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連載2

再会22

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 私の言葉に兄様は頷いて、シャルル王子を一瞥することもなく隠し通路へと足を進めた。

「ユーリアを片付けたら、迎えに来る。ーーだから、死ぬなよ。それまで」

 ひとり言のように兄様が呟いた声は、きちんとシャルル王子に届いたらしい。
 シャルル王子は微笑みながら、頷いた。

「はい……お待ちしてます」

 入り口を閉じ、兄様と一緒に暗い地下の隠し通路を進む。松明代わりに、光を発する護符を作成したけど、明るさの効果が弱くて足もとしか見えない。
 ルシトリアの隠し通路と違い、何年も使われていないのか蜘蛛の巣が貼っていて、ひどくほこりっぽい


「……うう、変な虫が足もとにうごめいている」

「森住まいで、虫慣れしていてよかったな。シャルル王子が同行していたら、悲鳴をあげていたかもしれないぞ」

 ルシトリアの隠し通路には、虫や生き物の気配はなかった。恐らくは結界が、そういった類のものも全部拒絶していたからだろう。
 けれどこの隠し通路には、そういった類の魔術の気配を一切感じない。入り口こそ巧妙に隠されていたけど、通路そのものはとても原始的だ。

「なんでセーヌヴェットは、母様みたいな優秀な魔術師がいるのに、こんなお粗末な隠し通路しか作らなかったんだろう」

「隠し通路の存在を、王族以外に隠蔽する為だろう。通常の結界は時間経過に伴い力が切れて、定期的に張りなおす必要がある。結界を維持し続けるためには、結界を張れるだけの力ある魔術師の協力が必要だ。ルシトリアは王族自身がそれだけの結界を施す力があるし、あっちの隠し通路に施された結界は古代国家が生み出した半永久的に作用し続けるものだ。同じような結界を作りたくても、今の技術じゃ再現できないし、魔術に素養がないセーヌヴェットの王族はら自ら隠し通路に結界を施すこと自体できない。だからこそセーヌヴェットでは、結界に頼らない設計の隠し通路を作ったんじゃないか」

 魔術的な複雑さこそないけれど、隠し通路の入り口に施された仕掛けは、とても緻密に設計されている。
 入り方を知っていれば誰でも入れるが、知らなきゃどれだけ高等な魔術師であっても入ることができない。
 私がアシュリナの記憶を持ってなければ、こんな通路はけして見つけることはできなかっただろう。
 だからこそ、私や兄様はここを通ることを決めたのだ。

「通路の存在自体を王族しか知らないなら……一般兵士は、ここに私達がいると疑うことはできないよね」
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