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連載2

決戦の時9

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 兄様の声で我に返った。

「大丈夫か。ディアナ。今、お前……」

「大丈夫。一瞬だけ、アシュリナの記憶に飲まれていただけ」

 自分がアシュリナと同化したような感覚は、兄様の顔を見た瞬間一瞬で霧散する。
 私はディアナ。魂を共有していたとしてもアシュリナではないし、アシュリナにはなれない。それがわかっているからこそ、私はもうアシュリナの過去の記憶には怯えない。
 不幸な死を迎えたアシュリナ自身が、誰よりも私に成り代わるなんて望んでいないと、私は知っているから。

「アシュリナの記憶が確かなら、エイドリー・ノットンは、今はもう四十を超えているはず……もしかしたら昔より剣の腕が衰えていたりは……?」

 私の希望的観測に、父様は黙って首を横に振った。

「残念ながら私の見立てが確かなら、あれの全盛期は今だ。アシュリナ様の処刑以降、エイドリーの剣には一切の迷いがなくなった。ルイス王の命令さえあれば、鬼神ですら迷わず切るだろうと、マイクは言っていたよ。【セーヌヴェットの狂戦士】の渾名は伊達じゃない」

「父様は、エイドリーとは親しかったの?」

「あれに親しい人間なんかいないさ。ルイス王の為に、全てを捧げた男だ。あれが感情を揺らす相手はルイス王を除けばただ一人しかいなかったが……奴が自身の手でこの世から消し去った。あれは最早、ルイス王の為だけに生きる殺戮機械だ」

 愛する相手を殺してまでルイス王に忠実であろうとした逸話からしても、エイドリーはどうやらアシュリナの記憶通りの人物らしい。
 アシュリナの記憶やその後の行動を聞く限り、ルイス王は、彼がそこまで忠誠を捧げるのに見合う人物とはとても思えないのだけど、生まれた時からルイス王の為に生きてきた彼にとっては関係ないのだろう。

「それならば、エイドリーは間違いなく私を殺そうとしてくるね」

 アシュリナの記憶の中の彼の視線を思い出すだけで、体が震える。
 それでも、決意は揺るがない。

「守ってみせるさ。相手がどんな強敵だとしても」

 迷いなくそう言ってくれる兄様が、私の隣にいてくれるから。

「ーーそうか。虎子を得る為、虎穴に入るか」

 ライオネル陛下は、少しだけ目を伏せると、強い眼差しを兄様に向けた。

「ならば、ティムシーよ。お前はセーヌヴェットに出向く前に、成さねばならぬことがあるぞ」

 兄様が成さねばならないこと?

 突然の名指しに困惑しているのは、兄様も同じだった。

「セーヌヴェットに出向く前に、【黎明】に主と認められよ。さすれば聖女が危機に瀕した際、【黎明】が必ずお前を聖女のもとへ導いてくれる故」



「……いやいやいや。キートラントの剣にまつわる伝説とか、眉唾だろう?」

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