隠れΩの俺ですが、執着αに絆されそうです

空飛ぶひよこ

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運命を求めた男(雄大視点)

運命を求めた男20

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「……雄大」

 暫く葛藤の表情を見せて黙り込んでいたカケは、苦しそうな笑みを浮かべて、首を横に振った。

「お前の気持ちは、すごく嬉しいよ。……だけど、雄大。お前のその気持ちは、多分勘違いだ。お前を捨てた母親の代わりに、お前は運命のΩを求めて………それが、手に入らないから、今度は手近な俺に執着しているだけなんだよ。きっと。……そんな一時の気持ちで、未来を棒に振っちゃ駄目だ」

「……何、それ……」

 --俺がここまで言っても、また、逃げるんだと。そう、思った。  

「……雄大。やっぱり俺、体調悪いから、午後は早退するわ」

 背を向けて、俺の追求から逃れようとするカケに、問い詰める。

「……カケ。本当に、そう思ってるの? 俺のカケへの想いが、母さんを求めることの、ただの代償行為だって、本気で言ってるの?」

 俺を捨てて運命の番を選んだ、顔もろくに覚えていない母親に、それほど価値があると、本当に思っているのか。
 運命の番に至っては……その執着自体が、代償行為だ。

 ………本当はちゃんと、分かってるんでしょう? カケ。

 分かってて、俺の想いを、「なかったことに」しようとしているんでしょう?

「……ごめん……俺、行くな」

「待ってよ……カケ!」

 ……逃げないで、カケ。
 ちゃんと俺の想いに、向き直って。

 嘘つき。
 嘘つき。
 嘘つき……!

「友達としてすら……傍にいさせてくれないの?」

 ……俺と、「ずっと友達でいたい」って言った癖に……!

 カケは俺の問いに答えることなく、そのまま去って行った。
 絶望的な気持ちで、遠ざかって行くその背中を、ただ見つめていた。

「………カケは、ずるい。卑怯で、自分勝手だ」

 足に力が入らなくて、立ち尽くすこともできず、俺はその場にしゃがみ込んだ。

「………どっちにしろ俺から離れて行くつもりだったなら、なんで俺に昨日あんなこと言ったんだよ。『気持ち悪いから、離れろ』って拒絶すればよかったじゃないか。……そんなに、悪者になりたくないの? 俺の為に悪者にさえなってくれないの?」

 憎い。
 憎い。
 憎い。
 
 ……俺の気持ちさえ、丸ごと否定して逃げたカケが、どうしようもないほど憎らしくて、仕方ない。

「……だけどやっぱり好きなんだ………弱くて、ずるくて、自分勝手なカケですら、どうしようもないくらい好きなんだよ………っ!」

 ……それなのにどうして、幻滅することもできないんだろう?
 「好き」の大きさは、少しも変わらないままなんだろう?

 憎い欠点すら、こんなにも愛せる人が……愛さずに居られない人が、カケ以外にいるわけない。
 運命の番だって、同じだ。カケの代わりには、なり得ない。

 --この気持ちはもしかしたら、カケが最初に俺に温もりを与えてくれたことによって生まれた、刷り込みかもしれないとも思う。
 最初に同じ優しさをくれたなら、カケじゃなくてもよかったのかもしれない。
 でも、だったらなおのこと……俺の「最初」はカケしかいないんだから、それ以上に優しさを与えてくれる誰かがいた所で、カケ以上にその誰かを愛せるわけないじゃないか。
 両親にも、他の誰にも愛情を与えられないまま育った俺は、あまりに空っぽで。
 この一年半で、すっかりカケに埋め尽くされて、内側まで侵食されてしまった。
 それなのに、どうやって、今更別の相手を愛せると言うのか。
 どうやったら、この気持ちを上書きできるのだろうか。

「……それでも……αの本能が働けば、カケを忘れられるのかなぁ……?」

 今はセントラルディスタービングシステムで除去されているカケのαとしての香りを嗅げば………本能が、カケを性的対象に見ることを忌避してくれるだろうか。
 このどうしようもなく報われない想いすら、消してくれるのだろうか。

 --術は、ある。

 「運命のΩ」を見つける最終手段として、セントラルディスタービングシステムを一時的に無効にするウィルスはとっくに開発に成功していた。……ただ、本当は「運命のΩ」を見つけたくない俺がいたから、何だかんだ理由をつけて、使用を先延ばしにしてただけだ。
 あれを、土曜日である明日、カケの匂いを嗅ぐ為に使えば……。

「……カケが部屋から出る時、Ωと遭遇しなければ、問題ないよね……ダミーの為にいくつかβだって分かってる生徒の部屋にも、ウィルス流して……」

 一度使ったウィルスは、対策がされて、それ以後は使えなくなるだろう。
 そうなれば、俺がその後「運命のΩ」を断定する術はなくなる。

 それでももう………構わない。

「……カケを諦められないなら、一緒だ」

 カケを諦められない限り、「運命のΩ」は俺の「希望」にはなり得ないと、身に染みて分かったから。
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