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第十七話『ひとをこえる』
しおりを挟む睡眠や食事のかわりに、いや、もっと言えば労働やその対価という〈生活〉のかわりに、俺たちには性行為がある。
それだけでも生きていけるが、それだけでは説明のつかない時間があることも、ちゃんと知っている。俺にも彼女にも、その時間はある。
その時間、俺は俺の意志で活動しているが、彼女の意思に従ってもいる。
意識はあるし、記憶に近いものもあるのだが、なんとなくハッキリしない。
その時間は夢に近く、俺は俺でない何者かのように振る舞っている。
自分は自分だが、個ではない気もする。
言葉にすると妙だな。でも自分のなかに違和感はないんだ。
矛盾しているような感覚を、普通のこととして受け入れている。
人は栄養摂取や排泄を、快感として記憶する。
食べたい、出したいという欲求は、そうすると気持ちがいいから起こるのだ。
俺にとって、それら全てのかわりが愛情表現、愛する相手との体温、体臭、体液の交換であり、本能が求めるのはそれだけだった。
交換を繰り返すことで、相手の一部になったような感覚になる。
そしてそれは欲求、つまり相手の一部として活動するという新たな快楽を求める習慣となり、目標や目的に近いものとなる。
幸せとは、より強い快感を得ようとする行為だ。
労働や努力などは、幸せを得るための段階に過ぎず、快楽とは遠い。
なぜそんな、ムダな段階を経る必要があるのか?
なぜなら人間が幸せを得るためには、まず金銭が必要だからだ。
金銭を用いて、幸せを得たり、また幸せを与えることで間接的に幸せを感じたりする。
愚かなシステムだ。
彼女との生活は、性によって始まり、性によって終わる。
よけいなもの、ムダな段階がなにひとつ挟まらない、純然たる幸せだった。
幸せの到達点は、二人が一体のように機能すること。
そこへ行き着いては、また戻る。
俺は夢中で、その〈生〉を営む。
姿は変わらなくとも、蛹から羽化するような快感があった。
完全変態。そう、まさに言葉どおりの完全な変態だ。
そのために、変態となるために、俺たちは今日もまた互いを求め合うのだ。
今俺は、ちょうど、彼女の体温と体臭を味わいながら、そのやわらかな体内へと放出し、体液を共有しているところだ。
びくんびくんと、二人の結合点を中心に、快感の痙攣が全身へと行き渡る。
強く閉じた瞼が、その痙攣のリズムで脈打っている。
正常位。俺はしゃがむような体勢で、彼女はベッドに仰向けに寝転がって両足を大きくひろげている。
俺の両掌は彼女の波打つ乳房を逃さぬように強く握り、指の間から軟肉が零れる感触を味わっている。
放出で思考が止まり、荒い呼吸の俺はベッドにペタンと尻をついてへたり込む。
ぬぽんと、二人の結合点が外れ、俺の性器が彼女の性器から抜けて力を失う。
結んでいた髪をといて黒髪を乱していた彼女が、自分から離れた俺の性器を追うように、むくりと身を起こす。
黒髪が俺の眼前を通り抜け、へそのほうへと沈んでゆく。
力の抜けた俺の性器を、彼女の唇が吸うように包み、舌で舐め転がす。
抜けていた力が、またむくむくと膨らんでいく。
水で薄められたように頭から消えていた思考が、戻りかけた途端、またとろけて薄まっていく。
求め、求められる幸せな生活。
他にはなにもいらない。どうでもいい。
俺は気持ちよさを、言葉で彼女に伝える。
今、伝えたいことは、愛情と快感以外にはない。
腰が、彼女の黒髪に合わせて動く。
俺の手が彼女の黒髪に触れ、梳くように撫でる。
彼女は俺が快感を伝えるたびに頷いて応え、俺が果てるまで頭を上下させる。
ああ、まただ、また、ひとつになる。
夜を越え、朝を越え、日が出入りして時が進むように、俺は彼女の一部になる。
味わうことで、食われ、そこへのぼってゆく。
ああ、ことばがきえる。
あそこへ、また、いける。ああ、ああ、いく、いく──。
──つづく。
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