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ある女の狂気4

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「……私はもう、ご不要ですか。陛下」

 できるだけ平静に。ルイス陛下の気分を害すことのないように口にした言葉は、どうしようもないくらい震えていた。
 
 ……感情を抑えられない、未熟な聖女で申し訳ありません。ルイス陛下。
 貴方様のお役に立つこと。それこそが、私がこの世に生まれてきた意味ですのに……。

 一人落ち込む私に、陛下は優しく笑い掛けてくれた。

「……何を言っているんだ。可愛いユーリア。私は、お前の為に、【聖女】が必要だと思っているのに」

 ……私の、為?

「【聖女】は、【厄】を封じることが出来る。ーーつまりは、自身を侵す【厄】だって収束可能だということだ。即ち、【聖女】は、成長し膨らみきった【厄】を収めることのできる、再生可能な【器】になり得るのだよ。どれ程強大な【厄】に苦しめさせた所で、『自ら死を選べない状況にさえ追いやれば』、【聖女】が死ぬことはない。彼厄が飽和する度に、他の【器】を補充する必要がなくなるんだ。……この誰より完璧な【器】があれば、ユーリアお前は、より完全なる聖女になれるというわけだ」

「…………あ」

「そもそも、アシュリナを殺したこと自体が、間違いだったのだ。【聖女】の役割を持つものを殺しても、そう期間を置かないうちに新しい【聖女】が生まれるというのなら、死ねないような処方を施した後に、飼い殺しすることが、最善であったのに」

 ルイス陛下の、どこまでも私の身を思いやる優しさに、心が震えた。
 
 陛下が、こんなにも。こんなにも、私のことを考えて下さっているんだなんて……!

「申し訳ございません。ルイス陛下! 私の考えが、浅はかでした」 

「ユーリア。お前が謝ることはない。最終的に、束の間の感情に負けて、目障りなアシュリナを排除する道を選んだのは私だ。私のこそが、浅はかだったのだ」

「いいえ、いいえ、陛下は何も間違ってはおりません! ーーだってアシュリナは、本当に生きてるだけで腹立たしい、目障りで不要な女でしたもの! あんな女が、半分でもルイス陛下と血が繋がっていること自体、あってはならないことなのです。まずはあれの排除を優先した、ルイス陛下のご判断は間違っておりませんわ」
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