その気持ちがどんなに嬉しくて、どれほど自分を救ってくれるものだったか。
それでも、まだ心のどこかで問いかけてしまう。
(……俺を、本当に受け入れてくれるのか?)
だが、その問いを彼女に委ねるだけではいけない。
今度こそ、自分の側からも手を伸ばさなければ。そう思った。
ダリオは静かにカップを置き、深く息を整えた。
そして、まっすぐにカタリーナを見つめる。
「……俺も、ずっと貴方のことを思っていました。あの頃の気持ちを、忘れたことはありません。むしろ……離れてからの方が、ずっと強くなっていた」
カタリーナの瞳が、かすかに潤む。
「もし……もし、もう一度あなたと歩いていけるのなら。今度こそ、何があっても支えたい。大切にしたい。あなたの笑顔を、隣で守っていきたい。」
その言葉は、飾らず、真っ直ぐだった。
過去の過ちも、距離も、時を経てなお心に残る想いの強さが、その声の奥に滲んでいた。
カタリーナは静かに頷いた。
その目に浮かぶ涙は、悲しみではなく、希望の光だった。視線が交差した。
過去の傷ではなく、これからを語るような、静かで温かな眼差しだった。
「もう、悲しませたくない。守れるなら、守りたい。無理にとは言わないけれど……もしあなたが望んでくれるのなら、傍にいさせてください」
カタリーナは頷いた。
「……私も、それを望んでいるわ」
それは、新たな始まりを静かに告げる瞬間だった。
店の外には、静かな風がそっと流れていた。
ふたりの心を撫でるように。
***
それから数日後の午後。
柔らかな陽差しが庭を照らす時間、ダリオはカタリーナの家の門をくぐっていた。
きっかけは、彼女から届いた一通の手紙だった。
《あの日、あなたと話せて本当に良かった。あの時間は、私にとって希望の灯りのようでした。……もしよければ、子供達にも会いに来てください。》
達筆なその文字に込められた、まっすぐな優しさと勇気。
カタリーナが自分の心にまっすぐ向き合い、家族と共に一歩踏み出そうとしている。その思いが、ひしひしと伝わってきた。
ダリオは丁寧に返事を書き、その願いを受け入れることを伝えた。
そして、子供達の予定を考慮して選ばれたのが、今日の午後だった。
緊張がないと言えば嘘になる。
だがそれ以上に、彼の胸には喜びと決意があった。
扉を開けたのはカタリーナ本人だった。
……前よりも落ち着いた表情だったが、その瞳には、ほんの少しの緊張と、期待が揺れていた。
「ようこそ。今日は……ティモシオもリヴィオも、楽しみにしてたの」
「僕も……ずっと会いたかった。ありがとう、呼んでくれて」
交わした言葉は短くても、そこに込められた想いは濃くて、暖かかった。
二人の間に交わされる言葉は多くはなかったが、それだけで十分だった。
もう、無理に説明しなくてもいい。そう思える静けさが、そこにはあった。
ほどなくして、ティモシオとリヴィオがリビングの奥から姿を現した。
ふたりとも少し緊張した面持ちだったが、それでも真っ直ぐダリオの方へ視線を向けてくる。
ティモシオが、少しだけ声の調子を低くして口を開いた。
「……こんにちは。今日は、来てくれてありがとうございます」
隣にいたリヴィオも、兄の様子を真似るように、けれどきちんとした口調で言った。
「こんにちは。……僕も、会えるの楽しみにしてました」
その不器用ながらも誠実な挨拶に、ダリオは思わず微笑んだ。
この数年間で、二人がどれほどしっかりと育ってきたかが伝わってくる。
「こちらこそ。会えてうれしいよ。……立派なお兄ちゃん達だな」
そう言うと、ティモシオが少しだけ表情を緩めた。
「母が、庭にテーブルを出したって言ってました。……お茶、用意してあるそうです」
その照れ隠しのような言い方に、カタリーナはそっと微笑み、傍で彼らの背中を見守っていた。
