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聖女の日々39

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 かつてアシュリナだった「私」にとって、誰かを救うということは、当たり前のことで。
 当然果たさなければならない使命だと思っていたからこそ、与えられる感謝の言葉を軽く扱っていた自分に気づかされる。

 私の頭に残るのは、いつも救えなかった、救わなかった人の言葉ばかりで。

 ーー自分が救って来た人々の想いを、私はずっと蔑ろにして来たんだ。

「それでも……どうしても救わなかった民の怨嗟の声を気にしてしまうというのなら、その時は今回のように私が間に立ちましょう」

 マナエさんは私の手を一層強く握り締めながら、優しく微笑んだ。

「私は、患者から責め立てられることも、恨まれることも慣れてます。私が間に立てば、少なくとも聖女様自身が直接悪意に晒される機会は減るはずです。だから聖女様。どうかあまり気に病むことなく、今まで通りの治癒を続けて下さい」

「……どうして……」 

「はい?」

「……どうして、貴女は私にそこまでしてくださるのですか」

 私の為に、本来なら向けられる必要が無い悪意を引き受けるマナエさんの気持ちが分からない。
 何故、彼女は、私の為にそこまでしてくれるのか。

 私の言葉にマナエさんは一瞬キョトンとした表情を浮かべた後、すぐに目を細めた。

「……理由は二つあります。一つは、先程お伝えしたように、ライオネル王の命があったからです。私は王宮医ですからね。王のご命令は絶対です。……最も、王がそのような命を私に下したのは、シャルル王子が王に直談判した結果ということですけどね」

「……シャルル王子が……」

『……ディアナ様。どうか、貴女の憂いをはらう手助けをさせて下さい。私が持てる全てを使って、貴女を苦しみから救ってみせます』

 先日、シャルル王子に言われた言葉が脳裏に過ぎる。

『わかりました。ーー待っていて下さい。必ず父上を説得して、貴女の憂いをはらってみせます』

 ーー彼は本当に、ライオネル王を説得してくれたのか。


「……あと、もう一つは、医療に携わる者として、純粋に貴女の決断に感謝したいからです」 

「ーーえ?」

「もし、貴女が『本来の聖女』のように、誰彼構わずにあらゆる傷病を癒し続けていたら……聖女様が存命の間、この国の医療の発展は絶望的になっていましたからね」


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