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連載

ある女の狂気

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 ーーああ。ああ。

 忌々しい。忌々しい。忌々しい。

「ルシトリアに、聖女が現れたらしいな」

「ああ、聞いている。何でも、聖女ユーリア様が治せない、【災厄の魔女】の呪いも治せるとか」  

「子どもをルシトリアに連れて行って、呪いを解いてもらったセーヌヴェットの国民の中には、聖女ユーリア様が本物の聖女か怪しむ者も出て来ていると聞いたぞ」

「死したアシュリナ王女こそ、本物の聖女だったのではないかという噂も出ているらしいぞ。……だとしたら、ユーリア様の正体は……」

「ーー随分愉しそうな話をしているのね」

 にっこりと微笑みながら、話しかけると、噂話をしていた兵士達は固まった。

 ーー話しかけられるまで、気配に気づかないなんて、何て愚鈍な奴らなのだろう。

「ユ、ユーリア様……」
 
「人を中傷する噂話をするなら、もっと場所を選びなさい。……自分の無能を、晒したくなければ」

 ああ、次の「器」が決まった。
 こんな愚鈍で無能な兵士達、王宮で仕えるのに、相応しくない。
 生きている価値なんか、ないわ。
 苦しみ抜いて、死ぬべきよ。ーーそれくらいしか、役に立たないのだから。

 二人の顔を脳裏にに刻み込みながら、王宮の自室に入った。

 カーテンで隠された自室の棚には、日に日に成長して膨らんでいる【厄】を詰めた瓶が、ずらりと並んでいる。
 飽和しきった瓶の口を二つ開くと、先程の兵士達の顔を想い浮かべながら、黒い霧状の【厄】に念を送る。



 お行き。お行き。
 私の可愛い子どもたち。
 お前を生み出した私の為に、役に立たないあいつらを、苦しみ抜いて殺しておくれ。

 それがお前達が生まれた意味なのだから。



 【厄】は承諾するように、私の周りをぐるりと回った後、そのまま先程の兵士達のもとへと流れていった。
 
 無能で不要な人物が、また二人私の前から消え去ることに、少しだけ溜飲を下げることができたが、それでも胸の内の怒りは収まらない。
 空になった瓶を二つとも床に叩きつけ、大きく息を吐き出した。

「……忌々しい【聖女】め。どこまで私の幸福の邪魔をすれば、気が済むの」
 
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