最強騎士は料理が作りたい

菁 犬兎

文字の大きさ
94 / 144
第二章

ササラはとても目覚めが悪い

しおりを挟む
「ササラ。お願いだからこの部屋から出ないで頂戴」

私の母だった人は、いつも怯えながら私を部屋に閉じ込めた。子供の私には母の事が理解出来なかった。

父は私が生まれてからは殆ど家に帰って来なくなった。
私の周りでは常に普通では起きない現象が起こったからだ。人は、自分と異なる物を受け入れられないものだ。

幼かった私は、自分はずっとこの狭い部屋の中で生きて行くのだと疑わなかった。そうすれば母に愛されると思い込んでいた。

「あの子は素晴らしい魔力を持っている。貴方達では手に負えないでしょう?彼を王宮魔術師候補生としてお預かりしたい」

私はそれを呆然と、部屋の外で聞いていた。
きっと母は、私をあの部屋から出さない筈だ。
きっと断るに違いない。
あの部屋から出なければ、私はずっと愛される。

「連れて行ってもらってかまいません。どうぞ、ご自由に」

人は、望んでこの世に生まれたりはしない。
私も生まれて来たくて生まれて来たのではない。

「あんな子供間違いだったのです。私から、あんな子が生まれる筈ないもの」

ただ、あの人から生み出された私はその事さえ否定され、正直、混乱したのだと思う。あの人は私が覚えている限り私に笑いかけたことも触れたこともない。ただ悲しそうな顔で私をあの部屋に閉じ込めた。誰にも知られないように。

「ササラ?貴方、何故部屋から・・・・・」

「どうして?部屋から出たから?」

「君がササラか?私は・・・・」

「・・・・・・でていけ」

「ーーーーーーひっ!!」

今でも鮮明に思い出せる。

私達の体が、まるで紙くずのように舞い上がって、外に放り出されたあの瞬間。
私は初めて外に出て、あの青い空を見た。
そして、あの人が現れた。

「あはは!!何?君急に飛び出して来たねー?空中遊泳したかった?確かに、今日はいい天気だからねぇ?きっと気持ちいいよ?」

「きゃああああああ!!だ、誰かぁ!助けて!」

「デ、デズロ様!?何故ここに?」

「えー?だってこんな面白い子見つけたのに僕に黙ってるんだもん?なんでなのかなぁ?」

その人は、平然と宙に浮いたまま私を抱き上げた。
そして、頭を撫でて、こう言った。

「君、宮廷に来るなら僕の息子にならない?ここに一生閉じ込められてるのと、僕に可愛がられながら面白おかしく暮らすの、どっちがいい?」

6歳の子供に、よくもそんな事聞いたな?と後に思ったが、私はそんな事よりも初めて私を子供扱いした、この男から離れたくなくなった。その時は、それが何なのか理解出来なかったが、私は今でも、その事を後悔した事はない。

「おとうさん?」

「そうだよ?パパって呼んでも、いいんだよ?」



・・・・阿呆が!誰が呼ぶものですか。でも、あの瞬間から、私の親は貴方ただ一人です。これから先もずっと。

「ティファって僕の実の娘なんだよねー?実は」

「へぇ?それで?あと何人くらい子供作ったんです?この際だから全部吐いて下さい」

「え!?ササラって実は僕の奥さん?浮気を疑う正妻?」

ビックリしたんですよ。貴方に子供がいたとは思いませんでした。では、私はその代わりですか。納得しました。

「なんだよーササラ冷たいなぁ。もっと、慌てたりするかと思ったのになぁー?」

貴方のおふざけに慣れてしまいましたから。不服ですが。

「それで?私にどうしろと?」

「ティファをさぁ、僕の養子にしてもいい?」

なんでそんな事をいちいち私に確認するんでしょう?
そもそも養子ではなく実の娘でしょうが。

「えー?だってぇ。ササラの妹になるんだよ?聞くでしょ?普通」

何、常識人ぶってんですか?貴方は非常識人間なのでその気遣いは無駄ですよ。お好きにどうぞ。

「ご勝手に」

「じゃあササラ、ギャドとバトンタッチしてね?あの子の引受人頼んだよ?」

「何言ってるんですか?貴方が面倒をみるのでは?」

「僕まだティファに会えないの。あの子に術をかけてあるからね?あの子がここに馴染んで落ち着くまでティファとは会わない」

その後ティファの今までの経緯を聞き彼女に会った時、私は気付きました。あの子の私を警戒する姿や人への接し方で。

この子は深く傷ついていると。

それなのに、その事に本人が気付いてないんです。
そして、関わって行く内に、この子はとてもデズロ様に似ていると思いました。本当に不器用なんですね。やり方が。

ギャドからも常々話を聞かされてましたから、私は彼女を快く迎え入れました。

でも結局デズロ様はティファに真実を話しませんでした。ティファがピンチになれば駆けつけるほど彼女が大事な癖に。あの子を抱き締めてやる事が出来ないんです。

本当に、馬鹿なんです。あの人。

「・・・・・ササラ?おはよう。やっとお目覚めだね?」

「・・・・・何、して、るんです?」

「何って?ササラが起きるのを待ってたんだけど?」

思ったより静かにしてましたね?でも、少しやつれましたか?酷い顔してますけど、鏡見てみたらどうです?

「もう、子供ではないので、一人で起きられますが?」

「はは!何言ってるの?ササラはどんなに年をとっても僕からしたら子供だから?子供は親より早く死んじゃ駄目なんだよ?」

・・・・貴方、その様子だと、また何か無茶しましたね?
本当に勘弁して下さいよ。私、目覚めて数秒で後処理の心配しなくてはいけないんですか?

「ティファは無事だったんですね?」

「僕、本気で心配したんだけどな?どうして分かってくれないのかなぁ?」

日頃の行いじゃないですか?その様子だと無事ですね?

「ササラ」

「それで?貴方はどんな無茶をしたんですか?」

死んでもいいなんて思ってなかったですから、大丈夫です。中であれほど魔法が使えなくなるとは予想していなかったんですよ。それで咄嗟にティファの前に飛び出してしまっただけですから。

「いい加減、その顔やめてもらえます?目覚めてすぐそんな顔されたら起きる気、失くします」

貴方はいつもみたいにヘラヘラしながら我儘言ってて下さい。そうじゃないと私のした事が無駄になってしまうでしょう?

私ももう、いい大人なので。
いつまでも子供扱いするのは、やめて頂きたいものです。

全く。どうして、貴方が抱きしめる相手が彼女ではなく私なんでしょうか?

「・・・・・・すみませんでした。泣いてます?」

「そうだよー。僕久々に、こんなに働かされて泣きそう。もう暫くダラダラ過ごすから!!仕事しない!」

はいはい。つまり、いつも通りですね?了解しました。
万年アルバイターのデズロ様?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

処理中です...