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連載2

再会21

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「……ああ。そのつもりだ」

 兄様が低い声で、そう言い放った。
 けれど、その表情はどこか暗い。

「俺達の考えが正しければ、ルイス王やユーリアは、ディアナが今お前にかけられた【災厄の魔女の呪い】の解呪に専念していると思っているはずだ。この時間が一番動きやすい」 

 何度も話し合い、シミュレーションした展開だった。
 ルシトリアほど立派でも厳重でもないが、セーヌヴェットにも、王族しか知らない隠し通路は存在する。
 他の王族から疎まれていたアシュリナが把握していた通路は、恐らく隠し通路全体の中のごく一部に過ぎないのだろう。それでも人目がつかないようにユーリアに与えられた離宮に向かう為には、十分過ぎるくらいの情報は持っている。
 私と兄様は平民だ。同行の王族が病に侵された場合、その治療を何より優先するのが普通だ。まさか私と兄様が、最初からシャルル王子を見捨てるつもりで動いているだなんて、向こうは思ってもいないだろう。
 シャルル王子が【災厄の魔女の呪い】に侵され、私がその解呪に専念していると思われている隙に、動く。
 最初からその計画だったし、実際計画の通りに進んでいる。
 喜ぶべきことなのに、いざこうして計画が実現してシャルル王子が呪いに侵されている姿を目の当たりにすると、とてもそんな風に割り切れなかった。恐らく兄様も同じなのだろう。
 けれど感傷にひたって、この機会を逃すわけにはいけない。
 様々なタイルがモザイク状に並べられて装飾された、色鮮やかな壁に手を当てる。ほとんどのタイルはただの装飾品だけど、一部のタイルは、ごくわずかにスライドさせることができるようになっている。
 そのタイルをそれぞれ正しい方向に正しい順番スライドさせると、タイルの一部が前にせり上がって小さな引き出しが現れる。

「……よかった。この部屋の隠し通路の入り方は、アシュリナの記憶通りだった」

 引き出しの中には小さな鍵が入っていた。
 記憶をもとに、床に巧妙に隠されている鍵穴を見つけ、鍵を開ける。
 カチリと鍵が回った瞬間、床の一部が動いて、地下へと続く階段が露わになった。

「あの頃と、何も変わってない。……ルシトリアと違って、結界とかは施されていないから、私達が通っても問題ないはずだよ。行こう。兄様。時間がない」



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