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第十四話『生育への養分』
しおりを挟む身体中の孔という孔から分泌され、溢れ出て、垂れ流れる体液という体液。
肌と肌を近付けただけで波動のように伝わる体温とともに空気を染める体臭。
触れ合い、味わい合い、擦り、撫で、揉み回し、挟み、結合する。
その時間は重なり、時間は日付けとなり、週をまたぎ、月を数える。
〈性行為〉という相手と自分との境界をなくす儀式、いや、欲求からくる習慣は、日数よりも多く、時間よりは少なかった。
皮膚という皮膚、粘膜という粘膜に、皮膚と粘膜を重ね、快感でのけぞるまで、粘液のぬめりで擦り、他の体液とも混ざってコクを増し、また体内へと戻る。
互いの全身で、相手が知らないところはないと互いに実感でき、それを幸せだと感じた。
羞恥をこえた、同じ物語を何度も味わうかのようなよろこび。
復読できる物語に出会えたという幸運を実感しようとしているのか、また相手を求め、求められることを喜ぶ。
互いの体温、体臭、体液を依存のように、常に欲する。
ついさっき体内に摂取したばかりなのに、厭きる気がしなかった。
彼女は麻薬だ。
惚れ薬だの媚薬だの催淫薬だのといった伝説を求めて、病院やら薬局へいってもムダだという理由、笑い話にされて終わる理由が、よくわかった。
目の前にいる彼女が、催淫薬そのものだからだ。
この現象への答えを〈薬〉と呼ぶことが、そもそも間違っていたのだ。
催淫効果とは人が人に発する、または感じるものであり、考えてみれば、それは当たり前のことだった。
生物はそうやって、連綿と雌雄を結び付けてきたのだから。
いや待て、雌雄とも、同種の生物同士とも限らないか?
たとえば食虫植物はどうだ。
性的指向の不一致をこえるどころか異種生物を惹き付けるあれも、催淫でないと誰が断言できるだろうか?
彼女の部屋が俺にとっての、靫蔓の壺というわけだ。
そうなると俺は捕食されてしまうということになるが、不思議と恐怖心はない。
陶酔の日々が、彼女になら食われてもいいと思わせてくれた。
洗脳され、判断力が低下しているわけではない。
思考も、記憶もハッキリしているし、なにかの思想を植え付けられてもいない。
だって俺と彼女は、ほとんど会話らしい会話もしていないのだから。
ここでしていることは、互いの求めに応じるだけ。
そして自分の欲求を満たすだけ。
俺は、以前の自分と今の自分との違いを、客観的に分析することができる。
変わった点を変わったと認識し、なぜそうなったのかの説明もできる。
たとえば俺は、ここへ来てからずっと、バイトにいっていない。
自分の部屋にも帰らず、生活用品や食材などの買い出しにもいかない。
ということは、というか、しっかりと記憶しているのだから〈理論上〉のような言いかたは変だが、俺は数ヶ月もの間、飲食をしていないということだ。
なぜなら空腹も、疲労も感じないから。
疲れないし眠くないので、睡眠もとっていない。
他の欲望が、性欲に駆逐されているのだと思う。
性欲以外が消えてしまったのは、他人と比較して考えれば、変と言えば変だ。
これは、なんなのだろうか?
考えてみれば、休息も食事もしないというのは、異常なことかもしれない。
だが人間の感覚とは、いや、生物の感覚とは、欲求により変わるものだ。
必要だから欲する。
俺には、食事も睡眠も金も仕事も必要ない。だから、そのための活動をしない。
それは生物として、ごく普通のことだと思う。
携帯電話は、貯金がなくなってしばらく後に、不払いで解約されてしまった。
通帳への書き込みなども、必要がないのでしていないが、たぶん普通に残高から計算すれば、そういうことになっていると思う。
つかってもいないし充電もしていないので、電源がおちたままの状態で、どこかそのへんに転がっているのではないかな。
スマホが与える便利さを不要だと感じているので、これもどうでもいい。
外部と連絡がとれないという状況も、とる必要を感じないので気にならない。
今日、といっても睡眠時間がないので昨日と連続した時間のなかでの、時刻的な意味での今日だが、朝から彼女のなかに放出して、そう、今朝はオーソドックスに性器の結合にしたのだが、その後は二人で風呂場へいって、互いの裸体を洗い合いながら、彼女を性器や口や指や舌や、いろんなところでよろこばせ、そして俺も、いろんな孔に入れたり、挟んだりして快楽を絞り出した。
これだけすれば、満腹(という感覚に近い)になる。
また、数時間後には空腹(という感覚に近い)になるだろう。
そうしたらまた、俺と彼女は互いを食す。
どう味わうかは、そのときの気分で決める。
前菜やメインディッシュのように、性を様々にたのしむのだ。
消化器官に入ってくるのは相手の体液だけだが、彼女も俺も栄養不良になったり痩せたりはしていなかった。
睡眠不足で顔色が悪くなるということもない。
ほぼ日光に当たっていないので色白にはなったかもしれないが、至って健康だ。
体力はむしろ、増強しているように思う。
知識や経験、一般的とされる感覚などを鑑みれば、これは普通でないと判断するべきなのだろう。
普通の生活でないとしても、とくに体調に問題はないので、不安は覚えない。
アリクイが蟻を食う生活に悩まないのと同じだ。
本能が変化し、欲求が変化したことは、俺の生活に違う習慣を加えた。
いつからそれが習慣となったのかは、覚えていない。
赤ん坊の見る夢は、大人の見る夢とはきっと違うだろう。
今の俺の習慣に対する感覚は、それに似ていると思う。
──つづく。
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