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ある女の狂気2

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 汚したのに。
 殺したのに。
 永遠に私の前に姿を見せないように、謀って、貶め、燃やし尽くしたのに。

 何故、また現れたの。
 何故、また邪魔をするの。

 お前は私が幸福になる為に、この世には存在してはいけない女なのに……!

「本当。どこまでも腹立たしい女ね。ーーアシュリナ」

 噂の聖女が、アシュリナの生まれ変わりかどうかは、分からない。
 でもきっと聖女と言うだけで、あの心底憎らしい女と、性根はどこまでも似通っているはずだ。

 お奇麗で。
 全てが浅く、薄っぺらく。
 どこまでも愚かな癖に、生まれ持った力だけで、周囲に讃えられ、愛されるような、そんな女に違いない。

 ーーああ、何て悍ましい。吐き気がする。

 奪わせてなるものか。
 この数十年で、築き上げた【聖女】の地位を、そんな女に、壊させはしない。

「貶めてやる。苦しめてやる。汚してやる。ーーそして死ぬ方がましな苦しみの末に、絶対に殺してやる……!」
 
 髪の毛を掻きむしりながら、一人呪詛を呟いていると、不意に扉が開いた。

「ーー随分、荒れているな。ユーリア」

 出会ってから、もう二十年近く経つ。
 それでも昔と変わらない……否、昔以上に美しい、心から愛し敬愛する御方の姿に、ささくれ立った心が自然と凪いだ。

「……ルイス陛下」

「廊下で、兵士が二人倒れていた。……ユーリア。お前の仕業か?」

「ーー勝手なことをして、申し訳ありません。あまりにも生きる価値の無い、愚かな兵士だったもので」

 私の言葉に、陛下は形の良い唇を緩め、微笑んだ。

「構わない。ユーリアが、不要だと判断したのだ。それだけ、無能で使えない輩だったということだろう。そのような兵士が私に仕えていたことが、そもそも間違いだったのだ」

 ーーああ。

 陛下!
 陛下!
 陛下!
 陛下!
 陛下!
 陛下!

 何て寛大で、何て心優しき御方なのだろう。
 私のことを信じ、私の判断を正しいと肯定して下さる!

 ルイス陛下は昔から、変わらない。
 出会った時から、ずっとそうだった。

 力を持って生まれながらも、それを真に正しく使いこなすことが出来ない、愚かで無知な少女だった私に、あるべき道を教え諭して下さったのは、他ならぬ陛下だった。

 美しくて優しい、神様みたいな御方。

 ーー否、私に【災厄の魔女】という立場を押しつけ、忌々しい【聖女】を生み出す神と同列にしたら、陛下に失礼だ。

 私にとっての神様は、ルイス陛下、ただお一人なのだから。
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