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運命を求めた男(雄大視点)
運命を求めた男21
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翌朝。
俺は寮のセントラルディスタービングシステムの一部に、コンピュータウイルスを流して、カケの部屋と何人かランダムに見繕ったβの生徒の部屋だけ、機能を中断させた。
……万が一原因が解明されたとしても、海外サイトからの流出したウイルスだと思われるように細工もした。……全てが終わった暁には、「学園の共有パソコンで、変なサイトを開いてしまった」と名乗り出るつもりでいる。意図的な行為だとばれなければ、恐らく処分は、せいぜい調査費用等の自己負担程度で済むはずだ。
どう考えても悪質な違法行為だけど、罪悪感はなかった。
……ただ、万が一カケに知られたら、軽蔑されるかもしれないな、とだけは、ちらと思った。
万が一、俺のウイルスのせいで大騒動になった時の為に、いつでもウイルスを収束できるワクチンソフトも開発し、タブレットに入れておいた。それと、売店で購入した見舞いの品を持って、カケの部屋を目指す。
……カケは体調が悪そうだったけど、あれが精神的ストレスから来るものなら、俺と会わないで済んでいる今日は、元気いっぱいに外出しているかもしれない。でも……その時は、その時だ。
緊張から早鐘を打つ心臓を落ち着かせるべく、大きく深呼吸をして、カケの部屋のインターフォンを鳴らす。
応答は、想像した以上に早く返って来た。
『……はい。畑仲です』
……よかった。いた。
「……あ、カケ? 突然ごめんね。体調悪くて、寝込んでるんじゃないかってお見舞いに来たんだ」
そう、口にした瞬間だった。
『………っあああ!!』
「カケ!?」
インターフォン越しに響き渡る、カケの叫び声と、何かが倒れた音。
子機が床に落ちたのか、ガンと叩きつけられるような音まで聞こえてきた。
「カケ! カケ! カケ! 大丈夫!? お願いだから、返事をして!!」
インターフォンを出た時までは、普通だった。
それなのに、この一瞬でカケの身に何が……!?
必死で呼びかけても、カケは答えてくれない。
最悪な事態の想像が、脳裏に過ぎる。
……もし、カケが突発的な脳出血とかが原因で、倒れ込んでしまったのなら。
このままじゃ……カケは……カケは……。
「待って! 今、鍵を開けるから!」
……カケが、俺の傍から去って行くことが、一番怖いことだと思ってた。
だけど、それでも。世界のどこかで、カケが笑っていてくれるなら……生きて幸せでいてくれるなら、カケがこの世からいなくなることに比べたら、ずっとずっとましなのだと、思い知る。
嫌だ。嫌だよ。カケ。……死なないで。
泣きそうになりながら、必死にタブレットを操作する。
管理人の所に行く余裕なんかなかった。
……本気で使う気はなかったけど、カケがどうしても扉を開けてくれない場合を想定して、実は寮部屋のキーをハッキングで解錠するツールも用意してある。
こんなのを使ったことが学園にバレたら、それこそ退学ものだけど、今はそんなことを言ってる場合じゃない。状況は、一刻を争う。
ハッキングは、すぐに成功した。
解錠を知らせる電子音が響くなり、扉を開いて、カケの部屋に駆け込んだ。
「--カケ!!!!」
「ああああああっ!!」
リビングへと続く扉を開いた途端、鼻孔に飛び込んで来たよく知る甘い香りと、それを凌駕するほどの、心を蕩かすような甘い甘いカケの声に、俺は呼吸も忘れて立ち竦んだ。
床に倒れ込んでいたカケは、うつ伏せの状態でひくひく痙攣していた。
しかし、それが苦痛から来るものではなく、激しい快感の余韻からなのは、こちらを見上げるその顔から、明らかだった。
頬を紅潮させながら涙で潤んだ目を俺に向け、開いた口の端から唾液を零れさせるカケの姿は………想像を絶する程、淫靡で。
カケを想うあまり、俺は今、自分の妄想の中にいるんじゃないかと。そんな馬鹿なことさえ想うくらい、その光景は、非現実的な物だった。
「雄大……電子ロックを……ハッキングで解除するのは……犯罪だぞ……」