「ぶどう持ってきたよ!」
両手に大事そうに皿を抱えたリヴィオが、カタリーナの後ろからそっと現れた。
「これ……母上が選んだぶどうです。甘いらしいです。」
まだ少し恥ずかしそうな声だったが、精一杯の歓迎の気持ちが込められている。
ダリオは優しく目を細めて言った。
「それは光栄だな。ありがとう。いただくよ」
ティモシオもすぐ側まで来て、小さく頷いた。
「母が……あなたと会って、話せる日が来たらいいなって。そう言ってました」
丁寧に言葉を選びながらも、その眼差しにはどこか緊張が見え隠れしていた。
緊張しながらも懸命に挨拶する息子たちに、カタリーナの目元が柔らかくほころんだ綻んだ。
ぎこちなくても構わない。今は、それだけで十分だった。
小さな庭に面したテラスで、紅茶とお菓子を囲むささやかなひととき。
まだぎこちなさは残っていたが、それでも、この空気の中にどこか確かな温もりがあった。
少しずつ、ほんの少しずつでいい。
そう思える時間が、ようやく始まろうとしていた。
***
始めての訪問から数日が過ぎた、静かな午後のことだった。
まだ春の名残が漂う風が、庭の草花をやさしく揺らしている。
カタリーナの家を再び訪れたダリオは、前回よりもずっと落ち着いた心持ちで、扉の前に立っていた。
そして、扉が開いた瞬間、
そこに現れた彼女の笑顔に、緊張よりも嬉しさが勝っている自分に気づく。
「来てくれて、ありがとう」
カタリーナの声もまた、前とはどこか違っていた。
少し照れたようでいて、けれど確かに、温かく心を迎えてくれる響きだった。
以前なら、どこか緊張がつきまとっていた彼女の声に、今は柔らかな安心感が滲んでいる。
それだけで、ダリオの胸は静かに満たされていった。
庭に面したテラスに、小さなテーブルが用意されていた。
花が咲き始めたばかりの鉢植え、風に揺れるレースのカーテン。
そんな穏やかな光景のなかで、カタリーナは手ずから淹れた紅茶を差し出した。
「あなた、甘いもの……まだお好き?」
「勿論さ。あなたが出してくれるなら、どんな味でも好きになる。」
思わず笑い合うふたりの間に、かつての痛みの影はなかった。
そこにあったのは、ゆっくりと、丁寧に紡がれる今という時間だけだった。
店内には静かなクラシック音楽が流れ、窓際のテーブル席にはもう、彼が座っていた。
ダリオ・ヴァレンテ
制服ではなく、淡い色合いの私服に身を包んだその姿は、どこか柔らかく、けれどやはり変わらず凛としていた。
彼女に気づいたダリオは、すぐに立ち上がった。
そして、変わらぬ丁寧さで深く一礼する。
「来てくださって……ありがとうございます」
「こちらこそ、お時間をいただいて……ありがとう、ダリオさん」
微笑み合うその瞬間、何かがふっと、解けた様な気がした。
向かい合って座ったふたりの間には、以前とは違う、穏やかな沈黙が流れていた。
先に口を開いたのは、カタリーナだった。
「昨日……お兄様から聞きました。わざわざ来てくださって、本当に……嬉しかったです」
「どうしても、会いたかった。無理は承知でした。……でも、あなたを見かけたあの日、何かを伝えたくて、抑えきれなかった」
その真っ直ぐな言葉に、カタリーナの胸があたたかくなる。
そして、静かに語り出す。
「子供達にね……話したの。あなたのこと。どんな風に出会って、どんな風に私の心に残っているか」
ダリオの瞳が、柔らかく細められる。
「ティモシオが言ったの。私が笑ってる事が嬉しいって。あの子の言葉に背中を押されたの」
カタリーナがそう微笑みながら語ると、ダリオは静かにその言葉を噛みしめるように頷いた。
そして、少し目を細めながら、あたたかく言った。
「……あなたが大切に育ててきたことが、よく伝わってきます」
