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聖女の日々50
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どこまでも、清らかなミーシャ王女の姿に胸が苦しくなる。
……きっとこの子こそ、聖女にふさわしい。それなのに、どうして私なんが聖女に選ばれたのだろう。
「……どうして、貴女は変わらずにいられるのですか」
先ほど飲み込んだ言葉を、気がつけば口にしていた。
「あのような病に侵されたのに……死すら望むほどの苦しみを受けてなお、貴女はどうしてそんな風に清らかに笑えるのですか」
ミーシャ王女は私の言葉に、少し目を見開いた後、すぐにふわりと微笑んだ。
「それでも。……私は聖女様に救って頂けましたから」
「…………」
「それに……実を言えば、変わっていないわけではないのです。変わっていないふりをしているだけで」
「……変わっていない、ふり……」
「はい。そうです。……だって私は【聖女の偶像】ですもの」
「っ」
あっさりと、自分自身を偶像と言いきったミーシャ王女に、思わず息を飲んだ。
「ーー私の役目は、聖女様の不在の間の、民の不安を沈める偶像であることです。清く、正しく、無邪気で愛らしく……どんな民をも受け入れて、優しい笑みを向けることこそが、お父様が私に課した義務です。それを果たす為なら、私はいくらでも本心を偽ります」
「……ご存じだったのですか」
「はい。……お父様は、自身の思惑を知れば私の純真さに陰りが出ると判断し、はっきりと私にそれを教えてくれませんでしたが、代わりにお母様が教えてくれました。『たとえ悪意に晒されて、その心が白いままでなくなったとしても、私が変わらぬ笑みを浮かべられるように』と」
そう言って、ミーシャ王女は握っていた私の手を静かに離した。
「きっと、お母様は知っていたのでしょう。私が、どんな状況でも変わらないような、確固たる純真さを持っているわけではないことを。……悪意に晒されれば、同じだけ悪意を返したくなる、どこにでもいる平凡な娘だと」
……きっとこの子こそ、聖女にふさわしい。それなのに、どうして私なんが聖女に選ばれたのだろう。
「……どうして、貴女は変わらずにいられるのですか」
先ほど飲み込んだ言葉を、気がつけば口にしていた。
「あのような病に侵されたのに……死すら望むほどの苦しみを受けてなお、貴女はどうしてそんな風に清らかに笑えるのですか」
ミーシャ王女は私の言葉に、少し目を見開いた後、すぐにふわりと微笑んだ。
「それでも。……私は聖女様に救って頂けましたから」
「…………」
「それに……実を言えば、変わっていないわけではないのです。変わっていないふりをしているだけで」
「……変わっていない、ふり……」
「はい。そうです。……だって私は【聖女の偶像】ですもの」
「っ」
あっさりと、自分自身を偶像と言いきったミーシャ王女に、思わず息を飲んだ。
「ーー私の役目は、聖女様の不在の間の、民の不安を沈める偶像であることです。清く、正しく、無邪気で愛らしく……どんな民をも受け入れて、優しい笑みを向けることこそが、お父様が私に課した義務です。それを果たす為なら、私はいくらでも本心を偽ります」
「……ご存じだったのですか」
「はい。……お父様は、自身の思惑を知れば私の純真さに陰りが出ると判断し、はっきりと私にそれを教えてくれませんでしたが、代わりにお母様が教えてくれました。『たとえ悪意に晒されて、その心が白いままでなくなったとしても、私が変わらぬ笑みを浮かべられるように』と」
そう言って、ミーシャ王女は握っていた私の手を静かに離した。
「きっと、お母様は知っていたのでしょう。私が、どんな状況でも変わらないような、確固たる純真さを持っているわけではないことを。……悪意に晒されれば、同じだけ悪意を返したくなる、どこにでもいる平凡な娘だと」
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