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運命を求めた男(雄大視点)
運命を求めた男13
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自室のシャワーで全身をくまなく綺麗に洗って、カケの部屋へ向かう。
もちろんセッ……ごにょごにょを致す予定は無いけれど(当然カケから誘ってくれたらその限りではないけど……流石にそこまで非現実な夢は見られない)いつもより長く、より密接した空間にいれるのに、万が一カケから「臭い」と思われたら死ねるから、いつもの倍量のボディーソープを消費した。
人生二回目のカケの部屋にどきどきしながら、玄関のチャイムを鳴らす。
カケはインターフォンで俺の姿を確認し、ロックを解除して中に招いてくれた。
「お邪魔しまーす。……あ、カケ、濡れ髪エロい」
……おっと。つい、本音が。
「………閉め出されたいのか、お前」
「冗談デス。冗談。………わー、カケの部屋久しぶり。全然部屋に入れてくれないんだもん」
「こないだ、お前がごねるから、仕方なく来させてやったばかりだろ」
「……4ヶ月と12日前にね。しかも一回だけ」
「………飲み物、コーヒーとジュースどっちがいい?」
「オレンジジュース。……カケって本当、都合悪い話題になると話逸らすよね」
都合の悪い話になるとすぐ逃げるのは、カケの数少ないながらも、最大の短所だ。
しかもその逃げ方があまりに下手くそで、あからさまだから、結局こちら側が何だかんだでうやむやにすることを許してしまう。……だって、そんな所も可愛いって思っちゃうんだもん。ずるい。
その後は、幸福な時間が続いた。
起業して稼いでる俺と、比較して落ち込むカケを慰め。(成績で言えば俺と変わらないんだから、もっと自信持って良いのに……カケのこう言うαらしくない謙虚なとこが、めっちゃ可愛い)
パンと同じように、課題を半分こして写しっこして。
くだらない話で盛り上がりながら、二人で対戦ゲームをした。
二人でげらげら笑って、些細なことで大騒ぎして。馬鹿みたいなことを言い合って。
父親のことも見合いのことも、いつの間にかすっかり頭から抜けてしまっていた。
幸せだった。
この時が永遠に続けばと思うくらい、ただ幸せだった。
ゲームに夢中になっている間に、いつの間にかすっかり遅くなっていたから、慌ててゲームを終わらせた。
寝る支度をして、カケはベッドに、俺は管理棟から借りた布団に、互いに潜り込んで、電気を消す。
「……ねえ。カケ。眠る前に、少しだけ話してもいい?」
まだ、幸せな時間を終わらせたくなくて、暗闇の中、カケに話しかけた。
「……ああ。いいぞ」
「ふふ……何か、良いな。こういうの。すごく楽しい。カケと旅行にでも来たみたい」
いつか……叶うなら、カケと一緒に旅行へ行ってみたいな。
色んな場所で、二人で思い出を作ってみたい。
--そんな些細な願いすら、きっと叶わないんだろうと、分かっているけど。
「ねぇ、カケ。--カケは、どんなΩの子と結婚したいと思う?」
痛みに耐えながら、咄嗟に口から出た問いは、余計に俺自身を追い詰めるものだった。
……何でそんな自傷行為じみたことをしたのか、自分でもよく分からない。
先程までの時間が幸せ過ぎたから、浮かれて舞い上がる自分を、現実に引き戻したかったのかもしれない。
いつまでもこの幸福が続くわけではないことを、自分自身に思い知らせる為に。
もちろんセッ……ごにょごにょを致す予定は無いけれど(当然カケから誘ってくれたらその限りではないけど……流石にそこまで非現実な夢は見られない)いつもより長く、より密接した空間にいれるのに、万が一カケから「臭い」と思われたら死ねるから、いつもの倍量のボディーソープを消費した。
人生二回目のカケの部屋にどきどきしながら、玄関のチャイムを鳴らす。
カケはインターフォンで俺の姿を確認し、ロックを解除して中に招いてくれた。
「お邪魔しまーす。……あ、カケ、濡れ髪エロい」
……おっと。つい、本音が。
「………閉め出されたいのか、お前」
「冗談デス。冗談。………わー、カケの部屋久しぶり。全然部屋に入れてくれないんだもん」
「こないだ、お前がごねるから、仕方なく来させてやったばかりだろ」
「……4ヶ月と12日前にね。しかも一回だけ」
「………飲み物、コーヒーとジュースどっちがいい?」
「オレンジジュース。……カケって本当、都合悪い話題になると話逸らすよね」
都合の悪い話になるとすぐ逃げるのは、カケの数少ないながらも、最大の短所だ。
しかもその逃げ方があまりに下手くそで、あからさまだから、結局こちら側が何だかんだでうやむやにすることを許してしまう。……だって、そんな所も可愛いって思っちゃうんだもん。ずるい。
その後は、幸福な時間が続いた。
起業して稼いでる俺と、比較して落ち込むカケを慰め。(成績で言えば俺と変わらないんだから、もっと自信持って良いのに……カケのこう言うαらしくない謙虚なとこが、めっちゃ可愛い)
パンと同じように、課題を半分こして写しっこして。
くだらない話で盛り上がりながら、二人で対戦ゲームをした。
二人でげらげら笑って、些細なことで大騒ぎして。馬鹿みたいなことを言い合って。
父親のことも見合いのことも、いつの間にかすっかり頭から抜けてしまっていた。
幸せだった。
この時が永遠に続けばと思うくらい、ただ幸せだった。
ゲームに夢中になっている間に、いつの間にかすっかり遅くなっていたから、慌ててゲームを終わらせた。
寝る支度をして、カケはベッドに、俺は管理棟から借りた布団に、互いに潜り込んで、電気を消す。
「……ねえ。カケ。眠る前に、少しだけ話してもいい?」
まだ、幸せな時間を終わらせたくなくて、暗闇の中、カケに話しかけた。
「……ああ。いいぞ」
「ふふ……何か、良いな。こういうの。すごく楽しい。カケと旅行にでも来たみたい」
いつか……叶うなら、カケと一緒に旅行へ行ってみたいな。
色んな場所で、二人で思い出を作ってみたい。
--そんな些細な願いすら、きっと叶わないんだろうと、分かっているけど。
「ねぇ、カケ。--カケは、どんなΩの子と結婚したいと思う?」
痛みに耐えながら、咄嗟に口から出た問いは、余計に俺自身を追い詰めるものだった。
……何でそんな自傷行為じみたことをしたのか、自分でもよく分からない。
先程までの時間が幸せ過ぎたから、浮かれて舞い上がる自分を、現実に引き戻したかったのかもしれない。
いつまでもこの幸福が続くわけではないことを、自分自身に思い知らせる為に。
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