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第四話『モールに行くとゾンビ映画を思い出す』
しおりを挟む六月二十日(日)
ケッカーとショッピングにいった。
あの子が「カワイイ」を連呼するのは、全部が少女趣味のキラキラフワフワしたものにばかりだ。
頭の中のお花畑と同じ色の、マヌケな暖色系。
私の相槌は「ほーん」とか「のーん」とか、だんだん口を開くのも億劫になり、途中からずっと鼻から発されていた。
疲れたので『ワン&サーティーン(キンキー&ボンビー)』で一休みすることにした。
くたくたになったときは、アイスクリームが一番だ。
ほんともう、何時間歩いたことか。
こいつは疲れを知らんのかと言いたくなるほど、ケッカーはずっと楽しそうで、ずっと喋り続けていた。
結局、私が買ったのは化粧水とかの消耗品ばかりだった。
ケッカーはコーヒーカップだの糞ダサいカエル柄のエプロンだの、いらんだろというものばかりを死ぬほど買っていた。
この子の家は山の手方面で、セレブというほどでもないけれど、中流というにはランクの高い、中途半端な金持ちの多く住む地域にある。
だから当然オコヅカイも、私とはケタが違う。
暮らせるだろというほどにもらっているらしい。
それを初めて聞いたときは正直、いいなと羨んだ。が、顔や体型など容姿面では中流よりかなり下方なので、天は平等なのだと納得してはいる。
金はあるんだから整形でもなんでもすればいいのに、こいつは自分をカワイイと思い込んでいるため、そんなことは考えたこともないのか、話題にのぼったことも整形の話題にのってきたこともない。どうも自分とは関係のない話だと思っているらしい。親からも、親戚からも、親の友人たちからも、ずっとカワイイカワイイと言われ続けて育ったようで、それを完全に信じている、というか、これはもう私に言わせれば、洗脳されているようにしか思えない。
彼女がカワイイと判断して買った服を着ている姿を見ると、笑えるを通り越して泣けてくる。似合わないどころか、よけいにブサイクが際立ってしまう。
相乗効果というやつだ。
逆の意味で、天は三物を彼女に与えていると言えるだろう。
ブス、デブ、悪趣味という恐るべき才能だ。
我ながら口悪いなと反省しかけるが、まあ、陰口や容姿イジリはお互い様だ。
容姿やセンスが羨ましいのは、くやしいけどやっぱりミラかな。
ただミラは顔やスタイルは羨ましいけど、これまた運のバランスなのか、結構な下層地区で暮らしている。
スラムとまでは言わないが、売人とかが普通にウロウロしている、あまり治安のよくない、私は絶対に一人ではいかないだろう地区だ。
ミラがやたらと男に媚を売るのも、義父に幼い頃、虐待されていたのが大きいという噂だ。たぶん深層心理では、本当の父親か、彼女の思う父親的な理想像に適う人に護ってもらいたいのだろう。たしかに同情する境遇ではあるが、それにしても酷いなと思ってしまうほどの、乱れまくった性生活を彼女は送っている。
溢れ出るほどの男性ホルモンのせいで、誰でもいいからとにかくヤりたいだけのサルみたいな男ばかりが近付いてくるが、ミラはそんな男にもなぜかすり寄って、依存しては捨てられてを何度も何度も繰り返している。バカで不器用だから友達はうちらしかいないし、もてる自分をうまく扱えないから、フラレては泣いている。
ちょっとかわいそうになってしまうほどに、神様はちゃんと平等だ。
あ、そうだ、ミラで思い出した。
今日、その、モールのワンサーで、少し事件があったんだった。
ミラよりもずっともてる女たちが、うちの学校にはいる。
チアのグループと、あと、女王バチのグループだ。
チアの子たちは性格もいいけど、女王バチどもは最悪だ。
チアリーダーたちは忙しいし、厳しい練習に日々、笑顔で耐えている。
女王バチどもは、そんな苦労はしたくない。
パーティーやクラブでもてたいだけの、真性ビッチどもだ。
誰もがそうだが、私もなるべくなら、あんなのと関わりたくはない。
でも今日、関わってしまった。
ていうか、しっかりと揉めてしまった。
私は自分でも、短気なところはなおさないとなと、日頃から思っている。
てまあ、なおってないから、揉めちゃったんだけども。
──つづく。
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