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運命を求めた男(雄大視点)

運命を求めた男12

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「………」

「もしそれが結婚して、子どもができた後だったとしても………俺はきっと妻子を捨てて、番を追いかけるんだよ」

「………お前は、そんなことしないよ」

「するよ。する。絶対にする。……だって俺は、母さんの息子だから。誰かを不幸にすると分かっていてなお、運命を求めずにはいられない」

 歪んだ顔がカケに見られたくなくて、机に突っ伏した。
 俺は……カケが思うほど、優しい男じゃない。

「雄大……お前は自分と同じ想いを妻子にさせない為に、運命の番を探していたんだな………」

 ………違う。違うよ。カケ。
 そんな綺麗な理由じゃない。

 だって、妻子を捨ててまで求める「運命のΩ」でさえ、結局はカケの代替え品に過ぎないんだから。

「--大丈夫だよ。雄大。お前は優しい奴だから、何があったって妻子を裏切って不幸になんかしない。俺が保証する。それにお前の運命だって………ここまで徹底して逃げるような奴なんだから、卒業してからだったら、なおのことだろ。絶対にお前の前には現れないから、安心していい。……お前が怖がることなんて、何もないんだ」

 カケの言葉は優しくて……そして、どこまでも的外れだ。
 カケはよく俺のことを「優しい」って言うけれど……そんなの、カケに対してだけだよ。
 カケが大好きで、嫌われたくないから、優しく振る舞ってるだけだよ。

「ありがとう。カケ…………でも俺は我が儘だから、それはそれで嫌なんだよ……」

 だって俺は……妻子を捨ててでも、求めると確信している「運命の番」が--ずっと見つからなければ良いのに、と心の底では望んでいる。

「これから先、二度と運命の番の気配を感じることがなかったとしても………俺は結局は妻子を捨てて、探しに行ってしまう気がするんだ」

 見つかれば、きっとカケと比べてしまうから。
 結局は代替え品では満足できないことを、本当は知っているから。

「……顔も名前も、知らないのに?」

「……顔や、名前を知らなくても」

 俺は本当は--顔も名前も知らない「運命の番」が、顔も名前も知らないまま、「カケを失った穴を埋める希望」であり続けることを、願っているんだ。
 どうでもいいんだよ………「運命の番」の、顔も名前も、人となりですら。その相手が、あの脳まで蕩かすような、甘い甘い香りを纏ってさえいれば。

 カケにはとても打ち明けられない、身勝手で残酷な自分。
 妻子を不幸にし、「運命の番」の人格を否定し、ひたすら自分の欲だけを貫く。
 ………こんな最低な自分を実感する度、確かに俺はあの人の息子であることを突きつけられる。
 息子を、自らの利益の為に利用できるかどうかでしか量れない最低な父親の血が、確かに俺の体には流れてる。

「………雄大」

 --暗闇に沈みかけていた気持ちを、握り締められた手から伝わる優しい温もりが、ふわりと浮かび上がらせた。

「今日なら……俺の部屋に泊まって行ってもいいぞ」

 ………つい一瞬、誘われてるかと思っちゃった。
 いや、落ち着け。俺。
 カケはαだから、同じαの俺を部屋に泊めた所で、何の問題もないんだよ。深い意味はない……はずだ。

「食堂でいつもみたいに夕飯食べた後、部屋でシャワーだけ浴びたら、明日の課題のノートと二人でできるゲーム持って、俺の部屋来いよ。俺は、管理棟から来客用布団借りといてやるから。……一緒に課題やって、満足するまでゲームで遊んで、布団で寝転がりながら、くだらない話をしようぜ。……二人きりじゃなきゃ話せないようなことも、弱音でも何でも聞いてやる。だから……二人で同じ朝日を見ようぜ。……なあんてな」

 照れ臭そうに笑うカケに、胸の奥がきゅうっと締め付けられた。
 ……本当。何でそんなに優しくて、無防備なんだろう。
 カケがそんなんだから………俺みたいな、悪いαに付け込まれるのに。

「………いいの? カケ」

 欲と理性を天秤に掛け、少し躊躇ってから、そっとカケの手を握り返す。

「………俺、泣いちゃうかもしれないよ?」  

「泣け泣け。二人きりなら、いくらでも泣かせてやるから」

「え……それちょっとエロい」

「本気で殴るぞ、お前」

「冗談、冗談だって! だから左手で拳作るのやめて! ……じゃあ、お願いしようかな」

 ……カケと二人でお泊まり会をして、正直理性が保つ自信はないけど。

「………ありがとう。カケ」

 --それでもこの無防備な好意を、裏切りたくはないと、心から思った。

 

 



 
 


 
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