その声には、敬意と慈しみが込められていた。
カタリーナは一瞬言葉を失い、そしてほんの少しだけ目を潤ませた。
「……あの子達がいてくれたから、私はここまで来られたの。私のほうこそ、支えられてばかり」
カップに口をつけたあと、カタリーナはそっと視線を上げた。
言葉を選びながら、けれど目だけはまっすぐに彼を見つめていた。
「……私、あなたに会えて、よかったと思っています。辛い時期だったけど……あなたの言葉や存在が、私の中でずっと灯りになってた。……あの頃は気づけなかったけど、今なら分かるの。」
カップに口をつけたあと、カタリーナはそっと視線を上げた。
言葉を選びながら、けれど目だけはまっすぐに彼を見つめていた。
「……昔のあの頃のように、もう一度一緒に居られたらって……何度も思ったわ」
その声は震えてはいないのに、どこか胸の奥をそっと撫でるようなあたたかさがあった。
言葉の奥にある、悔しさも寂しさも、それでも信じたい気持ちも、全てがまっすぐに届いてきた。
ダリオは、息を飲むようにその言葉を受け止め、しばし沈黙した。
「……ありがとう。今、そう言ってもらえることが……どれほど救いか、言葉になりません」
先に、そんな想いを言わせてしまった。
彼女の真剣な眼差し、その言葉の一つひとつが、胸の奥に温かく沁みてくる。
その気持ちがどんなに嬉しくて、どれほど自分を救ってくれるものだったか。
それでも、まだ心のどこかで問いかけてしまう。
(……俺を、本当に受け入れてくれるのか?)
だが、その問いを彼女に委ねるだけではいけない。
今度こそ、自分の側からも手を伸ばさなければ。そう思った。
ダリオは静かにカップを置き、深く息を整えた。
そして、まっすぐにカタリーナを見つめる。
「……俺も、ずっと貴方のことを思っていました。あの頃の気持ちを、忘れたことはありません。むしろ……離れてからの方が、ずっと強くなっていた」
カタリーナの瞳が、かすかに潤む。
「もし……もし、もう一度あなたと歩いていけるのなら。今度こそ、何があっても支えたい。大切にしたい。あなたの笑顔を、隣で守っていきたい。」
その言葉は、飾らず、真っ直ぐだった。
過去の過ちも、距離も、時を経てなお心に残る想いの強さが、その声の奥に滲んでいた。
カタリーナは静かに頷いた。
その目に浮かぶ涙は、悲しみではなく、希望の光だった。視線が交差した。
過去の傷ではなく、これからを語るような、静かで温かな眼差しだった。
「もう、悲しませたくない。守れるなら、守りたい。無理にとは言わないけれど……もしあなたが望んでくれるのなら、傍にいさせてください」
カタリーナは頷いた。
「……私も、それを望んでいるわ」
それは、新たな始まりを静かに告げる瞬間だった。
店の外には、静かな風がそっと流れていた。
ふたりの心を撫でるように。
***
それから数日後の午後。
柔らかな陽差しが庭を照らす時間、ダリオはカタリーナの家の門をくぐっていた。
きっかけは、彼女から届いた一通の手紙だった。
《あの日、あなたと話せて本当に良かった。あの時間は、私にとって希望の灯りのようでした。……もしよければ、子供達にも会いに来てください。》
達筆なその文字に込められた、まっすぐな優しさと勇気。
カタリーナが自分の心にまっすぐ向き合い、家族と共に一歩踏み出そうとしている。その思いが、ひしひしと伝わってきた。
ダリオは丁寧に返事を書き、その願いを受け入れることを伝えた。
そして、子供達の予定を考慮して選ばれたのが、今日の午後だった。
緊張がないと言えば嘘になる。
だがそれ以上に、彼の胸には喜びと決意があった。
扉を開けたのはカタリーナ本人だった。
……前よりも落ち着いた表情だったが、その瞳には、ほんの少しの緊張と、期待が揺れていた。
