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聖女の日々38

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「ーー人は、弱い。だからこそ、力あるものに縋りたがります。力があるなら、弱き人々を救って当然だと、そんな傲慢な期待を押し付けようとするのです。……でもね。力があるから、それを他人の為に行使しないといけない義務なんて、本当はどこにもないのですよ」

 マナエさんは、そう言って私の手を握った。
 びくりと体が跳ねる。

「それでも……確かに貴女は人を救っている。私達医者ではけして救うことができない、人智を超えた呪いに侵されている人を、見返りを求めることなく救い続けている。それは、ひどく尊いことだと私は思います」

 マナエさんの手も、口から出る言葉も、あまりにも私に優しく温かくて、思わず泣いてしまいそうになった。

「聖女様。どうか、どうか苦しまないで下さい。貴女は何も間違ったことはしていません。貴女が見捨てたと思っている患者は、そもそも貴女がいなければ同じ結果を辿っていたでしょう。貴女には何も責任はありません。どうか、そんな患者よりも、貴女が救った人達のことを考えて下さい」

「……私が、救った人……」

「そうです。ミーシャ王女も、シャルル王子も、貴女に救われました。他にも、貴女に救われ感謝している人らたくさんいます。怨嗟の声に囚われるのではなく、貴女は彼らの感謝の言葉こそ受け止めるべきです」

「………あ………」


『……君が治してくれたんだね。言葉は返せなかったけど、ずっと君の声が遠くから聞こえていたよ。ありがとう』

 頭の中で、初めて会った時のシャルル王子の言葉が過ぎる。

『……私を治してくれて、ありがとうございます。……それに、嘘だなんて言って、ごめんなさい。貴女は、本物の聖女様なのですね』

 生きられるのだと、むせび泣いたミーシャ王女の言葉も。

『……ああ、苦しみがすっかり消えました。本当にありがとうございました。聖女様。ルシトリアの民でない私にまで、こんな治療をして頂いて……』

『本当に……本当に、ありがとうございました……あの地獄のような苦しみから、解放されるなんて……』

『ありがとうございますっ! ありがとうございますっ! また、元気なこの人に会えるだなんて……!』

『せいじょさま。……ママを、すくってくれて、ありがとう』

 シャルル王子や、ミーシャ王女だけじゃない。

 たくさんの人達が、私に心からの感謝を向けてくれた。



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