黒き死神が笑う日

神通百力

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私の恋愛

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「お~い、悠技ゆうぎ。待った?」
 言いつつ、近づいてくるのは砂瑞今宵さずいこよい。私の二十人目となる彼氏だ。それまでの十九人とはいい雰囲気でお付き合いをしてきたけれど、結婚までには至らなかった。破局したわけではないけれど。
「うん、待った。十分ほど。こんなことなら携帯ゲーム機を持ってくればよかったよ。まさか待たされる羽目になるとはね」
「それはすまないことをした。お詫びに頬をいじくってやる」
 今宵は私の頬を伸ばしたり、戻したりしてきた。すまないとは思っていないな。まあ、いいけど。
「さあ、今宵。私の家へ行こう」
「ああ、行こうか。悠技」
 バイト終わりに、待ち合わせをして、私の家へ行くことを今宵と約束していたのだ。
 人差し指同士を繋いで、歩き出した。

 ☆☆

「乾杯しよう、今宵」
「ん? ほれ、乾杯」
 コップをコツンと合わせて、麦茶を飲む。私たち未成年だからね。それに喉が渇いた時はやっぱお茶でしょ。
 私はコンビニで買ってきたお弁当をつつく。今宵は私の頬を箸でつつく。
「……何で今宵はお弁当じゃなく私の頬をつついているのかな?」
 私は箸を止めて、今宵を見る。
「何となく」
「何となくでつつかないでくれる? 食べにくいから」
 箸を手でどかすと、お弁当を食べ進めた。
「お、あれはアルバムか。見させてもらうぞ」
 勝手に棚からアルバムを取り出す今宵。別にいいけど。
「これはいつのアルバムだ?」
「小学校の時のだよ」
 今宵の隣に移動して、私もアルバムを横から覗き込んだ。
「え~と、悠技は……あった」
 海岸坂かいがんざか悠技と書かれた名前の上には、ふくよかな女の子の写真があった。
「なぁ、悠技」
「何? 今宵?」
 私はアルバムから、今宵へと視線を向けた。
「この時の悠技は今と違って顔がふっくらしているな」
「うん、太ってたからね」
 今の私は太っていない。かといって痩せているわけでもない。普通の体型である。
 アルバムを閉じると、棚に戻し、食事を再開した。食べ終わって、空になった箱をゴミ箱に捨てる。
「さてと今宵。心の準備はいい?」
「ああ、準備も覚悟もできている」
 私は微笑んで、最愛の人を殺した。前もって準備していた包丁で。カーペットが今宵の血で染まっていく。

 これが私の『恋愛』だ。
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