「ようこそ。今日は……ティモシオもリヴィオも、楽しみにしてたの」
「僕も……ずっと会いたかった。ありがとう、呼んでくれて」
交わした言葉は短くても、そこに込められた想いは濃くて、暖かかった。
二人の間に交わされる言葉は多くはなかったが、それだけで十分だった。
もう、無理に説明しなくてもいい。そう思える静けさが、そこにはあった。
ほどなくして、ティモシオとリヴィオがリビングの奥から姿を現した。
ふたりとも少し緊張した面持ちだったが、それでも真っ直ぐダリオの方へ視線を向けてくる。
ティモシオが、少しだけ声の調子を低くして口を開いた。
「……こんにちは。今日は、来てくれてありがとうございます」
隣にいたリヴィオも、兄の様子を真似るように、けれどきちんとした口調で言った。
「こんにちは。……僕も、会えるの楽しみにしてました」
その不器用ながらも誠実な挨拶に、ダリオは思わず微笑んだ。
この数年間で、二人がどれほどしっかりと育ってきたかが伝わってくる。
「こちらこそ。会えてうれしいよ。……立派なお兄ちゃん達だな」
そう言うと、ティモシオが少しだけ表情を緩めた。
「母が、庭にテーブルを出したって言ってました。……お茶、用意してあるそうです」
その照れ隠しのような言い方に、カタリーナはそっと微笑み、傍で彼らの背中を見守っていた。
「ぶどう持ってきたよ!」
両手に大事そうに皿を抱えたリヴィオが、カタリーナの後ろからそっと現れた。
「これ……母上が選んだぶどうです。甘いらしいです。」
まだ少し恥ずかしそうな声だったが、精一杯の歓迎の気持ちが込められている。
ダリオは優しく目を細めて言った。
「それは光栄だな。ありがとう。いただくよ」
ティモシオもすぐ側まで来て、小さく頷いた。
「母が……あなたと会って、話せる日が来たらいいなって。そう言ってました」
丁寧に言葉を選びながらも、その眼差しにはどこか緊張が見え隠れしていた。
緊張しながらも懸命に挨拶する息子たちに、カタリーナの目元が柔らかくほころんだ綻んだ。
ぎこちなくても構わない。今は、それだけで十分だった。
小さな庭に面したテラスで、紅茶とお菓子を囲むささやかなひととき。
まだぎこちなさは残っていたが、それでも、この空気の中にどこか確かな温もりがあった。
少しずつ、ほんの少しずつでいい。
そう思える時間が、ようやく始まろうとしていた。
***
始めての訪問から数日が過ぎた、静かな午後のことだった。
まだ春の名残が漂う風が、庭の草花をやさしく揺らしている。
カタリーナの家を再び訪れたダリオは、前回よりもずっと落ち着いた心持ちで、扉の前に立っていた。
そして、扉が開いた瞬間、
そこに現れた彼女の笑顔に、緊張よりも嬉しさが勝っている自分に気づく。
「来てくれて、ありがとう」
カタリーナの声もまた、前とはどこか違っていた。
少し照れたようでいて、けれど確かに、温かく心を迎えてくれる響きだった。
以前なら、どこか緊張がつきまとっていた彼女の声に、今は柔らかな安心感が滲んでいる。
それだけで、ダリオの胸は静かに満たされていった。
庭に面したテラスに、小さなテーブルが用意されていた。
花が咲き始めたばかりの鉢植え、風に揺れるレースのカーテン。
そんな穏やかな光景のなかで、カタリーナは手ずから淹れた紅茶を差し出した。
「あなた、甘いもの……まだお好き?」
「勿論さ。あなたが出してくれるなら、どんな味でも好きになる。」
思わず笑い合うふたりの間に、かつての痛みの影はなかった。
そこにあったのは、ゆっくりと、丁寧に紡がれる今という時間だけだった。
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