カケの言葉で我に返った俺は、その瞬間、全てを察した。
俺は寮のセントラルディスタービングシステムの一部に、コンピュータウイルスを流して、カケの部屋と何人かランダムに見繕ったβの生徒の部屋だけ、機能を中断させた。
……万が一原因が解明されたとしても、海外サイトからの流出したウイルスだと思われるように細工もした。……全てが終わった暁には、「学園の共有パソコンで、変なサイトを開いてしまった」と名乗り出るつもりでいる。意図的な行為だとばれなければ、恐らく処分は、せいぜい調査費用等の自己負担程度で済むはずだ。
どう考えても悪質な違法行為だけど、罪悪感はなかった。
……ただ、万が一カケに知られたら、軽蔑されるかもしれないな、とだけは、ちらと思った。
万が一、俺のウイルスのせいで大騒動になった時の為に、いつでもウイルスを収束できるワクチンソフトも開発し、タブレットに入れておいた。それと、売店で購入した見舞いの品を持って、カケの部屋を目指す。
……カケは体調が悪そうだったけど、あれが精神的ストレスから来るものなら、俺と会わないで済んでいる今日は、元気いっぱいに外出しているかもしれない。でも……その時は、その時だ。
緊張から早鐘を打つ心臓を落ち着かせるべく、大きく深呼吸をして、カケの部屋のインターフォンを鳴らす。
応答は、想像した以上に早く返って来た。
『……はい。畑仲です』
……よかった。いた。
「……あ、カケ? 突然ごめんね。体調悪くて、寝込んでるんじゃないかってお見舞いに来たんだ」
そう、口にした瞬間だった。
『………っあああ!!』
「カケ!?」
インターフォン越しに響き渡る、カケの叫び声と、何かが倒れた音。
子機が床に落ちたのか、ガンと叩きつけられるような音まで聞こえてきた。
「カケ! カケ! カケ! 大丈夫!? お願いだから、返事をして!!」
インターフォンを出た時までは、普通だった。
それなのに、この一瞬でカケの身に何が……!?
必死で呼びかけても、カケは答えてくれない。
最悪な事態の想像が、脳裏に過ぎる。
……もし、カケが突発的な脳出血とかが原因で、倒れ込んでしまったのなら。
このままじゃ……カケは……カケは……。
「待って! 今、鍵を開けるから!」
……カケが、俺の傍から去って行くことが、一番怖いことだと思ってた。
だけど、それでも。世界のどこかで、カケが笑っていてくれるなら……生きて幸せでいてくれるなら、カケがこの世からいなくなることに比べたら、ずっとずっとましなのだと、思い知る。
嫌だ。嫌だよ。カケ。……死なないで。
泣きそうになりながら、必死にタブレットを操作する。
管理人の所に行く余裕なんかなかった。
……本気で使う気はなかったけど、カケがどうしても扉を開けてくれない場合を想定して、実は寮部屋のキーをハッキングで解錠するツールも用意してある。
こんなのを使ったことが学園にバレたら、それこそ退学ものだけど、今はそんなことを言ってる場合じゃない。状況は、一刻を争う。
ハッキングは、すぐに成功した。
解錠を知らせる電子音が響くなり、扉を開いて、カケの部屋に駆け込んだ。
「--カケ!!!!」
「ああああああっ!!」
リビングへと続く扉を開いた途端、鼻孔に飛び込んで来たよく知る甘い香りと、それを凌駕するほどの、心を蕩かすような甘い甘いカケの声に、俺は呼吸も忘れて立ち竦んだ。
床に倒れ込んでいたカケは、うつ伏せの状態でひくひく痙攣していた。
しかし、それが苦痛から来るものではなく、激しい快感の余韻からなのは、こちらを見上げるその顔から、明らかだった。
頬を紅潮させながら涙で潤んだ目を俺に向け、開いた口の端から唾液を零れさせるカケの姿は………想像を絶する程、淫靡で。
カケを想うあまり、俺は今、自分の妄想の中にいるんじゃないかと。そんな馬鹿なことさえ想うくらい、その光景は、非現実的な物だった。
「雄大……電子ロックを……ハッキングで解除するのは……犯罪だぞ……」
カケの言葉で我に返った俺は、その瞬間、全てを察した。
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