伯爵夫人の殺しは優美に 〜貴族のお嬢様なのに天性の射撃センスで暗躍します!〜

中島菘

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四話

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 三日後がやって来た。私はちょっと緊張している。今日が初仕事なんだ。お仕事の内容は全く聞かされていないけれど、一体何をやるんだろう?

 カフェのビルの地下にあるあの事務所にまた来てみると、そこにターナーが待っていた。

「おお、ちゃんと来てくれたなフランキー。嬉しいよ」

「ええ、私もまたお会いできてうれしいですターナー」

「そう硬くならずに。今日が初仕事で緊張するのは分かるけど、もっと気楽にいこうぜ」

 そう言われてもなぁ。

 ターナーと話していると、事務所の奥から人が出てきた。ターナー以外にも人がいたんだと思って見ていると、出てきたのは意外や意外!

「店長!」

「おや、レイディ・フランシスじゃないですか!」

 上の階のカフェでおなじみの店長だわ! 

「どうして店長がこんなところに?」

「今日は店の定休日ですからね。こっちで働いてるんですよ」

「へ、へぇ」

 店長の品の良い感じと、この薄暗い事務所の雰囲気が妙にミスマッチね。

「私の方こそ聞きたいのですが、どうしてレイディ・フランシスがこのようなところに? もしかして依頼人ですか?」

「違うよベン。うちの新人さ」

「は?」

 店長はきょとんとしたかと思えば、ターナーを向こうの方に引っ張っていった。

「なんだっていうんだベン」

「それはこっちのセリフだよ。あの人は何の不自由もなく育ってきた貴族なんだよ。うちの仕事なんてできるわけがないだろう?」

「お前はフランキーの射撃を見たことがないからそんなことが言えるんだよ。いいか? 俺がちゃんと試験をしたうえで通したんだ。信頼してくれ」

「おーい、全部聞こえてますわよ?」

 店長ってこんなにズバズバ言っちゃう人だったんだ……。今までカフェでしか見たことがなかったから全然知らなかったわ。

「やや! これは失礼しました。べつにあなたを侮っているわけではないのですよ、レイディ・フランシス」

「それは分かってますよ。私自身ちゃんと務まるかまるで分かりませんもの。そもそもどのような仕事かさえも分かっていないのですから」

「伝えていないのか、ターナー?」

「うん? そういえばそうだっけか。まあ現場に行けば分かることさ。出発するぞ」

 そう言ってターナーは私の背中を押して外に出る。今来たところなのに、また事務所から出てしまった。

 ターナーは私を表に停めてある車の後部座席に乗せた。大きな車だ。私の屋敷にある夫の車と同じくらいの大きさ、だけど、雰囲気はだいぶ違っていて、こっちの車はなんだかゴツゴツしている。

「これでどこに行くんです?」

「それは着いてからのお楽しみさ」

 ターナーは趣味の悪い笑みを浮かべて、それを見る助手席の店長は呆れ顔だった。

「さあ、行こうか」

「もう! だからどこに行くんですの!?」

 車は私の言葉を無視して発進してしまった。

 車の中で、私はターナーから下を見るように言われた。私の足元には細長い大箱が一つ。

「開けてくれ」

 その通りにすると、箱の中には狙撃銃が一丁と拳銃が二丁。私が三日前に事務所で使ったやつと一緒だ。

「あの、これは?」

「今日君が使うやつだ。この前の腕前を見せつけてやれよ」

 ははん、なるほどね……ようやく合点がいったわ。これはきっと、射撃訓練の手伝いなんだわ。それで人手が足りないものだから、私が駆り出されている。それじゃあ今向かっているのはさしずめ射撃場だわ。

 ……と、早合点がいけなかったのか、私の予想はものの見事に外れたらしい。車はどんどん都会の方に進んでいく。

 いや、きっとまだ先に行くのよ。そしてここからどんどん田舎に行って、目的地はきっと森の中、大自然の射撃場よ。

 ……この予想も外れちゃった。車は都会の真ん中で停まってしまった。ここまで予想が外れると、言い知れない不安に襲われる。

「さあ着いたから出てくれ。あまり人目につくわけにはいかないから急いでくれよ」

 ターナーに急かされて降りると、私の知らない場所だった。いやまあ私は普段からほとんど引きこもっているわけだから、知らない場所がほとんどなんだけどね。

 私は自分で銃が入ったケースをもってターナーについて行った。彼はある古びたビルの非常階段を登っていく。

「正面から入らないの?」

「正面からだなんて入れるわけないだろう? お客さんじゃないんだから」

「レイディ・フランシス、僕たちは見られてはいけませんからね。こういう人目のつかない場所を行かないといけないんですよ」

「へ、へえ」

 でも射撃場じゃないなら、このビルは一体なんだっていうのかしら? 

 ビルの中は真昼間だっていうのに薄暗い。ボロの内観のせいかもしれないけれど、とにかく雰囲気が暗い。そして、人が一人もいない!

「ここってなんのビルなの?」

「ただの廃ビルだよ。もう何にも使われていない」

「ここに何の用があるの?」

「いいや、用があるのはここじゃないよ」

「え?」

「向こうに用があるのですよ、レイディ・フランシス」

 店長が指をさしたのは、窓から見える、通りを挟んだ向こうのビルだった。
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