黒き死神が笑う日

神通百力

文字の大きさ
上 下
71 / 210

オープスト・ヘルシャフト

しおりを挟む
 私は甘子町かんしちょうに来ていた。ここ甘子町は多種多様なスイーツ専門店が多いことで知られ、スイーツ大国とも称されているほどだ。甘いものに目がない私からしてみれば、ここは夢のような場所といえる。
 まずは『オープスト・ヘルシャフト』という店に行ってみることにした。長蛇の列ということから考えて、きっとおいしいのだろう。でなければ長蛇の列なんてできないだろうし、これは期待していいかもしれない。
 並んでいる間、暇だったので私は辺りを見回してみた。驚くことに他店は数人ほどしか並んでいなかった。スイーツ大国のはずなのに、なぜ他店は客が少ないのだろうか。もっと並んでいても良さそうなものなのに。
 不思議に思っていると、あることに気づく。この店の客が異様に多いこと・・・・・・・に。
 なんでこの『オープスト・ヘルシャフト』だけに行列ができているのだろうか?
 何だか急に恐ろしくなってきた。しかし、怖いもの見たさで順番が来るのを待つことにした。この店が何なのかを知りたい。何もなければこの店に対してとても失礼なのだけれど、怖いものは怖いのだから仕方がない。
 あともう少しで私の番だ。看板によると『オープスト・ヘルシャフト』はドイツ語らしく、日本語に直訳すると『果物の支配』になるらしい。どういう意図を持ってして名付けたのだろうか?
 やっと私の番が来た。女店員に案内され、私は席に着席した。
 女店員にオススメのスイーツを聞いてみると『オープスト・トゥルム』だと教えてくれた。どんなスイーツなのかまったく想像もつかなかったが、それを注文することにした。
 スイーツを待つ間、辺りを見回してみるが、店内の雰囲気は明るく、客もスイーツを満喫しているようだった。特に何もなさそうだが、客の目がトロンとしているように見えるのは気のせいだろうか?
 女店員が『オープスト・トゥルム』をテーブルへと置いた。二枚のクレープ生地で数種類の果物を挟んでいるようで、それがいくつも重ねられていた。どうやら果物の塔という意味のようだ。
 恐る恐る口へと運ぶ。想像していたよりもおいしかった。あっという間に食べきってしまった。
 あれ? 何だか目がトロンとしてきた――。

 ☆☆

 私は今日も『オープスト・ヘルシャフト』に並んでいた。何かに突き動かされるかのように毎日来ている。あのおいしさが忘れられない。もうこの店のことしか考えられない。
 何だか頭にモヤがかかっているような感じがする。
 私はもう『オープスト・ヘルシャフト』のトリコだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

卸商が異世界で密貿易をしています。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:184

忘れられない宿題

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

三度目の嘘つき

恋愛 / 完結 24h.ポイント:99pt お気に入り:1,915

人魔共和国建国記

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:31

タビスルムスメ

青春 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

バラバラ女

ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

My Little Bird

ミステリー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

頼光伝XXV 星喰いの女神

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

あかね色に染まる校舎に舞い落ちた君は

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:14

処理中です...