最強騎士は料理が作りたい

菁 犬兎

文字の大きさ
18 / 144
第一章

皇帝陛下は最強魔術師を黙らせたい☆

しおりを挟む
「お前。今なんと言った?」

「だーかーらー?その捕らえた騎士を殺さないで保護してほしいんだけどぉ?」

私はエルハド。
このサウジスカル帝国の皇帝である。
そして、その私の前で無礼にもテーブルにうつ伏せ、顔だけこちらに向けているこの男。コイツは我が国最強の魔術師
名をデズロ・マスカーシャと言う。

全ての発端はこの男のこの一言から始まった。

「ティファちゃん捕まえたんでしょ?あの子帰っても居場所ないからこの国に貰っちゃおう。そんで美味しいものいっぱい作ってもらおうよ」

ビキリ。
私の額にまた、青筋が増えた。

お分かりだろうか?このデズロという男。いい歳こいて子供の様なこの喋り方に、舐めた態度。そして、自己中心的思考の持ち主で、いつも思い付きで周りを振り回すとても厄介な輩なのであるが、彼の言う事を無視出来ない理由が私にはあった。

「だってさ~僕ぅ。この国から一歩も出れないんだよぉ?他の国のご飯食べたいよぉう」

そうなのだ。この男デズロは、類稀なる魔力を持っており、その力を我が国に留め置く為、私達は彼の望みを出来るだけ叶えて来た。きっと今回も何かの気まぐれだろう。そう思っていたのだが。

「僕。あの子にちょっと前に助けられたんだよねぇ?ほらぁお前達が無理矢理僕に巨大ゴーレム倒しに行かせたアレ」

ちゃんと説明しておくが、私達は無理矢理、化け物の巣にこの男を送り出した訳ではない。
そもそも、その巨大ゴーレムを創り出したのがこの男なのだ。しかもその理由がただ暇だったから、だ。ふざけやがって。

よって責任を取らせただけであって、決して無理矢理ではない!

しかも他国と戦争真っ只中の大変な時期に、あれだけ護衛を付けてやったにも関わらず、その全ての護衛を放り出し勝手に行動したのもコイツである。
つまり、行き倒れたのも、自業自得なのだ。
帰って来なければ良かったのに。

「あの子のお弁当。最高だったぁ~。しかもよく見たら美人だったし!殺しちゃうなんて勿体無いし敵国に送り返すのもなし!向こうは彼女の貴重さに全く気付いてないからね?失って初めて気付く事もあるだろ?人間は失敗して学ぶものだろ?」

つまり。あの女騎士にそこまでの価値がある、と、この男は言いたいらしい。

それはそれは。コイツは余程新しいオモチャが欲しい様だが・・・・。

「デズロ。国の問題には口を出さない約束だろう?いくらお前の頼みでも今回は聞けない」

「えーーーーーーーー!?そんなぁ!酷い!エルハドのケチ!ハゲェーーー!!」

禿げてない!!まだ禿げてないぞ!?貴様。私が気にしてる所をダイレクトに突いてくるな!子供か!

「私はまだ彼女に会っていない。彼女をどうするかは、私が決める。分かったな?」

反抗的な目だな。やっぱ行方不明だと言われた時、探さなければ良かったか・・・もう別にコイツいない方が平和な気がするのだが。

「じゃあ殺さなければいいよ。だって彼女。好きで騎士になった訳じゃないんだ。本当は小さな料理店を開きたかったんだって」

なんだそれは。そんな娘がなんで一国の最強騎士になるんだ。訳が分からないぞ。

「才能とやりたい事が必ずしも合致するとは限らない。僕みたいにね?」

いや、お前は合致してるだろ?殆ど働かずニート生活万々歳だろ?汗水流して働く人間の気持ちマジ分からんとか、ほざいてたのは、どこのどいつだ?

「・・・・殺さなければ、良いんだな?」

腹立つ顔だな。何だその笑顔。確信犯だなコイツ。

しかし、困った。
私がいくらデズロをいらんと言ったとしても周りが許さんだろうしな。かと言って全てコイツの言う通りにするのも癪に触る。ん?確か料理が上手いと、言っていたな?

ふふん?そうか、ではこうしよう。

「ギャド。騎士の宿舎の管理を任せられる者が欲しいと言っていただろう?それをこの前捕らえた捕虜にやらせて欲しい」

あそこは大きな厨房があるはずだ。
何も言わなくても彼女はそこで料理を作るはず。

「は?捕虜に?だけど敵国の騎士なんだろ?俺はあの宿舎には殆ど帰らないし、危険なんじゃねぇか?」

「そうだな。暫くは監視を付け見張って貰うが、恐らく大丈夫だろう。勿論私も直接会って話し、それでもデズロの話と相違なければ、の話だ」

デズロは勝手に街には降りられない。
厳重な警備と首輪が付いている。
つまり、彼女が料理を作ったとしても、デズロはそれを食べることが出来ない。それをいつも我儘を言って振り回している騎士達が食べるのだ。さぞかし悔しがるに違いない。ハッ!!ザマァミロ。

私の性格がこんなに歪んだのも元々はお前の所為だからな?身から出た錆だぞ?
さて?問題の彼女は実際どんな人物なのか。

その人物は遠くから見ると一見そこら辺の男性騎士と変わらない背の高い出で立ちで、しかしその顔は年頃の女性特有の愛らしい顔をしていた。

その瞳が不思議そうにこちらを見ている。
きっと何故自分がここに連れて来られたのか分からないのだ。捕まえられ、そのまま殺されると思っていたのだろう。

「お前は何故騎士になったのだ?この国が憎かったのか?」

基本我が国から戦争を仕掛けることはあまり無い。
大体は攻め込まれそれを迎え撃っている。
だが、逆恨みはあるだろう。

「いいえ?特には」

何だろうな。この娘から何やらデズロと似たような雰囲気を感じるのだが・・・・気のせいだろうか?

「では、何故ここへ攻めて来た?」

「何故、と、言われましても。私の国の王がこの国を攻め落とせと言ったので。雇われてる私はそれに従ったのですが?そこに理由など必要なのですか?」

そうだな。王が攻めろと言ったら攻めるだろうな。確かに。質問の仕方が悪かったか?

「騎士になったのは。気付いたら昇格していたので。あの国実力第一主義なので。とりあえず強い人間がドンドン出世するらしいです。頭の良し悪しは関係ないとか?」

ほう?君は中々自己分析能力はあると見た。
つまり君は頭が良くないだろう?

「余程弱い人間が多かったんですね?私が最強騎士なんて言われてしまうくらいですからねぇ?挙げ句の果てに仲間の私を騙して崖から突き落とすなんて酷い国ですよ」

え?君もしかして倒れてた近くの崖から落ちて来たのか?あんな絶壁から?よく助かったな?

「全く。足の自由がきかなかったら死んでましたよぉ?あ、でも今から死ぬかも知れないので関係なかったですか?」

なんだろうな。この局面での能天気さ。やはり、この娘
デズロを彷彿とさせる。

私は結局、彼女をこの国に留める事に決めた。
これで暫くはあの阿保も大人しくなるだろう。

「あーーーーお腹すきましたぁ」

・・・・・・とりあえず。さっさとギャドに彼女を回収して貰おう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

処理中です...