隠れΩの俺ですが、執着αに絆されそうです

空飛ぶひよこ

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運命を求めた男(雄大視点)

運命を求めた男19

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「……雄大?」

 俺の言葉に呆気に取られているカケに、慌てて引きつった笑みを向けて弁明する。

「ほ、ほら。俺の家族って大概クソじゃん? 俺、身体的被害はなかったけど、精神的にはめっちゃ虐待受けてた感じでしょう? 優しくされた記憶なんか、母さんが出て行ってからは全然ないし。だからさ……卒業したら、もういい加減、宮本捨てちゃっていいんじゃないかなあって。在学中だけでも、仕事して育ててもらった分くらいの恩は返せるし。てか元々大した恩じゃないし、まあ普通にそれくらいしても許されるよね。うん」

「………」

「でも、α至上主義の父さんは、βである弟に宮本継がせたくないみたいでさ。多分、俺が宮本捨てるとか許さないと思うんだよね。絶対執念深く、俺に付きまとって来そうでさ。だから、逃げるにしても、父さんが追って来れないような遠くの方がいいかなあって。だったらやっぱり海外……オランダとかぴったりじゃん、ねえ?」

 そう……だから、うん。カケが重く思うようなことじゃない。
 利害の一致。それだけだから。

「………でも、」

「ほら、俺、オランダ留学分くらいのお金、十分稼いでるし! 何なら、カケ一人だったら、余裕で養えるし! ……そうだ、ルームシェア! 二人でルームシェアとか、絶対楽しいよね。滞在費だって安く済むし。日にちごとに当番決めて家事分担したりとかしてさ。オランダ料理ってどんなかなあ。一緒作ってみようね。色々」

 カケに口を挟む隙すら与えることなく、貼り付いたような笑みを浮かべたまま、ただただ必死にまくし立てた。

「それにオランダって、バース性に対して色々大らかで良いよね~。どんな組み合わせのカップルだって、結婚できるし。……αとαだって、オランダなら結婚できるんだよね」

 ……あ。しまった。また、余計なことを言った。

「……雄大、俺は」

「あ、違うよ! 違う、俺、そう言うつもりで言ったわけじゃないから! 俺、ちゃんと分かってる、カケがそういうの無理だってちゃんと分かってるから……そうじゃなくて、いつかさ。ほら、俺って運命なΩに嫌われてるから? この先結婚できそうにないし、もしカケも独身でいることになったら、そういうのもありなんじゃない? みたいな? あ、もちろんもちろんエッチなこととかは無しで! 友達の延長線で、そういう風なのもありかなー、なあんて」

 このまま友達として、カケと一緒にオランダにいれば、いつか思いがけなく、そんな幸運を手にすることもあり得るかも知れない。--それが、俺が一晩かけて見つけ出した、新しい希望。
 ……カケなら、その気になればすぐに恋人ができるだろうし、結婚を前提に大切に付き合って、結婚してからも生涯大事にするだろうとは正直思う。
 だけど……何らかの形でパートナーと別れることになって、カケが一人で老後を迎える可能性だって0じゃない。事故や病気で、パートナーを亡くすことだってあり得る。
 年を取って生殖能力さえ衰えてしまえば、もうαもΩも関係ない。老後なら、仲が良いα同士が二人で暮らしていても、おかしくはない……はずだよね。
 
 現実になる保障もない僅かな可能性に縋って、これからは生きて行こう。--そう、昨夜決意した。
 少しでも希望があれば、きっと俺は大丈夫。だって俺の人生、そればっかりだったから。そんな状況、慣れてる。今と何も変わらない。
 俺は大丈夫、だから。………だから、お願い。カケ。

「--雄大。いい加減、俺の話を聞け」

 真っ直ぐに目を見据えながら肩を掴まれ、びくりと体が跳ねた。
 押し黙る俺に、カケは大きくため息を吐いて、ゆっくり肩から手を離した。

「………悪い。雄大。俺が昨日おかしなことを言ったからだな。雄大に、変なことを言わせちまった。ごめんな」

「……………」

「だけど、俺、大丈夫だから……今のお前の言葉だけで、その気持ちだけで、十分だから、心配すんな。俺は一人でもオランダで……」

「--違うよ。カケ」

 ゆっくり首を横に振りながら、両手で包み込むようにカケの右手を握る。
 違う。カケは、分かってない。
 ……いや、分かってて、敢えて目をそらしているのか。

「『俺が』………俺が、傍にいたいんだよ。カケ。どんな形でもいいから、これからもずっとカケの隣にいたいんだ」

「雄大……」

「俺は………カケが、好きなんだよ。Ωだったら、なんて仮定の話じゃない。バース性とか関係なく、俺はカケが大好きで、誰よりも一番大切なんだ。カケが隣にいてくれるなら、俺はもう他には何もいらない。……運命のΩだって、必要ないんだ」

 だからカケ……お願い、逃げないで。
 俺の想いを、どうか受け止めて。
 報われない想いだってことは、分かってる。
 ……それでも。それでも、せめて。

 頬に、涙が一筋、伝うのが分かった。

「……『友達』で、いいよ。カケ。カケは、俺のことを『友達』と思ってくれて構わない。俺と同じだけの気持ちを返せだなんて、わがままは言わないよ」

 縋るように。祈るように。
 両手で握りしめたカケの手を、額に当てた。
 零れ落ちた涙が、カケの手を濡らす。

「『友達』でいいから……俺を、傍にいさせて。俺を置いて、一人で外国になんかいかないで。……ただ、一緒にいてくれるだけで良いから。それだけで俺は、幸せだから」

 それでも--カケの傍にいたいんだ。
 カケと、一緒に生きていきたい。……それが、どんな形でも構わないから。
 ちゃんと、カケが望む「友達」のままでいるから。
 だから、お願い……。
 
 傍にいることだけは、許して。

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