38 / 59
運命を求めた男(雄大視点)
運命を求めた男22
しおりを挟む
何故、カケがあれほど頑なに、俺から離れて行こうとしていたのか。
運命のΩを探す俺に、「運命なんて、ただの体の相性だ」と言い続けたのか。
ここ数日のカケの体調の悪さの原因まで……全て。
「………カケが、心配だったんだよ……」
そう。心配だった、だけなんだ。カケがヒート中だったなんて、想定もしていなかった。……だって、カケがΩであること自体、あり得ないと思っていた。
そんなの、俺の妄想の中でしか、成立しないって。
期待するだけ馬鹿だって、そう思っていた。
俺は、カケがαであることを、今の今まで信じて疑っていなかった。……でも。
「でも本当は………心のどこかで、こうなるのを望んでいた気がする」
本当は、本能的に気づいていたのかもしれない。
……だって俺はずっと、カケしか欲しくなかった。
他のΩなんか、目にも入らなかった。
この想いが、どこから来るものかなんて、俺は知らない。
脳が知覚していなくても、全身の遺伝子がカケを求めた結果が、これなのかもしれない。
だって俺は……犯罪行為に手を染めてまで、カケを、カケが望まないこの状況に追いやったのだから。
「……セントラルディスタービングシステム不良も……お前、か……?」
「カケの、匂いを確かめたかったんだ……そうすれば、諦められると思ったから……」
………そんなの、もう。ただの言い訳だな。
荷物を置いて、花の蜜に誘われる虫けらのように、ゆっくりとカケに近づいていく。
脳まで蕩かすような甘い甘い香りに、体が制御できなくなっているのが分かった。
「……セントラルディスタービングシステムと空調に、半日だけ機能を止める作用を持つ自然消滅型の弱いコンピュータウイルスを流して、カモフラージュ用のβの生徒何人かと、カケの部屋だけ作動させなくさせた。……そうやってカケのお見舞いに行って、カケのαの匂いを嗅いだら、本能がカケを諦めてくれるかもって思ったから……」
赤いその頬に、そっと触れた。
次々に流れ落ちる涙を、親指の腹で拭う。
………泣かないで。カケ。
ああ、そんなこと、俺が言う権利なんてないな。
今、カケを泣かせて苦しめてるのは、俺なんだから。
ごめん。
ごめん。
……ごめん、なさい。
「……ごめんな……雄大」
突然のカケの謝罪に、目を見開いた。
「お前を……そこまで追い詰めたのは……俺、だな……ごめん、雄大……ごめん、な………」
「……何で、カケが謝るの……」
……なんで、そんなに、お人好しなの? カケ。
どう考えても、悪いのは俺の方でしょう?
「俺は、違法なハッキングをした犯罪者で……これからもっとひどい罪を犯すのに。カケはただの被害者なのに……どうして……!」
ぼろぼろと目から、涙が零れた。
運命のΩのヒートにあてられたαは、理性を失って、ただ快楽を貪る動物のようになるのだと思ってた。……その瞬間だけは、全てを忘れられるのだと、そう思ってた。
だけど実際は、俺の体は性的な興奮ですっかりおかしくなっていて、性器なんてすっかりガチガチに勃起して先走りを流しているのに………頭の中は、ぐちゃぐちゃのまんまだった。
カケは……本心では、俺の運命のΩになることを望んでない。
俺に触れられることすら、嫌悪感を抱いているのかもしれない。
思い掛けなく降って湧いた幸運に対する喜びよりも、その事実が、ただただ苦しくて仕方ない。
……それなのに、俺は。
俺は、もう。
「………カケ」
俺はもう--止めてあげられない。
床に横たわるカケの顎をとって、息がかかる距離に顔を近づけてから、理性を振り絞り、すんでのところで口づけを止めた。
カケのことだから……きっとキスも、今までしたことないよな。……せめて、初めてのキスは、カケが本当に好きになった相手の為に残しておいてあげた方が良いのかな。
しかし、カケの方からそのまま唇を合わせられた途端、一瞬にしてそんな葛藤は吹き飛んだ。
「はっ……ん………ふ………」
初めての口づけで、やり方もろくに分からないのに、本能のままにただ必死で、カケの舌の感触と唾液を求めた。
初めて味わうカケの口の中は、どうしようもない程甘くて、くらくらした。
カケの舌が自発的に、俺の舌に絡められる感触に泣きそうになった。
俺、だけじゃない。
求めてるのは、俺だけじゃない。
体だけでも……俺は今、カケに求められている。
そう思ったら、もう無我夢中だった。
舌先を吸って、絡め、歯列をなぞり、カケの口内をただ貪る。
カケの……「初めてのキス」を、余すことなく甘受する。
……俺、のだ。
これは、もう俺のだ。
誰にも、もう……カケの「初めてのキス」は、奪えない。
嬉しいのに、苦しくて、何だかまた泣きそうだった。
「………ふっ……」
どれだけ長い間キスを続けていたのだろう。
ようやく唇を離した時には、唾液の糸が互いの口に、つと、つながっていた。
運命のΩを探す俺に、「運命なんて、ただの体の相性だ」と言い続けたのか。
ここ数日のカケの体調の悪さの原因まで……全て。
「………カケが、心配だったんだよ……」
そう。心配だった、だけなんだ。カケがヒート中だったなんて、想定もしていなかった。……だって、カケがΩであること自体、あり得ないと思っていた。
そんなの、俺の妄想の中でしか、成立しないって。
期待するだけ馬鹿だって、そう思っていた。
俺は、カケがαであることを、今の今まで信じて疑っていなかった。……でも。
「でも本当は………心のどこかで、こうなるのを望んでいた気がする」
本当は、本能的に気づいていたのかもしれない。
……だって俺はずっと、カケしか欲しくなかった。
他のΩなんか、目にも入らなかった。
この想いが、どこから来るものかなんて、俺は知らない。
脳が知覚していなくても、全身の遺伝子がカケを求めた結果が、これなのかもしれない。
だって俺は……犯罪行為に手を染めてまで、カケを、カケが望まないこの状況に追いやったのだから。
「……セントラルディスタービングシステム不良も……お前、か……?」
