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連載2

決戦の時10

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 ライオネル陛下曰く。父様の生家であるキートラントの剣には、特別な能力が備わっているようで。
 兄様が持つ【黎明】は、主と認めた相手を守るべき相手の所まで導く特殊能力があるらしい。
 アシュリナのピンチの時は、いつだってアルバートが傍にいてくれたから、私としては信じたい話なのだけど。
 今まで【黎明】に特別な力を感じたことのない兄様からすれば、とても信じがたい話みたいだ。

「いやいや、キートラントの剣に関する伝説は本当だぞ。お前が【黎明】に主と認められるまで、言うつもりはなかったが」

 父様はそう言って、自らの剣である【勇猛】を掲げた。

「たとえばこの【勇猛】は、主に危険が迫ると主にしか聞こえない音を発して、警告してくれる。私がその力に、何度助けられたことか」

 そこで父様は一度言葉を切って遠い目をした。

「……まあアニリドは激戦区過ぎて、四六時中【勇猛】が鳴りっぱなしだったから、私自身が気づかない危険以外は知らせてくれるなと怒った結果、めっきり作用しなくなってしまったが」

「父さん……それって父さんが【勇猛】の主として認められなくなったということじゃ……」

「断じて違うぞ! 馬車が危うく脱輪しそうだった時なんかは、ちゃんと鳴って知らせてくれたしな!」

 父様は、笑い話のようにそう語ったが、暗にそれだけアニリドが危険地域だったことが伝わってきてぞっとした。
 今、こうして父様が生きていることも、私が生まれたことも、改めて考えると奇跡だ。

「ともかく……お前が【黎明】の力を感じないのは、お前が未熟で【黎明】に主として認められていないからだ」

「それじゃあ……アルバートは? アルバートは【黎明】に認められていたの?」

 私の問いかけに、父様はどこか切なげな表情で目を伏せた。

「……少なくとも、私がアニリドに発つ前に、アルバートから【黎明】に認められたという話は聞いたことはなかった」

「……そう」 

「だが、アルバートは最期の瞬間までアシュリナ様の為に戦った。【黎明】に主の戦闘能力を伸ばす能力はない。力が及ばず、アシュリナ様を守ることは叶わなかったが……それでも私は、最後にはあれは、【黎明】から主として認められたと信じている」

 ーーそうだ。きっと、そう。

 だってアシュリナの記憶の中のアルバートは、暴徒に襲われるアシュリナのもとに、魔法のように駆けつけてくれたから。

 あの時アルバートは、【黎明】に主として認められていたのだと、私も信じたい。
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