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連載2

決戦の時7

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 鍛えられたアルバートの腕よりも、さらに何回りりも太い腕だった。
 血管が浮いた張り詰めた筋肉に触れて、自然と体が跳ねた。

『……ありがとう、ございます』

 感謝の言葉を口にしてもなお、エイドリーは私を離してくれなかった。
 ルイス陛下に与することを断った私を、この太い腕で絞め殺すべきか迷っているのだろうか。
 エイドリーがほんの少し力を加えるだけで、私の首は簡単に折れてしまうだろう。
 震える私の耳元で、エイドリーは囁いた。

『……私が怖いですか?』

いつかどこかで聞いたような言葉だった。

『……はい、怖いです』

 彼の傷だらけの顔も、屈強な体も、それ自体が怖いわけではない。

『貴方はルイス陛下の命令があれば、ためらいなく私を殺すでしょうから』

 彼がルイス陛下の忠実な護衛騎士であるという事実が、ただひたすらに怖い。

 私の言葉にエイドリーは小さく息を飲むと、ようやく私を解放してくれた。

『……当たり前です』

 エイドリーは淡々とした口調でそう言って、私から背を向けた。

『私はルイス陛下の護衛騎士ですから』


 次にエイドリーと接触したのは、私を【災厄と魔女】として弾劾しようとする暴徒と、アルバートが戦っている時だ。

『アシュリナ様! ここは私に任せてお逃げくださ……』

 暴徒の制圧に気を取られ、近づいてくる気配に気づかなったアルバートを、エイドリーは背中から一太刀で斬りつけた。

『一般人の暴徒に圧され、俺の気配に気づかないとは……弱いにもほどがある』

 吐き捨てるようにエイドリーはそう言って、私の腕を掴んだ。

『護衛騎士の恥曝しめ』

 瀕死のアルバートを罵るエイドリーの顔は、笑っていた。
 かねてからの大願が成就したかのようなその顔に、それだけ私はエイドリーから憎まれていたのだと確信した。

『改めてうかがいます。……ルイス陛下に協力する気はありませんか?』

 牢に閉じ込めた私に、エイドリーは再び問うた。

『貴方が民衆の前で自分が【災厄の魔女】であることを認め、その力をルイス陛下の為に使うことを誓うのなら、私からルイス陛下に掛け合います。幽閉生活にはなるでしょうが、死ぬよりはましなはずです。ルイス陛下がお許しくださるのなら、私が貴方の監視役を務めましょう。できる範囲にはなりますが、貴方が過ごしやすい環境を整え、望むものを手配します。だから、どうか……』

 ああーー彼はどこまでも、私のことを貶めたいのだと思った。
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