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第七十二話『見舞いの日の終わり』
しおりを挟むお父さんは話を聴きながら冷静に、「バンデージだね」と分析した。
フェラウは両手をケガしていたのでなく、思い切り相手を殴れるように、包帯で手首から先を固めていたのだ。
もしかしたら包帯のなかに、なにか硬いものを仕込んでいた可能性もある。
まずマックに包丁を見せて警戒させ、意識をそちらに集中させておいて、最後は打撃で仕留める。
包丁をつかわないということではなく、試合の展開によっては本気で刺殺しても構わないくらいに考えていたかもしれないが、作戦としては〈二段構え〉だったのではないか。
お父さんの解説は、ミイラのように全身包帯まみれでベッドに横たわる愛娘へと悲しげな視線を向けたまま、まるで空気を揺らすとケガの痛みが増すとでも考え、病室内の空気が少しでも動かないよう、気を付けて呼気を発しているかのように、低く穏やかな声でそう続けられた。
マックは荒い息で、でも、ぼくとお父さんを交互に、しっかりと見詰めながら、最後の記憶を伝えてくれた。フェラウにさんざ痛め付けられ、意識は途切れかけ、視界は完全に暗転していたが、暗闇の向こうの喧騒を塗り潰すかのような興奮したアナウンスが、『優勝はフェラウ・マッソ=ダーリン嬢!』と、ディレイのように何度も木霊して、うわんうわんという悪夢のような反響音に乱されながら聴こえた気がしたと。
金網のなかのマックも、その記憶を語るマックも、その後すぐに意識を失った。
命を圧搾するように戦い、そしてそれをぼくらに伝えてくれた。
ぼくはそれをメモしながら聴いた。
この事件を書き記すことを頼まれたから、それを正確に遂行するためだ。
聴いていて辛かったし、胸が苦しくなった。
彼女のケガを見れば、これが一切の虚構を含まない、客観的な事実だとわかる。
ぼくは病院から家に帰り、徹夜でこれを書いている。
目は冴えているのに、頭が回らなくなってきた。
今日はもう、これ以上は書けそうにない。
明日、いやもう今日か。学校は休みだから、少し寝てまた書こうと思う。
──つづく。
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