最強騎士は料理が作りたい

菁 犬兎

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第一章

ティファは自分が分からない

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「ティファ。何度言ったらわかるの?」

「ティファ。どうしていつも言う事を聞かないんだ」

「お姉ちゃんの馬鹿!私が揶揄われるの全部お姉ちゃんの所為なんだからね!大っ嫌い!」

「失望したわ。憧れてたのに。こんな人だったなんて」

「お前は何も考えず戦っていればそれでいい。そうすればあの馬鹿王子との婚約は私が潰してやる。いいな?」

「ティファ。私は誰よりもお前を愛しているんだ。お前は私が見つけた、最高の騎士なんだからな」


「「「「ティファ」」」」

ハァ。疲れました。
なんなんですかね?

私、決して器用なタイプじゃありません。
子供の頃からそうでした。

両親が望んだ様な娘にはなれませんでしたし、妹が誇れる様な姉でもありませんでした。

忙しい三人の代わりに家事を手伝う内、料理にのめり込んでしまって、それが益々両親をガッカリさせちゃったみたいでした。他に取り柄もありませんでしたから、食糧不足に陥った時、いち早く家を出て兵士になったんです。

家族は誰も私を止めたりはしませんでしたから、きっと正しかったと思います。多分。

兵士になった私に最初に話をかけて来たのは、第二王子でした。どうやら私はあの宮廷の兵士の中ではダントツに強かったらしいです。

出世すれば今よりもっと多くお金を貰えると言われて、本当私は軽率でした。闘技大会に出てしまいまして、そこであの馬鹿王子に目をつけられたみたいです。一生の不覚。

最初はそれでも私も上手くやろうと思ったんですよ?
いくら私でも自分の国の王子と揉めたくないじゃないですか?それに、その頃はまだあの人がどんな人物か知らなかったんです。知らなかったから・・・・。

「何だこれは?」

「パウンドケーキです!王子は甘い物が好きと伺ったので!」

「・・・・・ハッ!」

「ナ、ナシェス様!」

目の前で叩きつけられた私が作ったパウンドケーキ。
それをあの人が踏み潰した時。

「失望したぞティファ。私はお前に何処にでもいる低俗な女共と同じ物は望んでいない」

私、多分どこか壊れちゃったんだと、思うんですよね?
でも、何が壊れたのか、分からないんです。

「お前は、私の物だティファ。私の望む女になれ」

・・・・・・・誰がなるか!バーーーカ!!キモッ!!
はい!回想終了!しゅーーーりょーーー!!


「ハッ!悪夢!」

「やっとお目覚めか?馬鹿女」

ゲェーーーーーーー!!悪夢はまだ続いていましたぁ!!

「本当にお前はいつもいつも私を手こずらせて。遂にこんな国境付近まで私に足を運ばせて、そんなに私に追いかけられたかったのかな?」

しかも、しかもそのキモ男と二人っきり!!うげぇ!最悪です!吐きそう。

「話は聞いたよ?お前私の弟に脅迫されていたんだね?それであの夜逃げ出したんだろう?でも災難だったね?敵の兵士が崖の下に居たなんて思いもしなかったんだろう?」

はい。思いもしませんでした!
しかも何故かとても上手にキャッチされたような?
そして気が付いたら流れる様に捕獲されましたね?
あれぇ?

「話を聞いたらお前、男だらけの宿舎に押し込められたんだって?なんて酷い国だろうね?か弱い女性を獣の巣窟に放り込むなんて、ああ、ティファ。私はそれを聞いた時、どれだけ心を痛めたと思う?」

そうですねぇ?
獣というか、室内犬というか?
皆さん礼儀正しくて、お行儀も良く大変素晴らしかったですよ?それに、私。残念ながら、か弱くないので?
わ!ちょっと!触らないで下さい!噛み付きますよ!ガルルル!!ガゥ!

「・・・そんな恥ずかしがらなくてもいい。もしかして、まだ、あの時のこと怒っているのか?いい加減許してくれ。まさかお前が家庭的な女だったなんて想像も出来ないだろう?私は騎士姿のお前しか知らなかったんだから」

そうですよね。そうでしょうよ。
それに、私は別に家庭的なわけではないですよ?
私は料理を作ることが好きなだけなんです!

