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連載2
再会11
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エイドリーの問いに、その場にピリッとした緊張感が走った。
「……この馬車は、私特製の護符によって護られています。車内はもちろん、この御者台にいる人物も、馬車外からのあらゆる攻撃を受けることはありません」
大きく息を吸って、強い眼差しでエイドリーを見据えた。
けして、この敵の騎士に侮る隙なぞ見せないよう。
「そう。たとえあなたが今、剣を抜いて襲いかかったところで、私と兄様には傷一つつけることはできないでしょう」
エイドリーは少し驚いたように目を見開いた後、すぐに口端を吊り上げた。
「……なるほど。そこにいる騎士は、あなたの兄君なのですか」
「だとしたら、どうしました? 貴方に関係ありますか?」
「いえ……道理で、さして実力のなさそうな若造が、ルシトリアの聖女様の護衛なぞやってらっしゃると思いまして。血縁ならば納得だ」
兄様の顔が、かっと怒りで赤く染まる。
私は重ねた手に力を入れることで、その怒りをできるだけ抑え込もうとした。
「客人の護衛騎士を侮辱するのが、セーヌヴェットの騎士の作法なのですか?」
「私もただの騎士なら、何も言いません。……しかし、その男はセーヌヴェットの至宝であった【黎明】を手にしている。セーヌヴェットの剣士として、そのような剣が力なきものの手に渡ることは、非常に心苦しい」
「セーヌヴェットの剣ではない! これは父さんの剣だ! キートラント家に伝わる剣を、国有のもののように語るな!」
とうとう口を開いた兄様に、エイドリーは冷たい眼差しを向けた。
「……ああ、そのようだな。前の持ち主はアルバート・キートラント。剣聖と謳われた兄とは比べ物にならないほど、未熟で弱い男だった」
「なんだと!」
「弱い癖に聖女の護衛を気取る、その愚かさがお前によく似ている」
怒りのあまり御者台が飛び出しそうになっている兄様を制して、エイドリーを睨みつける。
「私の兄と、叔父を愚弄することは許しません。エイドリー・ノットン」
「叔父?」
「私の父は、ダニエル・キートラント。幼くして父であるアルバートを失った兄と共に、ルシトリアで育てられました。キートラントの末裔である兄は、【黎明】の正当な後継者です。あなたにとやかく言われる筋合いはありません」
挑発してこちらの情報を引き出そうとしているのかもしれないが、ルシトリアで父が私の護衛をしている姿は多くの人から見られていたので、恐らくその関係はすでにセーヌヴェット側に知られていることだろう。
ならば、今は立場を隠すことよりも、兄様を守ることの方が大事だ。
視線を逸らすことなくエイドリーを睨めつける私に、エイドリーは先ほど以上に深く口端を吊り上げた。
「なるほど。剣聖ダニエルの娘御か。道理で平民に似つかわぬ気品がある」
「…………」
「貴族の娘というよりーーまるでどこぞの王女であるかのようだ」
「……この馬車は、私特製の護符によって護られています。車内はもちろん、この御者台にいる人物も、馬車外からのあらゆる攻撃を受けることはありません」
大きく息を吸って、強い眼差しでエイドリーを見据えた。
けして、この敵の騎士に侮る隙なぞ見せないよう。
「そう。たとえあなたが今、剣を抜いて襲いかかったところで、私と兄様には傷一つつけることはできないでしょう」
エイドリーは少し驚いたように目を見開いた後、すぐに口端を吊り上げた。
「……なるほど。そこにいる騎士は、あなたの兄君なのですか」
「だとしたら、どうしました? 貴方に関係ありますか?」
「いえ……道理で、さして実力のなさそうな若造が、ルシトリアの聖女様の護衛なぞやってらっしゃると思いまして。血縁ならば納得だ」
兄様の顔が、かっと怒りで赤く染まる。
私は重ねた手に力を入れることで、その怒りをできるだけ抑え込もうとした。
「客人の護衛騎士を侮辱するのが、セーヌヴェットの騎士の作法なのですか?」
「私もただの騎士なら、何も言いません。……しかし、その男はセーヌヴェットの至宝であった【黎明】を手にしている。セーヌヴェットの剣士として、そのような剣が力なきものの手に渡ることは、非常に心苦しい」
「セーヌヴェットの剣ではない! これは父さんの剣だ! キートラント家に伝わる剣を、国有のもののように語るな!」
とうとう口を開いた兄様に、エイドリーは冷たい眼差しを向けた。
「……ああ、そのようだな。前の持ち主はアルバート・キートラント。剣聖と謳われた兄とは比べ物にならないほど、未熟で弱い男だった」
「なんだと!」
「弱い癖に聖女の護衛を気取る、その愚かさがお前によく似ている」
怒りのあまり御者台が飛び出しそうになっている兄様を制して、エイドリーを睨みつける。
「私の兄と、叔父を愚弄することは許しません。エイドリー・ノットン」
「叔父?」
「私の父は、ダニエル・キートラント。幼くして父であるアルバートを失った兄と共に、ルシトリアで育てられました。キートラントの末裔である兄は、【黎明】の正当な後継者です。あなたにとやかく言われる筋合いはありません」
挑発してこちらの情報を引き出そうとしているのかもしれないが、ルシトリアで父が私の護衛をしている姿は多くの人から見られていたので、恐らくその関係はすでにセーヌヴェット側に知られていることだろう。
ならば、今は立場を隠すことよりも、兄様を守ることの方が大事だ。
視線を逸らすことなくエイドリーを睨めつける私に、エイドリーは先ほど以上に深く口端を吊り上げた。
「なるほど。剣聖ダニエルの娘御か。道理で平民に似つかわぬ気品がある」
「…………」
「貴族の娘というよりーーまるでどこぞの王女であるかのようだ」
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