隠れΩの俺ですが、執着αに絆されそうです

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
29 / 59
運命を求めた男(雄大視点)

運命を求めた男13

しおりを挟む
 自室のシャワーで全身をくまなく綺麗に洗って、カケの部屋へ向かう。
 もちろんセッ……ごにょごにょを致す予定は無いけれど(当然カケから誘ってくれたらその限りではないけど……流石にそこまで非現実な夢は見られない)いつもより長く、より密接した空間にいれるのに、万が一カケから「臭い」と思われたら死ねるから、いつもの倍量のボディーソープを消費した。

 人生二回目のカケの部屋にどきどきしながら、玄関のチャイムを鳴らす。
 カケはインターフォンで俺の姿を確認し、ロックを解除して中に招いてくれた。

「お邪魔しまーす。……あ、カケ、濡れ髪エロい」

 ……おっと。つい、本音が。

「………閉め出されたいのか、お前」

「冗談デス。冗談。………わー、カケの部屋久しぶり。全然部屋に入れてくれないんだもん」

「こないだ、お前がごねるから、仕方なく来させてやったばかりだろ」 

「……4ヶ月と12日前にね。しかも一回だけ」

「………飲み物、コーヒーとジュースどっちがいい?」

「オレンジジュース。……カケって本当、都合悪い話題になると話逸らすよね」

 都合の悪い話になるとすぐ逃げるのは、カケの数少ないながらも、最大の短所だ。
 しかもその逃げ方があまりに下手くそで、あからさまだから、結局こちら側が何だかんだでうやむやにすることを許してしまう。……だって、そんな所も可愛いって思っちゃうんだもん。ずるい。 



 その後は、幸福な時間が続いた。

 起業して稼いでる俺と、比較して落ち込むカケを慰め。(成績で言えば俺と変わらないんだから、もっと自信持って良いのに……カケのこう言うαらしくない謙虚なとこが、めっちゃ可愛い)
 パンと同じように、課題を半分こして写しっこして。
 くだらない話で盛り上がりながら、二人で対戦ゲームをした。

 二人でげらげら笑って、些細なことで大騒ぎして。馬鹿みたいなことを言い合って。
 父親のことも見合いのことも、いつの間にかすっかり頭から抜けてしまっていた。

 幸せだった。

 この時が永遠に続けばと思うくらい、ただ幸せだった。



 ゲームに夢中になっている間に、いつの間にかすっかり遅くなっていたから、慌ててゲームを終わらせた。
 寝る支度をして、カケはベッドに、俺は管理棟から借りた布団に、互いに潜り込んで、電気を消す。

「……ねえ。カケ。眠る前に、少しだけ話してもいい?」

 まだ、幸せな時間を終わらせたくなくて、暗闇の中、カケに話しかけた。

「……ああ。いいぞ」

「ふふ……何か、良いな。こういうの。すごく楽しい。カケと旅行にでも来たみたい」

 いつか……叶うなら、カケと一緒に旅行へ行ってみたいな。
 色んな場所で、二人で思い出を作ってみたい。
 --そんな些細な願いすら、きっと叶わないんだろうと、分かっているけど。

「ねぇ、カケ。--カケは、どんなΩの子と結婚したいと思う?」

 痛みに耐えながら、咄嗟に口から出た問いは、余計に俺自身を追い詰めるものだった。
 ……何でそんな自傷行為じみたことをしたのか、自分でもよく分からない。
 先程までの時間が幸せ過ぎたから、浮かれて舞い上がる自分を、現実に引き戻したかったのかもしれない。

 いつまでもこの幸福が続くわけではないことを、自分自身に思い知らせる為に。
 
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます

大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。 オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。 地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした

水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」 公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。 婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。 しかし、それは新たな人生の始まりだった。 前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。 そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。 共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。 だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。 彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。 一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。 これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

冷酷なアルファ(氷の将軍)に嫁いだオメガ、実はめちゃくちゃ愛されていた。

水凪しおん
BL
これは、愛を知らなかった二人が、本当の愛を見つけるまでの物語。 国のための「生贄」として、敵国の将軍に嫁いだオメガの王子、ユアン。 彼を待っていたのは、「氷の将軍」と恐れられるアルファ、クロヴィスとの心ない日々だった。 世継ぎを産むための「道具」として扱われ、絶望に暮れるユアン。 しかし、冷たい仮面の下に隠された、不器用な優しさと孤独な瞳。 孤独な夜にかけられた一枚の外套が、凍てついた心を少しずつ溶かし始める。 これは、政略結婚という偽りから始まった、運命の恋。 帝国に渦巻く陰謀に立ち向かう中で、二人は互いを守り、支え合う「共犯者」となる。 偽りの夫婦が、唯一無二の「番」になるまでの軌跡を、どうぞ見届けてください。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。