「だから、素直に戻るのならお前が好きな料理を好きなだけ作らせてやろう。それなら文句はないだろ?お前は、料理が作れるのであれば、場所が何処だろうと構わないんだ。ずっと私の側にいて料理を作っていればいい」

「・・・・・・・・。」

何故ですかね?全く嬉しくありません。
この人が嫌いだからというのもありますが、私全然トキメキません。絶対嫌です!

「ティファ?どうした?何故黙っているんだ?」

私はずっとずっと大好きな料理を目一杯作りたかった。

だって皆んな、私が料理を作ると、とても嫌そうな顔で止めるんです。だから、それは私の夢になりました。

[・・・君。本当に、最強騎士なの?]

はい。そう言われてました。
ずっとずっとそう言われて最強騎士である事を望まれて来ました。

でも、嫌だった。


[ティファ!最高マジ毎日食えるわコレ]

[ティファさんお代わりありますか!]

[美味い、俺今日一日は無敵だわ]

[ただいまー!ティファ、今日ご飯何?]


あ。私、馬鹿です?もしかしてウルトラお馬鹿です?

「料理を作ることは大好きです」

「そうだろう?じゃあ・・・」

違う。そうじゃないんです。

「でも、貴方は料理を作る私が嫌いでしょう?」

私は、ただ料理が作りたかった訳じゃない。

「ギャドさんは敵の隊長さんなのにとても面倒見が良くて見た目通りムキムキで、でも、とっても頼りになります。ヨシュアさんは真面目で融通が効かないけど、素直な所があって結構チョロいです。フィクスさんは上手く隠してるつもりでしょうけど腹黒さが隠しきれてなくて本人はそれに気付いてない所が面白いですし、妹のアイラさんは女の子の遊びを知らない私に色々教えてくれます。それで、あの国の人達は一度だって私に料理を作るなとは言わなかった」

馬鹿な人達だって思いましたよ?
敵が作る料理を簡単に口に入れるんですもん。
しかも何故か楽しみに毎日通って来ましたし。
何て平和ボケした人達なんだろうって。
でも、違いますよね?私、間違ってました。

「私はただ料理を作りたいんじゃない!!私は、私の大好きな人達に美味しい料理を食べて貰いたいんです!それで、それで・・・・・」

信じてくれたんですよね?ちゃんと私の事見てくれてました?

[凄く美味しいよ・・・ティファ!]

帰りたい。
皆んなが待つあの宿舎に。
私を認めてくれる、必要としてくれるあの場所に。

「私を幸せにしてくれる人達の下に、私を帰してください!!」

「・・・・・・・・本当にガッカリだよ。ティファ」

何で、こんな簡単な事に気がつかなかったんでしょう?

「お前が素直に戻ってくれたらこんな事しなくて済んだのに」

あ、やっぱり私殺されちゃいます?ですよね。貴方は思い通りにならない物は容赦なく切り捨てる、俺様最上主義を拗らせた人ですもんね?

「もう二度と私から逃げられないよう、そのすばしっこい足を潰してしまおう」

ワーオ!予想を遥かに上回るバイオレンス!
あ、コレ潰されちゃいますね?

「ハーーーーイお邪魔しますよーーーーー!!!」

ドゴォォォォォォォォォオ!!!!!!

え?

アレ?あの馬鹿王子どこ行きました?ん?ハイトさんが何故ここに?
え?あの、何でしょう?何か、途轍もなくご機嫌、悪いです?

「ティファ。僕は?」

「え?」

あ。馬鹿王子吹っ飛ばされて壁と仲良しさんになってますね?頭めり込んでますけど大丈夫ですか?あ、じゃなく?

「何でさっきの話に僕は出て来ないの!僕の事はどう思ってるの?」

「ちょっと、ハイト・・・今はそれどころじゃ」

どう思ってる?ハイトさんは、ハイトさんの事は。

「ティファ?」

「・・・・・秘密です。盗み聞きした罰です」

そのまま口にしたら誤解を招きそうなので言いたくないです!!ええ!それだけですよ?そうなのです!
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