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セルドアイベント?17
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「……セルドア! 大丈夫なの? どこか体に問題はない!?」
思念のようにどこからか伝わってくる、セルドアの声と気配。
でも、そう口にした瞬間、見えないどこかでセルドアが苦笑したのがわかった。
【私の方は大丈夫です。心配なさらないでください。……ただ】
「ただ?」
【思ったより、元の世界の引き寄せの力が強く、貴女をあまり長時間そちらにいさせられそうにありません。もって、後15分ほどでしょうか。他に会いたい方がいるなら、早めにご移動ください】
元の世界で会いたいと思ってたのは、兄ちゃんだけじゃない。
父さんや、母さんにも、すごくすごく会いたかった。
今行かなければ、もう二度と二人の姿を見ることはできないかもしれない。
でも……。
「……セルドア。声だけでも、兄ちゃんに届けることは難しいかな」
私の言葉にセルドアは、少し黙り込んだ。
【……ほんの少しだけなら、貴女をそちらの世界で実体化させられそうです。一言、二言なら言葉も伝えられるでしょう】
「っなら」
【でも……その引き換えに、先ほど言った15分の滞在可能時間はなくなります】
「っ」
ということは……兄ちゃんに声を届ければ、もう母さんと父さんの姿は見られないということだ。
【今、私が魔術で阻害してますが、元の世界は貴女の魂の不在に気づいて強力な力で引き寄せてます。この世界とつながる通路も、貴女が一度元の世界に戻ればすみやかに埋められてしまうでしょう。貴女は、この機会を逃せばもう二度この世界の人間とは関わることができない。--それでも、貴女は実体化を望みますか】
父さん。
母さん。
会いたい。
私の死後立ち直って、元気で幸せでやっているのか確かめたい。
……でも。
「……実体化させて。セルドア」
ごめんね。父さん。母さん。
家族は皆同じくらい大切だけど……大切だからこそ、私、兄ちゃんを泣かせたままになんか、できないや。
【……わかりました】
次の瞬間、体がぶわりと温かくなった。
暖かな空気が体を包み、すっと鼻や口から体内に入っていく、生きてれば当たり前の感覚が妙に新鮮に思えた。
ぼんやりと宙を見ていた兄ちゃんの目が、信じられないものを見るかのように見開かれる。
「……梨、花」
私が死んだのは、兄ちゃんのせいじゃないよ、とか。
娘さんの意志は尊重してあげて、とか。
私の分まで、父さんと母さんに親孝行してあげて、とか。
言いたいことは山ほどあったけど、一言しか告げられないならば、言うことは一つしかない。
ぐれて遊び回って、家のことを全然しない兄ちゃんに腹が立ったりもしたけど。
無理やり連れ回されたり構われるのが、ありがた迷惑だとも思ってたけど。
それでもね。それでもね。兄ちゃん。
私はね。
「--大好きだよ。兄ちゃん」
微笑みながら、驚愕な表情のまま固まる兄ちゃんの体を抱きしめた。
「私の兄ちゃんが、兄ちゃんでよかった」
兄ちゃんの妹に生まれて、私、幸せだったよ。
思念のようにどこからか伝わってくる、セルドアの声と気配。
でも、そう口にした瞬間、見えないどこかでセルドアが苦笑したのがわかった。
【私の方は大丈夫です。心配なさらないでください。……ただ】
「ただ?」
【思ったより、元の世界の引き寄せの力が強く、貴女をあまり長時間そちらにいさせられそうにありません。もって、後15分ほどでしょうか。他に会いたい方がいるなら、早めにご移動ください】
元の世界で会いたいと思ってたのは、兄ちゃんだけじゃない。
父さんや、母さんにも、すごくすごく会いたかった。
今行かなければ、もう二度と二人の姿を見ることはできないかもしれない。
でも……。
「……セルドア。声だけでも、兄ちゃんに届けることは難しいかな」
私の言葉にセルドアは、少し黙り込んだ。
【……ほんの少しだけなら、貴女をそちらの世界で実体化させられそうです。一言、二言なら言葉も伝えられるでしょう】
「っなら」
【でも……その引き換えに、先ほど言った15分の滞在可能時間はなくなります】
「っ」
ということは……兄ちゃんに声を届ければ、もう母さんと父さんの姿は見られないということだ。
【今、私が魔術で阻害してますが、元の世界は貴女の魂の不在に気づいて強力な力で引き寄せてます。この世界とつながる通路も、貴女が一度元の世界に戻ればすみやかに埋められてしまうでしょう。貴女は、この機会を逃せばもう二度この世界の人間とは関わることができない。--それでも、貴女は実体化を望みますか】
父さん。
母さん。
会いたい。
私の死後立ち直って、元気で幸せでやっているのか確かめたい。
……でも。
「……実体化させて。セルドア」
ごめんね。父さん。母さん。
家族は皆同じくらい大切だけど……大切だからこそ、私、兄ちゃんを泣かせたままになんか、できないや。
【……わかりました】
次の瞬間、体がぶわりと温かくなった。
暖かな空気が体を包み、すっと鼻や口から体内に入っていく、生きてれば当たり前の感覚が妙に新鮮に思えた。
ぼんやりと宙を見ていた兄ちゃんの目が、信じられないものを見るかのように見開かれる。
「……梨、花」
私が死んだのは、兄ちゃんのせいじゃないよ、とか。
娘さんの意志は尊重してあげて、とか。
私の分まで、父さんと母さんに親孝行してあげて、とか。
言いたいことは山ほどあったけど、一言しか告げられないならば、言うことは一つしかない。
ぐれて遊び回って、家のことを全然しない兄ちゃんに腹が立ったりもしたけど。
無理やり連れ回されたり構われるのが、ありがた迷惑だとも思ってたけど。
それでもね。それでもね。兄ちゃん。
私はね。
「--大好きだよ。兄ちゃん」
微笑みながら、驚愕な表情のまま固まる兄ちゃんの体を抱きしめた。
「私の兄ちゃんが、兄ちゃんでよかった」
兄ちゃんの妹に生まれて、私、幸せだったよ。
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