上 下
19 / 224
連載

ある女の狂気3

しおりを挟む
「……ルシトリアに、新しい聖女が現れたと聞きました。ですが、必ず私が消してみせます。ルイス陛下の手を、けして患わせません」

 この御方の為に、不要な邪魔者を消すことは、誉れ。
 それが気に食わない、お奇麗顔した聖女なら、胸の苛立ちも解消されて、なおのこといい。

 苦しめ、貶め、殺し尽くして。

 その成果を必ず陛下に捧げます。
 だって私は、貴方様だけの為に存在する、【聖女】なのですから。

「……そのことだけど、な。ユーリア」

 ルイス陛下は口元に手をあてながら、悪戯っぽく微笑んだ。

 ……こんな顔、他の誰かにされたら不快以外の何物でもないのだけど、陛下がすると、何とまあ愛しく美しいことだろう。

 ほおっと陛下に見とれていた私だったが、次に陛下の麗しい唇から発せられた言葉に固まった。

「今度の聖女は、生かしておこうと思う。……その方が、有用だ」

 さあっと血の気が引き、唇が、震えた。

「……へい、か……それは……」 

 ーーそれは、長年貴方様に仕え続けた私よりも、【聖女】を重用すると、そういった意味ですか。

 がらがらと、足元が崩れ去っていくような気分だった。

【聖女】の名を騙る【災厄の魔女】と、正真正銘の【聖女】ーー私の【厄】をうち消せる時点で、どちらが本当の意味で優れているかなんて、明白だった。

 それに噂の聖女は、まだ十代だと聞く。……私より、二十近くも若いのだ。

 二十年近くの歳月は、陛下の美しさを少しも損なうことはなかったが、私に対しては違った。
 美しさを維持する為に必死に努力をし続けて来たが、私の容貌はあの頃に比べてすっかり衰えている。
 肌はたるみ、顔には無数の小さなしみや皺が現れ。
 自慢だった華やかで美しい髪の毛も、脂っ気が無くなり、色がくすんだ。

 若いというのは、それだけで財産だ。凡庸な顔立ちの取るに足らない女でも、若いというだけで、時に私よりも「美しい」と称されることすらある。

 ーーああ、どうしよう。
 忌々しい【聖女】に、ルイス陛下を奪われてしまう。

 私には、ルイス陛下が全てなのに。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

一生俺に甘えとけ

BL / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:101

転生先はもふもふのいる世界です

BL / 連載中 24h.ポイント:1,052pt お気に入り:890

淫魔と俺の性事情

BL / 連載中 24h.ポイント:99pt お気に入り:811

不実なあなたに感謝を

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:27,420pt お気に入り:3,883

淫らな悪魔の契約者開発♡

BL / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:443

副団長にはどうやら秘密が沢山あるようです

BL / 連載中 24h.ポイント:1,435pt お気に入り:23

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。