「カケの、匂いを確かめたかったんだ……そうすれば、諦められると思ったから……」
………そんなの、もう。ただの言い訳だな。
荷物を置いて、花の蜜に誘われる虫けらのように、ゆっくりとカケに近づいていく。
脳まで蕩かすような甘い甘い香りに、体が制御できなくなっているのが分かった。
「……セントラルディスタービングシステムと空調に、半日だけ機能を止める作用を持つ自然消滅型の弱いコンピュータウイルスを流して、カモフラージュ用のβの生徒何人かと、カケの部屋だけ作動させなくさせた。……そうやってカケのお見舞いに行って、カケのαの匂いを嗅いだら、本能がカケを諦めてくれるかもって思ったから……」
赤いその頬に、そっと触れた。
次々に流れ落ちる涙を、親指の腹で拭う。
………泣かないで。カケ。
ああ、そんなこと、俺が言う権利なんてないな。
今、カケを泣かせて苦しめてるのは、俺なんだから。
ごめん。
ごめん。
……ごめん、なさい。
「……ごめんな……雄大」
突然のカケの謝罪に、目を見開いた。
「お前を……そこまで追い詰めたのは……俺、だな……ごめん、雄大……ごめん、な………」
「……何で、カケが謝るの……」
……なんで、そんなに、お人好しなの? カケ。
どう考えても、悪いのは俺の方でしょう?
「俺は、違法なハッキングをした犯罪者で……これからもっとひどい罪を犯すのに。カケはただの被害者なのに……どうして……!」
ぼろぼろと目から、涙が零れた。
運命のΩのヒートにあてられたαは、理性を失って、ただ快楽を貪る動物のようになるのだと思ってた。……その瞬間だけは、全てを忘れられるのだと、そう思ってた。
だけど実際は、俺の体は性的な興奮ですっかりおかしくなっていて、性器なんてすっかりガチガチに勃起して先走りを流しているのに………頭の中は、ぐちゃぐちゃのまんまだった。
カケは……本心では、俺の運命のΩになることを望んでない。
俺に触れられることすら、嫌悪感を抱いているのかもしれない。
思い掛けなく降って湧いた幸運に対する喜びよりも、その事実が、ただただ苦しくて仕方ない。
……それなのに、俺は。
俺は、もう。
「………カケ」
俺はもう--止めてあげられない。
床に横たわるカケの顎をとって、息がかかる距離に顔を近づけてから、理性を振り絞り、すんでのところで口づけを止めた。
カケのことだから……きっとキスも、今までしたことないよな。……せめて、初めてのキスは、カケが本当に好きになった相手の為に残しておいてあげた方が良いのかな。
しかし、カケの方からそのまま唇を合わせられた途端、一瞬にしてそんな葛藤は吹き飛んだ。
「はっ……ん………ふ………」
初めての口づけで、やり方もろくに分からないのに、本能のままにただ必死で、カケの舌の感触と唾液を求めた。
初めて味わうカケの口の中は、どうしようもない程甘くて、くらくらした。
カケの舌が自発的に、俺の舌に絡められる感触に泣きそうになった。
俺、だけじゃない。
求めてるのは、俺だけじゃない。
体だけでも……俺は今、カケに求められている。
そう思ったら、もう無我夢中だった。
舌先を吸って、絡め、歯列をなぞり、カケの口内をただ貪る。
カケの……「初めてのキス」を、余すことなく甘受する。
……俺、のだ。
これは、もう俺のだ。
誰にも、もう……カケの「初めてのキス」は、奪えない。
嬉しいのに、苦しくて、何だかまた泣きそうだった。
「………ふっ……」
どれだけ長い間キスを続けていたのだろう。
ようやく唇を離した時には、唾液の糸が互いの口に、つと、つながっていた。
87
あなたにおすすめの小説
【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます
大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。
オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。
地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした
水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」
公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。
婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。
しかし、それは新たな人生の始まりだった。
前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。
そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。
共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。
だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。
彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。
一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。
これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。
痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!
なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?
詩河とんぼ
BL
前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。