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セルドアイベント?16

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 昔は髪の毛まっ金々に染めてたし、耳だってピアスジャラジャラで、身なりに全然気をつかない父さんとイメージがかけ離れてたけど……こんなに兄ちゃん、父さんと似てたんだ。
 目の横の笑いじわとか、本当そっくり。……年月ってすげえ。てか兄ちゃん、年くってもイケオジ目指して頭染めまくってると思ったのに、なんかめちゃくちゃ真面目な格好してるじゃん。農家に就業規則なんかないから、わりとチャラい人だっていんのに。
 ……ということは、さっきの娘は兄ちゃんの娘ちゃんか。私が死んだ時、奥さんのお腹にいた子かな?
 私そっくりじゃん。叔母と姪だから似ててもおかしくないけど、名前といいなんか奥さんに悪いな。絶対兄ちゃん私からとったでしょう。

「……梨花……?」

 不意に兄ちゃんの視線がこちらを向いて、びくりと体が跳ねた。

 なんて、話そう。
 なんて、声かけよう。
 兄ちゃん、私だって分かるかな。

 けれど兄ちゃんの視線は私にまっすぐ向けられることなく、そのまま苦笑とともに背けられた。

「……いるわけねぇよな。もう十何年も前に死んだのに」

 ……あ……兄ちゃんに、私、見えてないんだ。

「もしお前が生きてたら……今ごろ俺になんて言ったかなあ」

 再び私の写真に目を落とした兄ちゃんは、そのままくしゃりと顔を歪めて……。

 ……な、泣きだしおった! ちょ!

「に、兄ちゃん、泣かないでよ! もう、いい大人でしょう! あんな大きな娘さんだっているのに!」

「ごめん……ごめんなあ。梨花。俺がしたことは、間違っていたのかなあ」

「ほ、ほら! 鼻水出てるよ! ちんしよ? ね? 鼻水だらだら格好悪いよ!」

「ようやく長男の役割果たしてお前をこの家から解放してやれるって思ってたけど……お前にとっては、迷惑でしかなかったのかもな」

「泣かないで、兄ちゃん! お願いだから!」

 必死に叫んでも、優しくなだめても、けして兄ちゃんには届かない。
 触れようと伸ばした手は、そのまま兄ちゃんの体を突き抜けてしまって。今の私は幽霊みたいなものでしかないと、改めて思い知らされる。

「もし俺が……あの時家を継ぐなんて言わなかったら……お前が思い悩むあまりに、突っ込んできたトラックに気づかず轢かれちまうなんてこと、なかったのかなあ」

 兄ちゃんを、こんな風に一人で泣かせたくなんかないのに。

【……リッカ。リッカ、聞こえますか】

 その時、不意に脳裏にセルドアの声が聞こえてきた。
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