隠れΩの俺ですが、執着αに絆されそうです

空飛ぶひよこ

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運命を求めた男(雄大視点)

運命を求めた男22

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 何故、カケがあれほど頑なに、俺から離れて行こうとしていたのか。
 運命のΩを探す俺に、「運命なんて、ただの体の相性だ」と言い続けたのか。 
 ここ数日のカケの体調の悪さの原因まで……全て。

「………カケが、心配だったんだよ……」

 そう。心配だった、だけなんだ。カケがヒート中だったなんて、想定もしていなかった。……だって、カケがΩであること自体、あり得ないと思っていた。
 そんなの、俺の妄想の中でしか、成立しないって。
 期待するだけ馬鹿だって、そう思っていた。

 俺は、カケがαであることを、今の今まで信じて疑っていなかった。……でも。

「でも本当は………心のどこかで、こうなるのを望んでいた気がする」

 本当は、本能的に気づいていたのかもしれない。
 ……だって俺はずっと、カケしか欲しくなかった。
 他のΩなんか、目にも入らなかった。
 この想いが、どこから来るものかなんて、俺は知らない。
 脳が知覚していなくても、全身の遺伝子がカケを求めた結果が、これなのかもしれない。
 だって俺は……犯罪行為に手を染めてまで、カケを、カケが望まないこの状況に追いやったのだから。

「……セントラルディスタービングシステム不良も……お前、か……?」

「カケの、匂いを確かめたかったんだ……そうすれば、諦められると思ったから……」

 ………そんなの、もう。ただの言い訳だな。

 荷物を置いて、花の蜜に誘われる虫けらのように、ゆっくりとカケに近づいていく。
 脳まで蕩かすような甘い甘い香りに、体が制御できなくなっているのが分かった。
 
「……セントラルディスタービングシステムと空調に、半日だけ機能を止める作用を持つ自然消滅型の弱いコンピュータウイルスを流して、カモフラージュ用のβの生徒何人かと、カケの部屋だけ作動させなくさせた。……そうやってカケのお見舞いに行って、カケのαの匂いを嗅いだら、本能がカケを諦めてくれるかもって思ったから……」

 赤いその頬に、そっと触れた。
 次々に流れ落ちる涙を、親指の腹で拭う。

 ………泣かないで。カケ。

 ああ、そんなこと、俺が言う権利なんてないな。
 今、カケを泣かせて苦しめてるのは、俺なんだから。

 ごめん。

 ごめん。
 
 ……ごめん、なさい。
 

「……ごめんな……雄大」

 突然のカケの謝罪に、目を見開いた。

「お前を……そこまで追い詰めたのは……俺、だな……ごめん、雄大……ごめん、な………」
 
「……何で、カケが謝るの……」

 ……なんで、そんなに、お人好しなの? カケ。
 どう考えても、悪いのは俺の方でしょう?

「俺は、違法なハッキングをした犯罪者で……これからもっとひどい罪を犯すのに。カケはただの被害者なのに……どうして……!」

 ぼろぼろと目から、涙が零れた。

 運命のΩのヒートにあてられたαは、理性を失って、ただ快楽を貪る動物のようになるのだと思ってた。……その瞬間だけは、全てを忘れられるのだと、そう思ってた。
 だけど実際は、俺の体は性的な興奮ですっかりおかしくなっていて、性器なんてすっかりガチガチに勃起して先走りを流しているのに………頭の中は、ぐちゃぐちゃのまんまだった。
 カケは……本心では、俺の運命のΩになることを望んでない。
 俺に触れられることすら、嫌悪感を抱いているのかもしれない。
 思い掛けなく降って湧いた幸運に対する喜びよりも、その事実が、ただただ苦しくて仕方ない。

 ……それなのに、俺は。
 俺は、もう。
 
「………カケ」

 俺はもう--止めてあげられない。

 床に横たわるカケの顎をとって、息がかかる距離に顔を近づけてから、理性を振り絞り、すんでのところで口づけを止めた。

 カケのことだから……きっとキスも、今までしたことないよな。……せめて、初めてのキスは、カケが本当に好きになった相手の為に残しておいてあげた方が良いのかな。

 しかし、カケの方からそのまま唇を合わせられた途端、一瞬にしてそんな葛藤は吹き飛んだ。

「はっ……ん………ふ………」

 初めての口づけで、やり方もろくに分からないのに、本能のままにただ必死で、カケの舌の感触と唾液を求めた。
 初めて味わうカケの口の中は、どうしようもない程甘くて、くらくらした。
 カケの舌が自発的に、俺の舌に絡められる感触に泣きそうになった。

 俺、だけじゃない。
 求めてるのは、俺だけじゃない。
 体だけでも……俺は今、カケに求められている。

 そう思ったら、もう無我夢中だった。
 舌先を吸って、絡め、歯列をなぞり、カケの口内をただ貪る。
 カケの……「初めてのキス」を、余すことなく甘受する。

 ……俺、のだ。
 これは、もう俺のだ。
 誰にも、もう……カケの「初めてのキス」は、奪えない。

 嬉しいのに、苦しくて、何だかまた泣きそうだった。


「………ふっ……」
 
 どれだけ長い間キスを続けていたのだろう。
 ようやく唇を離した時には、唾液の糸が互いの口に、つと、つながっていた。
 
  
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