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連載2
聖女の日々52
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私の問いかけに、ミーシャ王女は微笑んだ。
どこまでも清らかで愛らしい「聖女」の笑みで。
「--はい。とても憎いです。叶うならば、この手で私と同じ苦しみを味わせてやりたいくらいに」
「っ」
可憐な唇から辛辣な言葉を吐きながらも、ミーシャ王女の笑みは僅かにも崩れることはなかった。
先ほどの言葉は、聞き間違いだったのではないかと疑ってしまう程に。
「だけど、私は笑えます。……もし今お話している方が、聖女様ではなく一般の民だとしたら。私は同じ笑みを浮かべながら、『憎んではおりません。憎しみからは何も生まれませんから』とでも言ってみせたでしょう」
自嘲するようにそう言ったミーシャ王女のダークブルの瞳には、僅かに彼女の素の感情が過ったが、それも瞬きをした瞬間すぐに消え去ってしまった。
乾いた唇を舐めて、ミーシャ王女の本音を見逃さないように、真っ直ぐにその瞳を見据える。
「……私のことは?」
「聖女様のことですか? 何故聖女様を憎むことがあるのでしょう。命を助けて頂いた大恩人ですのに」
「でも……貴女が、そんな風に演じないといけないのは、聖女である私がいるからです」
私の言葉に、ミーシャ王女は鈴を転がしたような声で笑った。
「そんな因果関係まで憎んでいたら、私はお父様も、自らの生まれそのものも憎むことになります。私が心底憎らしいのは、あくまで直接私を害した【災厄の魔女】だけ。私は平凡な娘だから、抱く憎しみの量もたかが知れてるのです」
「……でも」
「それに、です。聖女様。勘違いなさらないでください。私は、常に聖女の模倣品としての仮面を被るように努めておりますが……実はそんな自分が、結構好きなんですよ」
あまりに予想外の言葉に目を丸くする私に、ミーシャ王女はいたずらっぽく目を細めた。
どこまでも清らかで愛らしい「聖女」の笑みで。
「--はい。とても憎いです。叶うならば、この手で私と同じ苦しみを味わせてやりたいくらいに」
「っ」
可憐な唇から辛辣な言葉を吐きながらも、ミーシャ王女の笑みは僅かにも崩れることはなかった。
先ほどの言葉は、聞き間違いだったのではないかと疑ってしまう程に。
「だけど、私は笑えます。……もし今お話している方が、聖女様ではなく一般の民だとしたら。私は同じ笑みを浮かべながら、『憎んではおりません。憎しみからは何も生まれませんから』とでも言ってみせたでしょう」
自嘲するようにそう言ったミーシャ王女のダークブルの瞳には、僅かに彼女の素の感情が過ったが、それも瞬きをした瞬間すぐに消え去ってしまった。
乾いた唇を舐めて、ミーシャ王女の本音を見逃さないように、真っ直ぐにその瞳を見据える。
「……私のことは?」
「聖女様のことですか? 何故聖女様を憎むことがあるのでしょう。命を助けて頂いた大恩人ですのに」
「でも……貴女が、そんな風に演じないといけないのは、聖女である私がいるからです」
私の言葉に、ミーシャ王女は鈴を転がしたような声で笑った。
「そんな因果関係まで憎んでいたら、私はお父様も、自らの生まれそのものも憎むことになります。私が心底憎らしいのは、あくまで直接私を害した【災厄の魔女】だけ。私は平凡な娘だから、抱く憎しみの量もたかが知れてるのです」
「……でも」
「それに、です。聖女様。勘違いなさらないでください。私は、常に聖女の模倣品としての仮面を被るように努めておりますが……実はそんな自分が、結構好きなんですよ」
あまりに予想外の言葉に目を丸くする私に、ミーシャ王女はいたずらっぽく目を細めた。
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